Magic20 休日の誘い
ベルフェルと話をした翌日、少しは気が楽になったものの、やっぱり学園に通うのは憂鬱だった。
正体がばれて殺されるよりは、学園での嫌がらせの方がまだマシだからかしらね。
とはいえども、学園内では殿下と学園による二重の庇護がある。そこまで陰湿で直接的な嫌がらせというものはなかった。
学園に通いながら、王国の危機に立ち向かう。はあ、私にできるのかしらね。
いろいろと気が重くなりながら学園を過ごした私だったけど、ようやく最初の休日を迎えた。
『おや、今日は学園にはいかないのか?』
珍しく部屋でごろごろとしている私に、ベルフェルが声をかけてくる。
「そうよ。今日は学園の休日。学園って五日間通って二日間の休みがあるの。この七日間は、この国の定める生活のサイクルなのよ」
『ほぉ~』
「って、この国の守護者みたいなものなんでしょ。なんで知らないのよ」
『おいらはそんなものに興味がないからな。第一、そういうきれいな生活パターンを持った人物を主としたことがねえからよ』
「そんなものなのね……」
予想外な答えに、私はそういうものなのかと納得した。
「お嬢様、何をお一人でぶつぶつ言ってらっしゃるのですか?」
「あっ、サリー。なんでもないわよ」
っと、忘れていたわ。今はサリーが部屋でいろいろ作業をしているんだった。
ちなみにだけど、マリアンヌは自己鍛錬中。前日の賊の一件があったけれど、この一週間は特に何も起きていなかったので、私が自分の時間を持ってみたらと一時的に離れさせたのだ。
そしたら、休むかと思ったら鍛錬を始めてしまった。騎士っていうのはこういう人ばかりなのかしらね。
私がしばらくゆっくりしていると、扉が急に叩かれる。
私が反応するより前に、サリーが応対をしていた。何かを受け取ったサリーが私のところにやって来る。
「お嬢様、お手紙のようです」
「ありがとう、確認するわ」
私はサリーから手紙を受け取り、封を開ける。蜜蝋を見るだけでも、嫌な予感しかしなかった。
『くけけけ、面倒そうな状況のようだな』
「正解。お茶会の誘いよ」
手紙を勢いよく膝の上に置く。
「公爵令嬢相手じゃ、断るにも断れないわ。しかも、第二王子の婚約者かぁ……」
ベッドにあおむけになって、私はものすごく悩む。
第二王子ラファル殿下の婚約者が相手となると、断ればおそらく側室にも連絡がいく。そうなると、私は敵を見られかねない。
うーん、家には迷惑はかけたくないから、これは、出かけるしかないわね。
「サリー、着替えをお願い。お茶会を受けます」
「畏まりました。では、先触れを出しておきますか?」
「そうね。でも、それは着替え終わってからでもいいと思うわ」
「承知致しました。では、すぐにお洋服の準備を致します」
サリーが部屋を一度出ていく。
戻ってくるまでの間に、私はベッドから降りてドレスを確認する。
『思ったより種類があるな』
「でしょ。私が頑張ってきた勉強の結果よ」
『勉強でドレスは買えねえだろ』
「その通りよ。でも、私が学んできたことは領地経営の役に立った。それによって税収が増えて、これだけのドレスが持てるまでになったのよ」
『なるほどな』
私の説明を聞いてベルフェルも納得していた。
私がドレスを見ていると、サリーがマリアンヌを連れて戻ってきた。思ったより戻ってくるのが早い。
「おや、お嬢様お一人でお選びでしたでしょうか」
「え、ええ。でも、よく思えば、私ってばお茶会に誘われるのが初めてで分からないわ。二人なら分かるかしら」
サリーが質問をしてくるので、私は困った顔をして返事をしてしまった。
そしたら、二人が顔を見合ってから私に笑顔を向けてくる。
「承知致しました。私たち二人で、お嬢様をきちんと仕立てて差し上げます」
「記念すべき初めてのお茶会ですものね。ふさわしいドレスを選んでみせましょう」
サリーもマリアンヌもかなり気合が入った顔をしていた。
これってもしかして、言葉を間違えたかしらね。
結果、私は二人にされるがままに着替えさせられることになってしまった。
「さあ、これでどうでしょうか」
「こ、これが私?」
サリーたちの手によって、見事私は変身してしまっていた。
ベルフェルの力による変身とは、また違った変身だわ。姿見の中の自分に、思わず自分が見惚れてしまう。
「相手は公爵家です。もちろん、公爵令嬢様を食ってしまうわけにはまりませんが、こちらもみすぼらしいわけには参りません。このくらいがちょうどよいと思われますよ」
「へぇ……。次からの参考にさせてもらうわ。というか、この手の本も読み漁った方がいいかしら」
「ん~、お嬢様。その手の本は多分存在しませんよ」
「どうして?」
「令嬢のマナーというものは、伝聞で受け継がれていくものです。それを分かりやすくまとめた本は、あってもおそらく学園の中だけかと」
「学園ね。分かった、次の登校日にでも確認してみます」
本があるのではと聞いて、私が燃えないわけはなかった。本を読むのは好きだものね。
それよりもまずは、公爵家でのお茶会。
ドレスを着飾った私は、用意された馬車で早速公爵家に向かうことにしたのだった。




