第10話 「ちょっと……やりすぎじゃない?」
本日もよろしくお願いします。
川沿いを歩いていると、滝つぼを見つけた。
水が勢いよく流れ落ちるその場所は、透明な水面に魚影が見える絶好のポイントだった。
「もう、あの村から頂いた食料無くなりそうだから、今日はここで魚を取ってみようよ。食べられる魚かは知らないけどね」
「……どうやってとる?」
「エニの電気魔法試してみたら?」
エニは鉄を錆びさせる魔法の他に電気魔法も使える。私が身をもって体験した。そう、私が。
少し前。
「いったぁぁ!」
私は思わず、エニから離れた。
エニは耳を押さえて、信じられないような表情でこちらを見てくる。
「……とーこ、なにしてるの……?」
「いや、その……つい、やり返してみたくなって……」
「……」
エニはしばらく固まったまま、耳を押さえながら、口をぱくぱくさせている。
銀の耳の先が小刻みに震えている。
「……もう噛まないで……!」
耳をぺたんと伏せながら、ぷいっとそっぽを向いた。
でも、しっぽがふるふる震えてるのを私は見逃さなかった。
その様子は、まるで子猫がすねているみたいで愛らしい。
「エニが噛むのはいいのに?」
「そ、それとこれとは別!」
「えぇ~……」
私はちょっとだけ拗ねたふりをして、エニの耳をつつく。
「も、もう! そういうのもダメ!」
エニがバッと振り向く。
けれど、顔がほんのり赤くなっているのを見た瞬間、私は思わずにやりと笑った。
「ねぇエニ、今、顔赤いよ?」
「えっ!?」
バタバタと耳を動かしながら、両手で必死に顔を隠そうとするエニ。
(……うわ、可愛い)
心臓が妙にドキドキして、思わず視線を逸らす。
「……じゃあ、そろそろ歩こうか……じゃない!」
あぶない。エニが可愛すぎて本題を忘れるところだった。
「噛んだ時、なんかビリって来たんだけど」
「……ごめん。それ多分、あたしの魔法。びっくりして出ちゃった」
エニがぽつりと言った。
「エニ、電気の魔法も使えたの?」
私が驚いて尋ねると、エニは少し戸惑いながら頷いた。
「……そう。見張りを気絶させて逃げてきたの」
「そうだったんだ」
今日は言葉を失ってばっかりだ。エニがどんな思いで今まで生きてきたのかと思うと、胸が痛む。
「……もう、とーこがいるから大丈夫」
顔に出ていたのだろうか、気を使ってくれたであろうエニの頭をそっと撫でた。
「電気魔法。役に立ちそうだね」
私がエニに魚を取るのをお願いしたのは、エニの魔法がどれくらいの力が出るのか見てみたかったからだ。この先、どんな魔物に襲われるかわからないからお互いの力を把握しておくのは大事だと思う。ぶっちゃけ私が魚に「動くな」って言えば、簡単にとれると思う。ほんとに動かなくなればね。え、自信なくなってきた。私が先に魔法試そうかな。
やっぱり私が先に試そうかなと提案する前に、エニは滝つぼに向かって手をかざしていた。その瞬間、空気がピリピリと張りつめる。エニの体に淡い光が宿り、指先からチリチリと電流がほとばしり、私は思わず数歩滝つぼから離れた。これ、数歩で足りるか?
エニが深呼吸をすると、全身から電流が走り出し、銀色の髪がふわりと逆立った。さっきまでしおしおだった尻尾も、電気のエネルギーを帯びてピンと立ち、先端に小さな稲妻が走る。周囲に青白い光が広がっていく。
「すごい……!」
私は思わず、見惚れてしまう。普段は控えめな彼女だが、まるで別人のように輝いていた。物理的にも輝いている。
「……っ!」
エニが手を振り下ろした瞬間——
滝つぼ全体が閃光に包まれ、耳をつんざくような轟音が響いた。雷のごとく魔法が水面を貫き、激しい衝撃波が滝つぼを中心に広がる。水しぶきが弾け、辺り一面が蒸気に覆われた。閃光に照らされたエニの姿は、まるで雷を纏う狼のように凛々しく、私は思わず息を呑んだ。
視界が晴れると、滝つぼの周りの岩肌に焦げ跡が残り、近くの草はちりちりに焦げ、ところどころから煙が立ち上っている。
「……ちょっと、エニ?」
私が立ち尽くしているエニに声をかけると、彼女の体がビクンと跳ねた。
確かに予定通り、滝つぼの水面には魚が浮かんでいた。想定外だったのはその数だ。
おそらく、滝つぼに生息していた魚を一匹残らずやってしまった。
エニは少しふらつきながら、こちらを振り返った。
「……ちょっと力入れ過ぎちゃった」
彼女の耳が垂れ、尻尾も重たそうに垂れている。髪の毛はまだ少し逆立っていて、放電の名残を感じさせた。
(……っていうか、この威力、やばくない!?)
これ戦いになった時、弱いの私の方じゃね?
読んでくださりありがとうございます。
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