第17話 「作れ! 私が使える武器!」
本日もよろしくお願いします。
これと、次の話を投稿したら、書き溜めモードに入りますぅ
気長に更新お待ちください
「来ないで!」
叫んだ。
それは願いであり、祈りであり、そして――魔法となった。
突進してきた巨体がピタリと静止する。
だが、それはほんの数秒。
すぐに体を震わせ、丸太のような腕を地面に叩きつけ、何をされたのか探るようにこちらの様子をうかがってくる。
「せっかく止まるなら、もうちょっと止まってくれてたっていいじゃない……!」
うろゴリの足元が深く抉れる。木々が揺れるたびに、私の心臓も跳ねた。
「エニ! 今のうちに離れよ!」
「っ、うん!」
エニは反射的に後ずさり、それぞれ別々にうろゴリと距離をとった。
その瞬間、うろゴリが咆哮を上げる。
周囲の木々が震え、空気が重くなる。
――まずい。
「吹きと――っ!」
視界の隅にエニが映った。
このまま「吹き飛べ」なんて言ったら、もしかしたらエニまで吹き飛んでしまうかもしれない。
(ちょっ、こういうときに限って都合のいい言葉が思いつかない……! もっと真面目に国語の授業受けとけばよかった!)
「……っ!」
迷った一瞬のスキを突くように、うろゴリがエニの方へ動き出した。その巨大な腕を振り上げ、エニを殴りつけようとしてる――!
「エニに触るな!」
光の壁がエニと魔物の間に現れ、魔物の拳がそのままぶつかり、火花を散らしながら弾かれる。
けれど――
光の壁がすぐにバキリとひび割れ、光の粒子となり砕け散った。
うろゴリはじろりとこちらに顔を向けてきた。どうやら、標的を私に変えたらしい。
さっきまでとは比にならないほどのスピードでうろゴリは私に突進してくる。
(まっず!)
私は反射的に 「避けて!」 と叫んだ。
叫んだ瞬間、私の体が勝手に軽く跳ね上がり、不格好に後方へ転がった。
地面をえぐるような拳の衝撃を見るに、避けられなかったら即死だった。
(……本気で殺しにきてる! 私たちが何か悪い事したってのか!)
すぐに起き上がり、私は全力でうろゴリから距離をとる。高校時代の昼休み、購買へ向かった時以来の猛ダッシュ。
エニの方へ視線を向けると、彼女はまだ怯えてる様子だったが、しっかりと立ちうろゴリを見据えている。
エニの為にも、私の為にもこいつを倒さないと……!
「武器を作れ!」
手のひらが光に包まれ、次の瞬間、ずしりとした重みが手にのしかかる。
現れたのは、豪華すぎるほどに装飾が施された長剣だった。
(おお、ほんとに出た。言ってみるもんだね)
刃は透き通るように美しく、まるで水晶を砕いて作られたかのような青白い輝きを放っている。
刃の根元には黄金細工が施され、鍔の部分には宝石が埋め込まれていた。
(なんだこの王族が使ってそうな剣……)
軽く持ち上げようとするが――。
(……なにこれ、重っっ!)
片手で持ち上げることすらできない重量。それを振り回すなんて絶対無理!
「こんなの使えない!!」
その言葉と同時に、長剣は光の粒子となり、空気中へと消え去った。
私はすぐさま「武器を作れ!」と再び叫ぶ。
今度は長剣よりも細身のシルエットが手元に現れる。
だけど――。
(なんで槍も装飾がこんなに豪華なの!!)
先端の刃は細長く、両側が鋭く尖っていて、魔物の牙のように鋭利だ。
柄の部分は銀細工で覆われ、渦を巻くような模様が彫り込まれている。
しかも――。
穂の部分には青い宝石が3つも埋め込まれていて、何かのゲームの武器みたいな見た目をしている。宝石を入れ替えると付与される効果が変わるやつね。
「ダメダメ! これも重すぎ!」
うろゴリの赤い瞳が、まじまじと叫び続けている私の手元を見つめる。
私が光を生み出してはなにかを作り、直後にそれを「こんなの使えない!」と即座に消し去る。そんな異様な光景に、うろゴリは完全に混乱していた。
「HOHO……?」
低く、地を震わせるような困惑した声が漏れる。
片腕を持ち上げ、ゆっくりと私の動作を真似るように、空を掻く。
だが、当然ながらうろゴリの手には何も生まれない。
「……?」
どうやら 「コイツ何やってんの?」 という疑問で頭がいっぱいらしい。
いや、私だって知りたいよ。
何なんだよこの武器! どうやって使うかもわからん! 次!
しばらくうろゴリは、こちらを観察するように動きを止めた。
どうやら、「意味不明すぎて、戦う前に様子を見よう」ってモードになっているらしい。
(いや、ありがたいけど……そういう感じで待ってくれるの!?)
私は急いで武器選びを続けることにした。
「えーと、えーと……ピストル! ピストルを作れ!」
瞬間、手の中にスッと馴染む感覚。
軽くて持ちやすい。これなら使えるかもしれない――!
見た目は――。
(…………結局、装飾が派手すぎる!)
黒を基調としたボディには、細やかな彫刻が施され、黄金の細工で縁取られた美しいデザインになっている。
さらに、持ち手の部分には銀と紫の石が埋め込まれ、妙に高級感を漂わせている。
(普通のやつでよかったのに! 武器に宝石埋めこむのはなんでなの?)
でも、今さら文句を言っている暇はない。
少し離れたところにいるエニの視線が痛い。
うろゴリと一緒でコイツ何やってんだと言わんばかりの冷たい視線。
「こんな豪華な装飾なんだから、威力もすごいよきっと!」
聞かれてもないのに、エニに向かってどや顔で銃を見せつけた。エニは首を傾げている。
尻尾がくねんと曲がり、疑問符のような形になり、遠くからでもその困惑が伝わってくる。
(……まあ、そりゃそうなるよね)
私はピストルを構え、引き金に指をかけた。
「……っ!」
パンッ!
「――きゃっ!」
想像以上の銃声と反動に、思わず体が跳ねる。
私は反射的に目をつぶってしまった。
(なにこれ、めっちゃ衝撃くるじゃん! 撃つ瞬間に目を閉じちゃった! バカ!)
カキーン。
澄んだ金属音が、耳をつんざいた。
「……え?」
何が起こったのか一瞬わからなかった。
「HOHO?」
うろゴリは不思議そうに首を傾げている。
うん。完全に跳ね返されたみたい。
私は息を飲み、いつの間にか隣に来ていたエニに向き直った。
「エニ……」
「……な、なに?」
「……これ、どうしよう?」
エニも、私と同じくらい困惑した顔でうろゴリを見ていた。
さっき「豪華な装飾だから、威力もすごい」とか言ってた自分を全力で殴りたい。
目の前のうろゴリの鱗は鈍く光っている。
(まるで鉄みたい……鉄?)
その瞬間、閃きが走る。同時にエニの耳がピクリと動いた。
私とエニの視線が交差する。
「エニ……!」
私が呼ぶより先に、エニは頷いていた。
言葉は交わさずとも、エニも気づいたらしい。
私たちは同時に、うろゴリへ向き直った。
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