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魔法令嬢ティアローズ  作者: 未羊


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Magic76 退屈なお城から抜け出して

『おい、変身しろ』


 次の週末を迎えた日、朝起きるとベルフェルはこんなことを言ってきた。


「もう、朝から事件なの?」


 ベルフェルが変身しろなんて言う時は、何かしらの問題が起きた時だけだった。なので、せっかくの目覚めを台無しにされた気分だわ。

 ところが、ベルフェルの口から次に飛び出た言葉に、私は思わず耳を疑ってしまう。


『城の中はつまんねえだろ。変身してちょっくら出かけてこい。問題が起きてたらおいらが知らせてやるからよ』


「えっ?」


 まさかの息抜きの提案だった。


『最近は問題を起こす連中がおとなしいからな。ああ、事件自体はおきてるぜ。ただ、国に対して影響のない小さなものがな。おいらたちが手を出すまでもない』


「意外と冷淡なのね」


『当たり前だ。おいらの使命は国を正しく導くことさ。乱そうとする連中には容赦ないし、関係ないことには驚くほど無関心なのさ』


 ベルフェルの言い分に、私は自分で言うかとツッコミを入れておく。とはいえ、心の中で思っただけでもベルフェルには筒抜けなんでしょうけどね。

 とはいえ、ベルフェルも気遣いはできる方だから、興味がなければ無視してくれる。


『それに、それを達成するにはあんたにも元気でいてもらわねえと困るからな。城に閉じ込められて生活は嫌だろう? おいらが代わってやれるなら代わってやるさ』


 ベルフェルの提案にすぐに乗りそうになってしまうけれど、すぐさま思いとどまる。

 この魔導書のことだ。絶対何か裏がありそうで仕方ないのよ。


『おいおい、ずいぶんと疑り深いな。おいらはただあんたにちょっと気分転換してほしいだけなのによ』


 そりゃまあ、日頃の行いがね。

 私はそう言ってやりたいけれど、ひとまず言葉を飲み込んでおいた。

 ひとまず落ち着いた私は、朝食を食べてからとだけ答えておく。

 ベルフェルもしょうがねえなといって、しばらく黙り込んだのだった。


 朝食が終わると、早速変身。

 相変わらずの短いスカートが恥ずかしい。普段のドレスは足首くらいまで丈があるから、膝上というだけで恥ずかしすぎる。

 でも、ティアローズになれば好きな姿に変身できるから、すぐにその恥ずかしさも解消するのよね。


「まったく、女性だとみんなそういうんだよな。その姿にはしゃいでくれたやつは一人もいなかったぜ」


「いや、当然の反応でしょ」


 ベルフェルの言い分に、即座に私は指摘をしておいた。


「まあいいや。今日はおいらが代わりに対処しておいてやるから、あんた久しぶりの王都を満喫してくるといいぜ」


「うん、ありがとう、ベルフェル」


 お城から出かけられると思うと楽しくて仕方がない。


「今日は学園は休みなんだろ。人のいなさそうな部屋に瞬間移動すればいい。もうあれだけ使ったんだから、イメージはつかめてるだろ」


「えっ、もしかしてティアローズの能力は変身も含めて常に使えるってこと?」


「そうだよ。あんたが力の使い方になるまで、きっかけを与えてたに過ぎないんだぜ?」


「なんてこと……」


 ベルフェルから告げられた内容に、私はがくりと膝から崩れ落ちた。それだけショックが大きかったのよ。


「そこまで落ち込むなよ。慣れない力を無理やり使うと失敗するんだからよ」


「そうだけど……」


 私はそのまま床に伏せてしばらく泣いていた。


 ようやく気持ちの落ち着いた私は早速ベルフェルに代わりを頼むと、瞬間移動で城から脱出する。

 ここのところ学園との往復以外で外には出たことがないので、いい気分転換になりそうだと思う。

 私が移動先に選んだのは学園ではなく、王都の人目につかない路地裏。

 学園だと魔法に詳しい人がごろごろいるので、休みの日とはいっても油断はできないと思ったからよ。

 それに比べて平民たちであれば、魔法は使えてもそれほど魔力の感知が得意ではない。人一人増えたからって気付かれる可能性が低いというわけよ。

 だけど、ティアローズの顔って私そのものだから、髪色や身長が違っても多分気が付く人は気が付く。ひとまずは仮面で顔を隠しておかなくちゃね。

 あとはもうひとひねりかしら。

 仮面を着けたとはいえ、この服装はかなり目立って仕方がない。


「いや、冒険者ならこれくらいでもいいかしらね」


 服装を変えようと思った私だったけど、ふと思った。

 騎士や兵士たちとは別に、商人たちの護衛を請け負ったり、魔物を討伐したりする冒険者という存在を。

 話に聞いただけなので確証はないけれど、冒険者であるなら今の私くらいの服装の人はそれなりに存在しているらしい。動きやすさ重視ってことなのかしらね。

 ちなみにこれ、ベリル様からの情報よ。彼女とは結構いろんな話をしていて、家の領地に向かう際に冒険者を雇ったこともあるらしいもの。

 開き直った私は、変身した時の姿に仮面を着けただけの状態で外へ出ていこうとする。

 そうやって王都の街路に出た瞬間だった。


「きゃっ!」


「えっ!?」


 何かがぶつかった感触があり、誰かの声が聞こえる。


「あ、危ない」


 自然と体が動いて、声の主をさっと受け止める。

 私の目の前には、なんだか見たことのある少女の姿があった。


「ティアローズ様……」


 私の変身した時の名前を呼ぶ少女。

 そう、彼女はいつぞや助けた貴族の令嬢だった。

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