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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第2章 狼の耳としっぽ、そして道連れ
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第9話 「そろそろ噛まれてばっかりなの悔しくない? ……よし、やり返そう」

本日もよろしくお願いします。


内容少し修正しました

「エニは魔法使えるの?」


 川沿いを歩いている途中、ふとエニに尋ねると、彼女は一瞬きょとんとした表情を見せた。

 が、そのまま何も答えずに、じっと周囲を見渡しながら歩き続ける。

 

 やがて、エニが足を止めた。何かを見つけたらしい。

 

 彼女は無言のまま、草むらから何かの部品のような鉄の欠片を拾い上げた。

 それをじっと見つめると、軽く手をかざす。

 何してるの、と私が尋ねる間もなく、鉄の破片はみるみるうちに赤茶色に変わり、エニがぎゅっと力を込めると、ポロポロと崩れ落ちた。


「え……?」


 思わず息を呑む。

 エニは俯いたまま、崩れた鉄をじっと見つめていた。

 その表情はどこか暗くて、苦しげで耳が後ろに倒れている。それを見て私はようやく気づいた。


「エニ、それ……魔法?」


 小さく頷くエニ。

 銀色の髪が顔を隠すように揺れる。

 

「……足枷とか、鉄格子とか」


 ぽつりとこぼされた言葉に、私はハッとする。

 ――そうか。

 エニがこの魔法を手に入れたのは、きっと捕まってた時。

 そこから逃げ出すため、心から願って、必死で力を求めたんだ。


「エニ……」


 エニの手がかすかに震え、しっぽもしおしおと垂れている。

 私は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。


「……もう大丈夫だからね」


 気づけば、私はエニをぎゅっと抱きしめていた。

 彼女は少し驚いたようだったが、やがて私の腕の中で力を抜いた。


「絶対にもう、辛い目にはあわせないよ」


 そう誓うように告げると、エニは小さく頷きながら、私の服の背をぎゅっと握った。


「……うん」


 その小さな声を聞くと、私の中に熱が流れ込んでくる。

 私は言葉の代わりに、エニの頭を優しく撫でた。


 すると――


「……エニ、また噛んでる」


 エニは私の服越しに、鎖骨のあたりをカプカプっと甘噛みしていた。

 マーサさんの村にいた時も何度かやられているけど。服越しに噛まれるのは初めて、なんかじんわりあったかい。


 そこである疑問がよぎった。


(……狼って、噛むことでこれは自分の餌だってアピールするとかじゃないよね?)


 急に不安になってきた。食べられちゃうのか私は……!

 いやいや、まさかそんなはずは……。


 そう思いたいのに、エニはもぞもぞと鼻先を私の服にこすりつけながら、さらにぎゅっと噛んでくる。


(やっぱりマーキングじゃない!?)


 私が狼について知ってることなんて、せいぜい「群れで暮らす」とか「狩りをするときに協力する」とか、そんな程度。


 何度「スマホが手元にあれば……!」と思ったことか。

 すぐ調べられないのは本当にモヤモヤする。


 思わず動揺する私の肩を、エニがぎゅっと抱く。


「……とーこ」


 私の胸元に顔を埋めながら、くぐもった声で私の名前を呼ぶ。


「エニ……?」


 私はそっと彼女の背中を撫でた。

 すると、エニはゆっくり顔を上げた。

 でも、あまりにも体が近すぎて、顔がすぐ目の前にある。

 美人すぎる顔。微かに潤んだ瞳。ふわふわの耳。

 風が銀色の髪を揺らし、長い睫毛の下で琥珀色の瞳が揺れている。

 

 ――不意に、意識が彼女の唇へと引き寄せられた。


(……エニって、こんなに顔、綺麗だったっけ?)

 

「……はっ」


 私は急いで視線を外した。


(何してるんだ私、いったい何をしようとした?)


 エニは気づいていない。

 ほっとしたのも束の間、彼女は何事もなかったように、私の胸元に顔をうずめてきて、鼻をこすりつけてくる。


(ちょ、ちょっと待ってエニ、それはもう確実に甘えてる仕草なのでは!? いや、でも狼のマーキング的なやつなのか……? どっち!?)

 

 胸元にぴたりと押し付けられた顔の温もりが、じわじわと伝わってくる。

 さっきまで震えていたのに、少し落ち着いたみたいだ。


「……大丈夫」


 自分に言い聞かせるように、小さく呟く。

 すると、エニはさらにぎゅっと私の服を掴んで、甘えるように擦り寄ってきた。


(普段はつんけんしてるくせに、こういうときはほんとに子供みたいなんだから……)


 私は、エニの頭をそっと撫でた。


「……ん」


 微かな声が聞こえた。

 何かを言おうとしたのかもしれないけれど、それは私の胸元に吸い込まれて消えた。


(……なんか、安心してくれたみたいで良かった)


 エニがぎゅっと私の服を握る感触が、なんだかくすぐったい。

 そんな彼女の頭を撫でながら、私はふと思う。

 

(……そういえば、私、日頃からエニに噛まれてばっかりじゃない?)


 なんか悔しい。

 でも、エニは別に悪気があるわけじゃないらしいし、痛くもないからいいんだけど。

 いや、だからこそ余計に気になるというか。


 むしろエニにとっては当たり前のことなのか?

 いや、でも獣人の中でもこの文化が普通かどうかもわからないし……。

 もしかしてエニだけのクセだったり?


(いや、もういい! とりあえずやり返そう!)


 目の前には、ふわふわとしたエニの耳。

 柔らかそうで、温かそうで――。


(……よし!)

 

 私はエニの耳に、そっと噛みついた。

 思った以上に柔らかくて、温かい感触。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

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