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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第2章 狼の耳としっぽ、そして道連れ
21/97

第18話 「任せてもいいよね」

本日もよろしくお願いします。


明日から不定期投稿になります。

気長に更新お待ちください

「錆びて」


 エニの小さな囁きが、空気を震わせた。


 次の瞬間――。


 うろゴリの胴体に広がる鱗――その中央の少しだけがじわりと赤黒く変色し、ボロボロと崩れ始めた。


「やった……! さすがエニ!」


 私はすぐにピストルを構え、引き金に指をかける。


「お願い……当たって!」


 言霊が、魔法となる。

 銃弾はまっすぐに、錆びて脆くなった鱗の隙間を貫いた。


「HOHOォォ――!」


 うろゴリが苦しげにのけぞる。

 命中した場所から赤黒い体液がじわりと滲む。

 その場に響くのは低く唸るような苦鳴。


 それは痛みか、それとも怒りか。


 うろゴリは巨大な腕を振り回しながら、1歩また1歩と後ずさった。

 けど――決定打にはならなかった。


「これでもダメなの!?」


 手が震える。

 私の中にすでに恐怖はなく、であればこの手の震えはなんなのか。

 

 魔法を使う度、体がだるくなっていくのが分かる。

 体の芯がじわじわと冷えていく感覚。頭の奥でじんじんと鈍い痛みが響く。

 

(魔法、無限に使えるわけじゃないのね……)


 思考がじんわりと霞む。

 足に力を入れようとしても、踏ん張りがきかない。


(ダメ、倒れるのはまだ……!)


 うろゴリは体勢を立て直し、雄叫びをあげる。


(私じゃ、この魔物を倒せない)


「エニ!!」


 私は叫んだ。


「エニには指一本触れさせないから、とどめよろしく!」


 無言で頷き、手をかざすエニを見て、私はうろゴリに向き直った。


「動かないで」

 

 魔物の足が、ガクンと止まった。

 でも――それだけじゃなかった。


 ズシンと何かが肩にのしかかるような重さ。

 体の奥から何かを無理やり引き剥がされたような感覚。意識が一瞬遠のきかける。


「っ!」


 膝が震える。息が詰まる。

 まるで自分の全身を、無理やり縛りつけられたような圧迫感があった。


 魔法が自分の中にあるものを食い尽くしていく――。

 警鐘が鳴る。これ以上は危険だと本能が叫んでいる。


(今、倒れるわけには……いかない!)

 

 ここで倒れたら、エニが――。


「HOHO……?」


 うろゴリが鈍い声をあげた。

 それは疑問なのか、恐怖なのか――。

 きっと、どっちもだ。


 うろゴリはこちらを見ていない。

 エニの背後――いや、エニから溢れた何かを見ている。


 その何かが低く唸る。


 牙を剥き、喉の奥から盛れる威嚇のようなうなり声。

 それは雷が鳴る直前のような不穏な空気。

 

「エニ?」


 私は息を呑んだ。


 エニの背後に巨大な狼のオーラが浮かび上がっていた。


 目を光らせ、獲物を狩るように低く構えた狼の幻影。青白い光を纏ったその姿は神々しく、同時に底知れない威圧感を放っていた。

 うろゴリの目が大きく見開かれ、明らかに動揺してるのが伺える。

 

(このまま逃げてくれる……?)


 そう思った、その時。


「HOHOォォォォォ!!」


 うろゴリが、牙を剥いた。

 自らの体を叩きつけるようにドラミングし、金属が軋むような音を響かせる。


(違う、逃げるんじゃない……!)


「エニ、来る!」


 私が叫んだ瞬間、うろゴリはエニに向かって一直線に突進してきた。

 怯えを振り払うように自分を鼓舞するように、全力の一撃を叩き込もうとしている。


「動くな――ッ!」


 塔子の言霊が炸裂する。

 視界がぐわりと揺れ、意識が遠のく。

 全身が冷たくなるのを感じながら、それでも叫んだ。


「止まれ! 止まれ! 止まれーーっ!」

 

 叫んだ瞬間、全身を貫くような衝撃が走る。

 頭の中で何かが弾け、視界がぐわりと揺れた。


(――まずい、もう限界……!)

 

 地面が遠くなる。視界の端が白く滲む。

 鼓動の音だけがやけに大きく響き、体温が奪われていく。

 意識を無理やり引き戻し、私は歯を食いしばった。

 うろゴリの巨体がピタリと止まる。


「HO!?」

 

 動きを何度も封じられたせいで、ついにうろゴリ自身も理解したのだろう。止められることが当たり前になってしまった恐怖を――。

 うろゴリは目を見開き、歯を剥き出しにして吠えた。それはこれまでとは違う、焦燥と絶望の雄叫びだった。


「エニ!!」


 エニの目が鋭く光る。

 うろゴリの動きを確認した瞬間、彼女は両手を前に突き出し、静かに言った。


「――あたしたちの旅の邪魔……しないで!」


 雷鳴が世界を支配した。


 狼のオーラが咆哮を上げ、その形のまま雷となって一直線に飛ぶ。

 その体は稲妻で編まれたように輝きながら空を裂き、うろゴリへと向かう。

 青白い光が裂けるように迸り、雷の狼がその巨体を貫いた。


 衝撃波のように、雷が弾ける。

 地面がひび割れ、焦げた煙が辺りを包む。


 ズシン――。

 

 そこには、倒れたうろごりとゆらめく雷の残滓だけが残っていた。


(……倒した)


 その瞬間、私の足元がふわりと揺れた。

 頭の奥が鈍く痺れる。

 まるで、意識を糸で引っ張られるように――。


「――あ」


 視界の端で、エニが両手を見つめているのが見えた。


 (エニ、かっこよかった……)


 そう言おうとした――けど、言葉にならなかった。

 体の力が抜ける。足元がぐらつく。ふわりと、世界が傾いた。


 遠のく意識の中、エニが駆け寄る音だけが響いていた。

書き溜めモードに入ります。

別にモンハンをプレイするとかではないです…………

いや、プレイします。


作者の執筆モチベ向上のために評価、感想お待ちしております

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