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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第88話 「見ててね、とーこ」

本日もよろしくお願いします。


仕事がとんでもなく激務でした。


「エニ様、大丈夫ですか?」


 ユイカが隣でささやいてくる。


「うん……ちょっと、緊張してるだけ……」

「とーこ様が見てくれてます! ユイカ頑張ります!」


 ふわっと、手を繋がれた。

 魔物なのに、手がこんなに温かいんだって思った。人型だからじゃなくて、ユイカが優しいからかな。


「よーい……」


 審判が手をあげる。

 呼吸を整える。膝を軽く曲げて、指先に力を込める。

 心臓がドキドキしてる。でも、怖くない。不安じゃない。むしろ、ちょっとワクワクしてる。友達もいて、ユイカもいて、とーこが見てくれてる。


 だから、大丈夫。


 ゴォォォン!

 

 フィールドに8匹の動物型の魔法が出てきた。

 走り出した瞬間、風を切る音が耳をかすめた。

 地面が波打ち、空が遠ざかるように空間がねじれる。

 森が生え、川が流れ、空中に石の足場が浮かび上がる――まるで世界そのものが変わったみたい。

 

 これが地形を作る魔法……!


 視界に飛び込んできたのは、霧が立ち込める森、浮遊する足場、水流の坂、ぐにゃぐにゃ動く魔法の壁……!


「わっわっわっ、なんだこれ!?」

「わー! たのしいですー!」


 ユイカは飛び石の上を軽快に跳ねて進む。人型のままなのに、動きが素早い。しかも笑ってるし。

 あたしも後を追って、動物魔法の1匹が入っていった森の中へ飛び込んだ。

 遠くにチラッと見えた。まばゆい金色の鹿が、風のように跳ねながら、横切っていく。


 あれを捕まえればクリア。けど――目の前に氷でできた壁が急に現れた。


「わっ!?」

「うわー! 壁に囲まれましたー!」


 ユイカ……にっこにこじゃん。


 他のペアがわざと進路妨害してきた。

 みんな、魔法をこんな風に使えるんだ。


 そうか。そうだよね。ただの早い者勝ちの遊びじゃないんだもんね。


「ユイカ、お願い!」

「はーい!」


 ユイカはペチンと氷の壁をパンチした。


「壊れませんでしたー!」

「そりゃそうだよ!  魔法使ってよ!」


 ユイカは、たしかに! みたいな顔をした後、炎魔法で氷の壁を溶かしてくれた。

 少し出遅れたけど、大丈夫。

 

「行こ、ユイカ」

「はーい!」


 あたしたちは再び並走する。


「エニ様、上に行きましょう!」


 ユイカが指さしたのは、浮かぶ石の足場。

 あの高さ……あたし、いけるかな?


「だいじょぶです! 一緒に行きましょ! 上からの方が動物さん見つけやすいですよ!」


 そう言って、ユイカが先に駆け出す。あたしは必死で後を追って――


「せーのっ!」


 ぽんっ、と跳ねたユイカの背中に軽く手を乗せられて、あたしはひとつ高い足場へ飛び乗った。


 ――できた、飛べた!


 でも、こうしてる間に何組もクリアしていた。


 見上げたスコアボードに、何組通過か書いてある。文字読めないけど、数字の6が見える。6組クリア? 残り6組?

 いや、今は自分たちのことに集中しなきゃ。


「ユイカ、ちょっとペースあげよう!」

「はーい!」


 でも、すぐに体力が限界に近づく。魔法で妨害されるたびに軌道修正、気を取られて転びそうになる。

 あと1組です。というアナウンスが聞こえる。


 ――見つけた!


 最後の1匹。青白いような黄色いようなうさぎがぴょんぴょん跳ねてる。

 でも、待ち受けていたのは、風。


 もうみんな邪魔ばっかり。

 どうしようこんなことしてたら、先越されちゃう。とーこに見ててって言ったのに、頑張るって決めたのに。


「エニ様!」


 ユイカがにこぱと笑ってる。

 この子はいつも楽しそう。


「ユイカ達も邪魔してやりましょう!」


 邪魔。邪魔。そうだよね。

 あたしたちだって邪魔していいんだよね。


 ――いい事思いついた。


「ユイカ、他の人を炎で適当に邪魔しておいて」

「エニ様は?」

「いい事思いついちゃった」


 今、あたしはどんな顔をしてるのかな。

 ユイカが笑ってくれた。だからきっとあたしも笑ってるんだと思う。


「ユイカ火の玉いきまーす! ぽいっ!」

 

 誰にも当たってないけど、他チームがびっくりして転んだりして、「結果オーライです!」って言いながら笑ってる。

 

 あたしは手を前にかざした。

 

 この魔法使うと、とーこは手を叩いて大喜びするんだよね。だからあたしもこの魔法が1番好き。

 大好きな人が好きな、動物を作るこの魔法が。


「おいで」


 あたしの周りから10匹、いや、もっともっとたくさんの電気魔法のうさぎがフィールド内に散らばっていった。


 混乱させて、本物を見失わせる。

 

 捕まえなきゃいけない青白いうさぎとそっくりのうさぎ。でも、あたしはどれが本物かわかる。

 

 ユイカが妨害してるうちに、あたしの魔法に他の人が気を取られてるうちに一瞬で捕まえる……!

 

 この大会で勝ち上がって、何かを証明したい――そんな気持ちは、たしかにある。


 でも、それ以上に……。


「とーこに見ていてほしい」


 とーこに見てもらえるなら、あたし頑張れる。

 とーこはずっと隣にいてくれた。だから、あたしが強くなった姿を見せたい。とーこが誇りに思ってくれるような、そんなあたしになりたい。

 

 ユイカの方をチラッと見ると、あたしの魔法を元気いっぱい追いかけてる。それ、本物じゃないってば。


 そんなユイカを横目にあたしは体に電気を纏わせた。


 とーこに危ないからあんまり使って欲しくないって言われたけど、今だけは使わせて。

 

 あたしは、軽く息を吐いて、全力で駆けた。


 

 読んでくださりありがとうございます。

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