表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第2章 狼の耳としっぽ、そして道連れ
19/97

第16話 「私はエニを信じるよ」

本日もよろしくお願いします。

「とーこ、起きて」


 肩を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、競うように伸びた木々の隙間から、まだ薄暗い空が目に入った。朝の冷たい空気が森の中をしっとりと包み込んでいる。ぼんやりとした頭を振りながら起き上がると、エニがしゃがみこんで私の顔を覗き込んでいた。


「おはよう」


 エニはそう言いながら、私の隣に腰を下ろした。


「おはよう、エニ。見張りどうだった?」

「何も出なかったよ」


 エニが軽く笑って答える。その表情はどこか誇らしげで、いつもより柔らかい雰囲気を纏っている。


「大丈夫? 眠かったら言ってね」


 私が少し心配そうに尋ねると、エニは小さく頷き、尻尾をふわりと揺らした。

 彼女の頭を軽く撫でると、エニは少し恥ずかしそうにしながらも、こちらに寄りかかってくる。


「……じゃあ、ちょっとだけ」


 彼女の小さな声に思わず笑ってしまう。他の人が見たら、ただの甘えん坊に見えるんだろうなと思いつつ、私はエニの頭に手を置き続けた。


「そろそろ準備しようか。首都に向かわなきゃ」

「……もうちょっと」


 エニは私の袖を軽く摘んだ。私は仕方なく、少しだけその時間を許してしまった。


 朝食を簡単に済ませ、首都に向けて歩き出してから半日ほど経った頃、私は周囲の空気に違和感を覚えた。森の中なのに物音がしなさすぎる。まるで何かが周囲の生き物を黙らせたかのような静けさだ。木々の葉が不気味に揺れ、生暖かい風が頬を撫でる。いつもの森の匂いとは違う、何とも言えない異臭が漂っていた。


「……なんか静かすぎない?」

「……うん」


 エニの耳がピクリと動き、足が自然と止まる。森の中に響いていた鳥のさえずりや風の音は完全に消え、どこか重苦しい空気だけが漂っていた。


「何かいる」


 エニの声が、かすかに震えていた。

 彼女の尻尾が、無意識にふわりと膨らむ。


 ――嫌な予感がする。


 エニが呟いたその瞬間、道脇の茂みが突然激しく揺れた。


「っ……!」


 エニの肩がびくっと跳ねる。

 私も思わず息を呑んだ。


 そして次の瞬間、巨大な影が茂みの中から飛び出してきた。それは、全身が銀色の鱗に覆われたゴリラのような魔物だった。

 巨大な前足で地面を叩きつけ、唸り声を上げながら真っ赤な瞳でこちらを睨みつける。


「……あれ、絶対にやばいやつだよね」


 私は手に汗を握りながら、魔物から視線を外さないようにした。


 めちゃくちゃ温厚な魔物であって欲しいけど、そんなことなさそう。顔まで鱗で埋め尽くされていて、見た目がもう強い。こんな事なら魔物図鑑しっかり読めばよかったな。


 鱗がついててゴリラみたいだから……えーっと、鱗ゴリラって呼ぼう。略してうろゴリ!


 ……うん、そんなこと考えてる場合じゃない。こっち見てる。すごく睨んでる。

 

「………………」


 うろゴリがジリジリと距離を詰めてくる。

 すんなり逃がしてくれそうにもない。


(どうしよう……戦うしかないのか)


 私はエニを守るように前に立った。うろゴリは唸り声を上げながら、さらにこちらに迫ってくる。


 心臓が早鐘のように鳴っている。

 戦うしかない。負けられない。


 ――そうわかっているのに、体がこわばる。


 深呼吸しようとしても、喉が詰まって息がうまく入らない。全身の毛穴が開くような感覚。背筋に冷たい汗が流れる。


(落ち着け、落ち着け……! 私には魔法が――)


 背後で、エニが息を呑む音がした。


「……とーこ」


 私の袖を握る手が、さっきよりも強くなっている。

 ぎゅっと握りしめられた指先が、小さく震えているのがわかる。


(エニも怖いんだ)


 当然だ。

 今まで旅をしてきたけど、実際に魔物と戦ったことなんてない。

 私だって、ハレヤカ村で倒したタイガーベアは運が良かっただけ。あれは、魔法が偶然うまくいったから倒せただけで、今回も上手くいくとは限らない。


(でも、今回は近くにエニがいる)


 エニと出会った日の夜、彼女は確かに「じゃあ、あたしもとーこを守る」って言った。

 私はその言葉を信じようと思う。

 

「……エニ、一緒に戦おう?」


 震える彼女の手を私はぎゅっとに握った。彼女の耳は伏せられ、尻尾は小さく丸まっている。

 

 でも――


 エニは小さく震えながら、ぎゅっと拳を握りしめた。少し潤んだ瞳で私を見上げる。


 「……うん、一緒に!」


 その声はかすかに震えていたけど、その琥珀色の瞳はしっかりとうろゴリを見据えていた。


「よし!」


 私はエニの手を離し、うろゴリに向き直った。


 その瞬間――

 

 地面を踏みしめる重い音が響き、うろゴリが一気に距離を詰めてきた。


 うわぁ! 来ないで!

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ