第11話 「エニが隣にいるだけで安心する」
本日もよろしくお願いします。
書き溜めのストックがなくなってきた!
近くに村があって良かった。
私はそう思いながら、ふかふかのベッドに体を沈めた。
宿屋の天井は木の梁が通っていて、月明かりが窓からやわらかく差し込んでいる。
シーツはしっかり洗濯されていて、ほんのり石鹸の香りがする。
こんなにちゃんとしたベッドで寝るのは久しぶりで、思わずうっとりしてしまった。
横を向くと、エニが私の隣で丸くなって寝息を立てている。銀色の髪が月明かりに照らされて、かすかに輝いている。
この子、さっきまで私の肩をカプカプって噛んでたんだよね。
「まさか、エニの魔法があんなにすごいなんてね……」
思わず独り言が漏れる。
滝つぼでエニが魔法を放ったときの轟音で、近くに山菜を採りに来ていた村人が驚いて様子を見に来たのも無理はない。
雷でも落ちたのかと思われたらしく、最初はすごく警戒されてしまった。
けれど、事情を話すと意外にも好意的で、「新鮮な魚をありがとう!」と、運ぶのを手伝ってくれた。
それどころか村で買い取ってくれることになり、思わぬ収入源となった。
「ほんと助かったなぁ……」
私はベッドの上で天井を見上げながら、ほうっと息をつく。布団の中でエニの寝息と一緒に、小さな温もりが伝わってくる。
――あの食事の時も、すごく嬉しそうだったな。
夕食には、取ったばかりの魚を村の料理人さんが調理してくれた。
エニは『イシナ』っていうイワナの進化前みたいな魚がお気に入りだったらしく、尻尾が期待に震えながら、一口食べるたびに目を見開いて感動していた。
普段そこまで表情を大きく動かさない子だから、あの時の驚いた顔がすごく印象に残っている。いや、最近は表情豊かな気もしてきた。
結局私の分の魚も頬張って、尻尾をぶんぶん振っていた。「美味しい?」って聞いたら、こくこくと勢いよく頷いてたな……耳もぴょこぴょこ動いて、可愛かった……。
「ほんと、今日はいい日だったな」
体の力がじんわり抜けていく。
こうしてちゃんと温かい場所で眠れるって、本当にありがたいことだ。
「……それにしても、首都の場所知らないでただ、歩いてたなんて」
私は布団をぎゅっと握る。
首都に行くつもりで旅をしているのに、方向が合っているのかも分からず、ただ北へ歩き続けるだけだった。
けれど、この村の人たちが「北西に二日ほど歩けば首都に着くよ」と教えてくれたおかげで、次の目的地がはっきりと定まった。
今まで行き当たりばったりでも平気だったのは、間違いなくエニと一緒だったからだ。
彼女がいるだけで、不安が薄れていく。
隣から、小さな寝息が聞こえる。
エニは私の方を向いて、すうすうと穏やかな顔で眠っていた。普段はどこか警戒心が抜けない子だけど、今は心の底から安心しているのが分かる。
「エニのおかげで、ちゃんと前に進んでるよ」
私は小さな声でそう呟き、そっと彼女の耳をモフった。
「……とーこ、うるさい」
エニが寝ぼけたように呟く。
ちょっとだけ眉をひそめて、モフられた耳をぴくぴく動かした。
「エニがこっちのベッドに自分から来たくせに」
私は思わず笑いながら手を引っ込め、布団を被り直した。
エニはふにゃりと目を閉じ、私の腕にしがみつくようにくっついてくる。
尻尾が布団の中でゆらゆらと揺れて、ぬくもりがじんわり伝わってきて、胸の奥がほわっと温かくなる。
(……これ、朝になったらまた二度寝コースだなあ)
そんなことを考えながらも、心地よい疲れと眠気が全身を包んでいく。
「おやすみ、エニ」
エニから小さな寝息が聞こえてきて、私はようやく目を閉じた。
外では月明かりが村を静かに照らしている――
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