Magic43 格の違いというもの
お父様の仕事を手伝うようになってから迎えた最初のお休みの日。
私はアリエル様のお屋敷に、ベリル様と一緒に招かれていた。
「ようこそおいで下さいました、アンジェ様、ベリル様」
「お招きいただきありがとうございます、アリエル様」
私たちは王都の公爵邸で挨拶を交わす。
さすがに殿下から構われ続けているので、他の女子学生たちとは少し面倒にはなっている。けれど、公爵令嬢であるアリエル様と仲良くさせて頂いていることで、私の周りは比較的平穏な状況が続いていた。
私の家を狙ってくる人たちはいるけれど、ベルフェルの能力のおかげでどうにか退けられている。
……ベルフェルに感謝するのは、本当は癪なんだけどね。
とりあえず、アリエル様たちとのお茶会なので、今日のところはベルフェルの事は忘れておきましょう。
今日も天気はいいので、庭園でのお茶会。
公爵邸のお庭はさすが管理が行き届いていて、ものすごくきれいだった。うちの庭とは大違いだわ。
……いえ、私のお父様も国の大事なお仕事をしていますからね。お金はそこそこあるんですよ。でも、男爵という爵位の影響もあって、あまり人が雇えませんでしてね。少ないながらにも庭の維持はちゃんと行っているけれど、さすがに公爵邸と比べるとみすぼらしいというものだわ。
庭園にある四阿には、すでに公爵邸のメイドたちが待ち構えている。私たちが庭にやって来るタイミングでセッティングが終わるようにしていたようだ。
「お嬢様、準備終わりました」
「ご苦労様」
メイドがいうと、まずはアリエルが腰を掛ける。
「さあ、お二方ともお掛けになって」
アリエルの声で、私たちもテーブルへと近付いていく。
「それでは、失礼致します」
私たちの動きに合わせて、メイドたちが椅子を動かしてくれる。
ちゃんと腰を沈めると同時に椅子を差し込んでいく。これが公爵家のメイド……、さすがすぎる。
「では、ごゆっくりお楽しみください」
お菓子やお茶を持ってきてくれたメイドたちが去っていく。
私たちの周りにいるのは、私たちのメイドと護衛のマリアンヌの全部で七人だ。
お茶会のセッティングが終わると、アリエル様が私の方を見てくる。一体どうしたのかしら。
「アンジェ様」
「はい、なんでしょうか、アリエル様」
アリエル様に声をかけられたので、私はつい背筋を伸ばして反応してしまう。
「最近お疲れのようですけれど、一体どうなさりましたかしら」
「えっ?」
「アンジェ様、そうなのですか?」
アリエル様に指摘されて、私はつい驚いてしまう。ちなみに私の侍女のサリーと護衛のマリアンヌも驚いている。
ただ一人、ベリル様だけが気が付いていなかったようだ。だって、ベリル様の侍女もまったく動じていないんですから。
「ええ、授業中も少し眠たそうにしておられましたからね。殿下も気になさっていたようですよ」
「えっ、嘘ぅ……」
指摘されて、私はつい顔が赤くなってしまう。恥ずかしいったらありゃしない。
「うう、面目ないですわ」
恥ずかしさのあまり、私は俯いてしまった。
「実はですね。将来的に文官を目指していますので、お父様や家令に頼んで実務を教わっているのです」
「まあ、そうでしたのね。アンジェ様ってば勤勉ですわね」
「ええ、私は魔法が使えませんから、それでもできる仕事をと思いましてね」
「あれだけ蔑まれながらも頑張ろうだなんて、私、感動致しましたわ」
「……ベリル様?」
ベリルがつい口に出してしまった言葉に、アリエル様から冷たい微笑みが向けられている。
「し、失礼致しました。いけませんね、友人になりましたのに……」
ベリル様は反省しながらお茶を飲んでいる。
「仕方ありませんよ。魔力なしなんて、魔法が当たり前のこの国からしたら、汚点でしかありませんからね」
散々子どもの頃から言われてきたので、私は慣れっこだ。だからこそ、私は社交の場から引き離されたんだけどね。
そういう経験があるせいで、ベリル様の言葉にも実に冷静でいられた。
「大人ですわね、アンジェ様。でも、無理はなさらないで下さいませ」
「ありがとうございます。ですが、私は私にできることをするしかありませんから、文官になるために努力は続けます」
「ご立派ですわ」
「うう、私も見習わなくては……」
ベリル様は対抗意識を燃やしていた。
彼女は伯爵令嬢。爵位だけなら私の二つ上だものね。
でも、私がここまでやる気になるのは、男爵位と魔力なしという二点があるからこそ。特に魔力なしは平民にも劣る事実だし。
そんな私相手でも、こうやって心配して下さるアリエル様のお人柄。やはりこういう方の方が王妃様には向いていると思う。
まったく、いくら第二王子の婚約者になっているからとはいえ、なんでミケル殿下はアリエル様を無視して私に絡んでくるのかしら。理解ができないわ。
心遣いが嬉しい一報で、更なる疑問は深まっていく。
とはいえ、せっかくアリエル様に誘って頂いたお茶会なので、ミケル殿下のことはひとまず忘れてゆっくり楽しむことにしたのだった。




