Magic6 ミケル王子
セラフィス王城。
「殿下、よく戻られました」
「ウリルか。こちらは何もなかったかい?」
「はい。城の中は特に問題なしでございます」
ミケルの問い掛けに、ウリルと呼ばれた男性が淡々と答えている。
「殿下、何かございましたでしょうか」
「ああ。侍従であるお前を連れていかなかったのは悪かったが、視察の帰りに賊に襲われたんだ」
「なんですと!? くっ、私が別件を押し付けられたばかりに、殿下を危険な目に遭わせてしまうとは……」
ウリルはわなわなと震えながら拳を強く握りしめている。よほどミケルを危険な目に遭わせてしまったことが悔しいのだろう。
しばらく悔しがると、ミケルに状況を確認する。
「殿下、よくご無事でございましたね」
「ああ、見知らぬ騎士が助けてくれたからね。しかしだ。今回の護衛どもはちょっとばかり罰が必要なようだな。馬を射られて慌てていたとはいえ、護衛としてほとんど役に立っていなかった。いくらなんでもおかしいというものだ」
「むむむ……」
一気に情報が流れてきたことで、ウリルの表情が険しさを増していた。状況がいまいち把握しきれないのだ。
しばらく考え込んだウリルだったが、なんとなくではあるものの情報を飲み込むことができた。
「では、今回の護衛を一人ずつ尋問いたしましょう。もしかしたら、裏にいた人物や賊との関係性も把握できましょうから」
「ああ、頼んだよ。学園に通う前の大事な時期だ。心配事は少しでも減らせるに越したことはないからな」
「承知致しました。早速手配いたします」
ウリルがミケルと別れて騎士団の詰所へと向かう。
ミケルは一人自室へと戻っていく。
自室に戻ったミケルは、すぐさま椅子に腰掛ける。大きくもたれ掛かりながら、手を目の前に当てている。
「はあ、今回ばかりはさすがに危なかった。騎士たちを信じて動かなかったが、あのようなことになるとはな……」
自分が賊に襲われた状況を思い出しながら、ミケルは気が重くなってくる。
「それにしても、助けに入ってくれたあの女騎士は一体誰なんだ。ティアローズ……、聞いたことのない名前と見たことのない女性だったが、あの身のこなし、ぜひとも欲しいものだな」
ただ、それを差し引いても、自分を助けてくれたティアローズのことが気になって仕方がない。
大きな盾を持ち、さらには大勢の賊に囲まれても対処できるだけの身のこなしと剣の腕前なのだ。王子であるミケルが惚れこむのも無理はないというものだった。
ティアローズの活躍があったからこそ、護衛の騎士たちの動きの悪さがさらに目立ってしまう。
その時のことを思い出して少々ばかり上の空になってしまうミケル。惚けているとドアが突然ノックされる。あまりにも急だったので、ミケルは少々慌ててしまう。
「殿下、ウリルです。騎士団長に言いつけて戻って参りました」
「ああ、ウリルか。入ってくれ」
どうにか姿勢を正したミケルは、落ち着いた様子でウリルを招き入れる。
ウリルは部屋に入ってきちんと扉を閉めると、ミケルの隣までやって来る。
「騎士団長に報告をして参りました。この件はきちんと調査した上で殿下に謝罪をなさるそうです」
「そうか。あとで私の方からも申し入れをしておこう。馬車の中から一応動きは見ていたのでね」
「左様でございますか。その際には私もご同行させて下さい。殿下の周りは危険にあふれておりますので」
「ああ、その時は頼むよ」
騎士団のことで話を終えると、ミケルはひと息をつく。
その時のミケルの様子に違和感を感じたウリルが、思わず声をかけてしまう。
「どうなさいましたか、殿下」
「いや、ちょっと気になることがあってね」
ミケルの表情に、表情が険しくなるウリルである。
「殿下、侍従である私のことが信じられませんか?」
「いや、そういうわけじゃない。……そうだな、お前にだけは話しておくか」
さすがに腹心たる侍従に話さないのはよくないかと、ミケルは襲撃の際にあったことを話すことにした。
「ティアローズ、でございますか」
「ああ。剣と盾を持った女性の重騎士だったよ。髪の色は濃いピンク。赤色といってもいいくらいで、顔には仮面を着けていた」
「ずいぶんとしっかりと見てられますね」
「私を賊たちから守ってくれたからな。その身のこなしと剣捌きは、忘れようと思っても忘れられないよ」
そう話すミケルの顔は、少し赤くなっているように見える。ウリルはその顔に思わず気付いてしまって、複雑な気持ちになった。
「なるほど、私にそのティアローズの情報を探れ、そう仰られるのですか」
「いや、まぁ……そういうことだな。一応この国の貴族の名前はすべて頭に入れているつもりだ。だが、ティアローズという名前は聞いたことがないんだ」
手を組んで膝の上に置き、どことなく憂いを秘めた表情を見せるミケル。その姿を見てウリルはつい指を立てて額に当ててしまう。
「はあ、お気持ちは分かりますが、女性に熱を上げるのはよろしくありませんよ。殿下にはすでに婚約者がいらっしゃるのですからね」
「うっ。ああ、そうだったな……」
「殿下はいずれこの国を導いていかれるのです。女性にうつつを抜かすような余裕がございませんので、どうか早めに忘れることをお勧めします」
ウリルは辛らつだった。
だが、ティアロースを忘れられないミケルはだいぶ渋っていた。
「はあ、分かったよ。そうだな、私はこの国の第一王子なんだからな」
「ご理解いただけてありがたく思います。それでは、今回の視察の報告書を作るために準備をしますので、しばしお待ち下さいませ」
ウリルがそう言って部屋を出ていくと、ミケルは再び天井を見上げていた。
「ああ、ティアローズ。君は実に鮮烈に私に印象を残していった。また、会えるだろうかな……」
どうやらミケルは、ティアローズに一目惚れをしてしまったようである。
はてさて、王子の初恋の行方はどうなるのやら……。




