Magic8 学園入学
それから一か月ののち、私はようやく学園に入学する。
(はあ、やっと学園が始まったわ。今日まで地獄だったわ……)
学園に入るまでの間、私はベルフェルに魔法の特訓をつけられていた。私に足りないのは落ち着きだと言われれば、歯ぎしりしながらでも従うしかなかったもの。
はあ、屈辱。
何か屈辱かって?
変身を解くたびにあの言葉を言うんだから、屈辱以外の何ものでもないというものよ。なんで、こんな悪魔に感謝しなきゃいけないのよ。はあ……。
『けらけら、あんたはもうおいらからは逃れられないぜ。おいらがいる以上、あんたは簡単には死ねないしな。国を救うか、一族もろとも死ぬかのどちらかだ。けらけらけら』
無事に入学式のために学園にやって来たというのに、私の気分は最悪だった。
ベルフェルに念押しのように脅されたもの。
ただでさえ気が重いのよ。追い打ちとは本当に酷い魔導書だわ。
それで、気の重い理由はこの学園そのものなのよね。
私は魔法が使えないどころか魔力なしだもの。魔法が当たり前の世界で生活魔法すら使えない私なのよ? 肩身が狭い以外の何ものでもないというものだわ。
「あらやだ、魔法の使えないドロップ男爵令嬢ですわよ」
「いやですわ。魔法が使えないなんて恥さらし、学園の汚点ですわ」
周りからひそひそと悪口が聞こえてくる。
私の家は男爵という爵位の最下位であるので、余計のことぼろくそに叩いてくる。
あれだけ勉強したというのに、それでも認められない。それだけ魔法が絶対の国というわけなのよ。
魔法の才能がない上に加えて男爵令嬢の私は、おそらく執拗ないじめにあうのだろうなというのは想像に難くなかった。
でも、私は国の一員としてできることをするために、この学園に入る決意をしたんだもの。そんなものには負けないわ。
私が学園の敷地に足を踏み入れ、歩き始めた時だった。私の家の馬車が去った直後に、ひときわ豪華な馬車がやって来る。
誰が見てもひと目で分かるその装飾の馬車は、間違いなくこの国の王家の馬車だった。
馬車が止まると執事と思われる男性が出てきて、馬車から赤いじゅうたんが門の少し中まで敷かれる。
馬車の扉が開き、中から人が降りてくる。
その姿に学園の校門辺りの生徒たちが注目している。
そこに姿を見せたのは、まごうことなきこのセラフィス王国第一王子ミケル・セラフィス殿下だった。
「殿下もご入学されましたのですね」
「ああ、王太子殿下と同じ空間で過ごせるとは、なんと光栄なことなのだろうか」
「お近づきになりたいですわね」
「護衛騎士に、俺はなる!」
学生たちの反応は様々だった。
学園に到着したばかりの私も、慌てて殿下に場所を譲ろうとして脇に退こうとする。
ところが……。
「きゃっ!」
思わず、つまずいてしまった。
入学初日にこんなドジをするなんて、私ってば何をしているのよ!
こけて醜態をさらしてしまう。そう思った私だったが、地面に倒れ込むことは思わなかった。
「大丈夫かい?」
「は、はい……」
私は思わず顔を赤らめてしまう。
なぜかというと、私は今、殿下の手に受け止められていたからだ。
「キーッ、あの魔力なしがなんなのよ!」
周りの女子学生たちからやっかみの声が聞こえてくる。
それもそうだ。王子の手によって抱きとめられるなんて、経験することはまずありえないんだから。
「あ、ありがとうございます。お、王太子殿下」
「おや、私のことを知っているのかい?」
私が自分の足でしっかりと立ちながらお礼を言うと、殿下からそのように聞かれてしまった。
それは当然というべきだろう。魔力なしの私は式典に参加することもなく王子と会う機会はまったくと言っていいほどなかったのだから。
だからといって、この国に住んでいて王子の顔も名前も知らないというのは恥というもの。
まあもっとも、私は先日実物を目の前で見たものね、うん。
「うん、この感じ……?」
私が思わず殿下をじっと見ていると、殿下が何か不思議そうな顔をしていた。
さすがにまずいと思ったのか、私は慌てて距離を取る。
「で、殿下のお手を煩わせて申し訳ございませんでした。そ、それでは失礼致します」
精一杯に頭を下げて私はその場を逃げるように走り去っていった。慌てていたので、令嬢らしからぬ態度になってしまったけれど仕方ないわね。
それでも、周りから向けられる痛い視線から逃れるためよ。
ところが、一生懸命逃げたのに、私にすぐさま絶望が襲い掛かってきた。
「えっ……。殿下と同じクラス?」
そう、貼り出されていたクラス分けを見て青ざめてしまった。
よりにもよって、殿下と同じ成績上位が集められたクラスに割り当てられてしまったのだ。
そうだよ。私は魔法が使えないけど、それ以外はトップ成績なんだもん。そうなるわよね。
この時ばかりは、みんなを見返してやろうと一生懸命勉強したことを悔やんだ。
だって、学校にやって来るなりあんな事になったんだもん。目立って仕方ないというもの。
その状況に加えて、他の学生からはひたすら目の敵にされている状況。本当に何があるのか予測できなくなってきた。
「やあ、今朝の君、まさか席が隣とはね」
追い打ち!
入学式を終えて教室に入って席に座ると、私の隣は殿下という信じられない事態が待っていた。
「筆記試験満点の君には期待しているよ。アンジェ・ドロップ男爵令嬢」
名前まで憶えられてる!
ああ、これから私の学園生活は、一体どうなってしまうというのよ……。




