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Magic2 始まりの日

 あれは、半年くらい前だったかしら。

 私、アンジェ・ローズが王都にある学園に通うことが決まった日のことだった。その日も私は勉強に明け暮れていた。

 その日のことを語る前に、ちょっとばかり状況を説明しておかなきゃね。

 王都の学園は、セラフィス王国の貴族が十三歳になると通うことになる学園。王国の貴族の義務であるので、家柄に関係なく通わなければならない。

 なのに、学園に通うことが決まるという状況には特別な理由があったのよ。

 実は、私アンジェ・ローズは王国民誰もが、それこそ平民に至るまで持っているとされる魔法の素養がまったくなかった。

 親の爵位は男爵ということもあって、私は落ちこぼれの出来損ないと、それは幼い頃から蔑まれてきたわ。救いだったのは、両親も使用人たちも私のことを大切に思っていてくれたことかしらね。

 しかし、その魔法が使えないことは絶対的に不利な状況としか言えない。実際、学園に通う義務を免除という体での不当な差別すら受けかけていた。

 その動きを跳ね返したのは、私が猛勉強の上で身につけた様々な座学知識。法律から簿記、戦術に至るまであらゆる学問を学んできたのだ。それで、筆記試験を受けて見たら見事満点。その結果、学園に無事に通えることになったというわけ。


 通知を受け取った私は、部屋でしばらくその書類を眺めていた。


「はあ……。魔法が使えないというだけで、国民扱いすらさせてもらえないなんて、本当に酷い話だわ。受ける必要のない試験を受けなきゃ入れないなんて、平民でもありえないわよ」


 私は自分の置かれた境遇に深くため息を吐くしかなかった。

 ちなみに、この屋敷の中でも私以外のみんなは普通に魔法が使える。程度も様々だけど。まったく魔法が使えないのは私だけだった。

 しかし、魔法の使えない私しか子どものいない両親は、本当に肩身の狭い思いをしているだろうと思う。

 私は魔法が使えないからこそ、他のことで役に立とうと必死になっている。こんな私でも大切にしてくれている両親や屋敷のみんなのためにもね。

 よしっと気合いを入れ直した私は、更なる勉強をするために、屋敷の書庫へと向かっていく。

 魔法の使えない私のために、十分な勉強の環境を整えようと両親が王国中はもとより、周辺諸国からも本を買いあさってくれていた。

 そのおかげで私の屋敷の書庫には、王国の図書館が所蔵する書籍よりも圧倒的に多い冊数の本が収められている。

 まだ見ぬ王国以外の国に思いをはせるのは、実にいい気分転換になるというもの。

 魔法が使えないというだけで、王国の式典に貴族のお茶会、そのすべてから追い出されている私にはこの書庫が世界のすべてといったところだわ。


「あ、お嬢様」


「なにかしら、サリー」


 書庫に向かう途中、私の侍女であるサリーとすれ違う。


「今日も書庫でございますか?」


「ええ、そうよ。私には勉強しかないんだからね。それじゃ、夕食になるまで放っておいてくれないかしらね」


「承知致しました。ですが、くれぐれも集中しすぎないで下さいね。お嬢様ってば呼んでも反応しない時がございますから」


「あは、あはははは……」


 サリーに注意されて、私は頬をかきながら照れ笑いをしたのだった。

 仕事に向かう侍女のサリーと別れて、いつものように私の家ドロップ男爵家の自慢の書庫へと入っていく。元々空き部屋だった場所を改装したもので、隣り合う二部屋の壁に扉をつけて行き来できるように改装してある。

 その二部屋は、自国の書物と他国の書物という形に分けてある。

 今日は自国の書物の部屋に入る。

 他国の本は取り寄せるための手続きが面倒なので数が少ない。それに比べて自国の本はその気になればすぐに集まってしまう。見慣れない本が増えていないかチェックも兼ねて必ず最初に入るというわけ。

 今日は自分が使えない魔法に関する本でも読もうかと思って、私は本棚へと近付いていく。

 本を集め始めた最初の頃は、私が使えないということもあってか、魔法に関した書籍は意図的に集められていなかった。

 でも、魔法が当たり前に存在する国に住んでいるのに、魔法に関してまったく知識がないというのも困るというもの。私は無理やりお父様に言って、魔法に関する本も積極的に集めてもらった。

 魔法に関しても、知っているのと知らないのとでは対処がまったく変わってきてしまう。知っていれば魔法が使えないとは、冷静に対処法を考えることができると思うもの。他人任せにはなるだろうけど。


「あら?」


 本棚に並ぶ本を指でなぞりながら見ていると、途中で妙な感覚に襲われる。


(なんだろう。上の方から何かを感じる……)


 魔力のない私だというのに、何かに引きつけられる感じがするのだ。

 私は室内にあった踏み台を持ってきて、本棚の上の方へと手を伸ばす。


「う……ん、と、届かない……」


 精一杯に手を伸ばしても本に手が届かない。


(ええい、お行儀が悪いけど、こうするしかない!)


 何を思ったか踏み台から跳び上がって本につかみかかる。


(よし、届いた!)


 本をつかんだのはいいものの、うっかり着地にミスってしまった私は、そのまま踏み台を踏み外してしまう。


(な、なんの!)


 根性で着地を決め直したのはいいものの、肝心の本は手を離れてしまっていたし、バランスが悪くて私はよろけてしまう。


「わわわっ、わーっ!?」


 そのまま本棚に肩から体当たりをしてしまい、結果、抜き取ろうとした本をはじめとして、様々な本が私目がけて降り注いできた。


 私、大ピンチ!


 思わず身構えてしまった私だけれど、次の瞬間不思議なことが起きたのだった。

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