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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第89話 「困ったモフモフたちだねえ」

本日もよろしくお願いします。

『タッグマッチ決勝トーナメント、準決勝第1試合、試合開始ぃぃぃい』


 ――パァンッ!


 試合開始の合図が鳴り響くと、コロシアム全体がぐわっと揺れるような歓声に包まれた。

 コロシアム内では水の魔法の軌跡がうねり、空中ではよくわからん魔法が弧を描く。

 それに対して、鉄の全身鎧が大剣を振り回し、応戦。


 すげえ、魔法バトルだ! 全身鎧を作って動かしたり、魔法ってすごい自由なんだな。


 ……ずび。


「…………………………」


 ああ、鎧の魔法が水の魔法でズタズタにされてる。

 それから、どうなった? ちょっと前見えない。目の前に金と赤が混ざったような髪がゆらゆら揺れて、その頭頂部の狐耳がピコピコ動いてる。


 ……ずびび。


「………………すごいなあ、さすがに。エマちゃんとシオンちゃん、戦い方わかってるって感じ」


 エマちゃんとシオンちゃんのペアは、決勝トーナメントをしっかり勝ち上がって、決勝進出をかけた戦いの真っ最中。

 私はちょっとだけうらやましい気持ちで、熱戦を見守った。


「も〜……うちのふたりは、いつまで落ち込んでるのかなあ」


 今、私の膝の上にユイカがちょこんと座って、ずびずびしてる。おかげで私は試合がよく見えません。

 エニも私の隣に座って、ぼーっと遠くを見てる。銀色の髪に、狼耳がぴたりと伏せていて、どこかしょんぼりしている。


「もう、いつまでしょんぼりしてるの? 決勝トーナメント進出できたんだからすごいじゃん!」

「……でも、負けちゃった……」

「負けましたあ……」


 決勝トーナメントのルールでは、参加者全員に「外装がいそう」と呼ばれる特殊な魔力バリアが支給される。

 戦闘時の致命傷を避けるために作られたもので、見た目には薄い光の膜のようなもので身体を包む仕組みだ。

 一定以上のダメージを受けると、それがパリンと砕けて消えてしまう。


 その瞬間、試合終了――バリアが先に壊れたほうが、負けになる。


 でもなあ。あれを負けと呼んでいいものか……。

 

 エニとユイカの敗因は自滅だった。

 試合に負けて、トボトボ帰ってきた二人になんで自滅しちゃったのか聞いたら――


「だって……バカにされたんだもん……」

「ユイカたちのことだけじゃなくて、とーこ様のことまで……」


 って今にも泣きそうな顔をしてる二人を私は撫でてあげることしかできなかった。

 何を言われたのか、詳しくは聞かなかった。聞いたら、私も怒ってしまいそうだったから。


 そう。あの試合、相手のチームは最悪だった。

 そして、怒りのままにふたりは魔法を解放してしまったのだ。


 エニは雷の狼を。ユイカは炎の狐を。それも、ただの魔法じゃない。あのふたりにとっては本気の魔法。

 雷鳴のごとき咆哮と、炎の尾を引く伝説の狐。空気が軋んだ。誰もが息を呑み、ほんの一瞬、時間が止まったみたいだった。


 結果、自分たちの外装の防御バリアが耐えきれずに、先に壊れてしまった。


 観客席からは「あの雷の牙、鳥肌たったよな」「炎の狐が吠えた瞬間、空気が揺れたよ!」「まだ子供なのに……将来が楽しみだな」と絶賛されてる。全部私の隣の席の人たちが言ってた。


 今もチラチラこっちを見てる。完全にエニとユイカのファンだねこりゃ。


 怒って、泣いて、でも、それでも。

 私はあの時、ふたりの姿を、ずっと誇らしく思っていた。

 守ろうとしてくれたのだ、私のことを。

 バカにされた私を、まるで自分のことのように。

 

 その気持ちだけで、充分すぎるほど嬉しかったのに。

 ふたりとも、勝たなきゃ意味がないってまだ泣いてる。どうやって慰めたらいいんだろう。


 ……ほんと、困ったモフモフたちだよ。

 私はふたりの頭をそっと撫でて、息を吐いた。


「ほら、反省はまた後で、今は応援しなきゃ」


 まあ、ユイカの頭で私はよく試合が見えないけど、エマちゃんとシオンちゃんが圧倒してることだけはわかる。


「うわあ、これは……」

「圧倒してる……」


 隣の人達が解説してくれるから、見えなくても大丈夫そう。

 その数分後、決着はあっけなくついた。


『勝者、エマ&シオンペアッ! 決勝進出ぅぅぅ!』


 歓声が、空を割るように響いた。

 エニもユイカも立ち上がって手を振ってる。


 エマちゃんがこっちに手を振ってくれたことで、ぜんぶ分かった。

 うちのふたりのために、勝ってくれたのだと。

 エマちゃんは、エニの友達として戦ってくれた。あの悪口を言ったチームを倒して、エニたちの無念を晴らしてくれた。

 こんな友達がいてくれて、本当によかった。

 

「バカにされて、悔しかったね」って。

「あなたたちは強かったよ」って。


 あのウィンクと笑顔には、そんな意味が詰まっていた気がする。


「ふふっ……いいお友達できたね」


 私は立ち上がり、まだちょっと鼻をすすってるふたりの頭を撫で、手を振り返した。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

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