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魔法令嬢ティアローズ  作者: 未羊


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182/240

Magic182 混乱の建国祭

 国王陛下、王妃殿下が歩み出ていく後ろから、ミケル殿下と私、ラファル殿下とアリエル様が登場する。

 王族と同時に登場するなどという名誉なこと、魔力なしの私がいたものだから、会場からは大きなどよめきの声が聞こえてくる。

 少し高い場所にいるせいか、パーティー会場の中は思った以上に見渡せるみたい。

 ベリル様とガブリエラが喜んでいる姿はよく見えるわね。ああ、ベリル様が今にも泣きそうにしているわ。

 それ以外にも、悔しそうにしている令嬢たちの姿があちこちに見える。ミケル殿下の隣にいるものだから、婚約者になったと早とちりされているのね。まったく困ったものだわ。

 ため息をついていると視線を感じる。ちらりと顔を向けると、ミケル殿下が私を見て笑っているじゃないの。まったく、不愉快なのでやめてくれませんかね。

 場所が場所なので、口に出して言えないのがつらいというものだわ。


 パーティーは最初の国王陛下による挨拶が行われている最中。

 私は緊張した様子で会場を見渡している。

 緊張の理由は二つある。

 ひとつは、単純に王族と一緒にいて、国中の貴族から注目を集めていること。慣れないから本当に緊張がすごいわ。

 そして、もうひとつは側室たちの動き。いなくなった側室の妹であるルクスリアが、もしかしたら来ている可能性だってあり得る。

 今年は王妃様が目覚めて、王室の環境が大きく変化した時だもの。となれば、なんとしてもかき乱そうとしてくる可能性はとても否定できるものではないもの。


「緊張しているのかい、アンジェ」


 小さな声でミケル殿下が語りかけてくる。

 思わず体が跳ねてしまう。


「ええ。ご存じの通り、私は社交の場に不慣れですので、こういう場はちょっと……」


 もっともらしい理由を話しておく。


「それだけじゃないだろ?」


「えっ?」


 ミケル殿下が発した言葉に、私は思わず驚いてしまう。

 社交界に不慣れなことだけで納得してもらえると思ったのに、これは意外な反応というもの。時々ミケル殿下が怖く思えてしまうわね。


「ラファルの母上と、ルクスリアを警戒しているのだろう? 本来なら、側室もこの場には出てこれるはずなんだが、今回に限っては気分がすぐれないと出席を断ってきたんだ」


「そうなのですか。初めて知りました」


 本当に初耳だわ。

 そうか、側室とはいえども、国王陛下との間で子をなしていれば、出席の権利が発生するというわけなのね。

 でも、王族ではないから義務ではない。だから、今回のように断ることもできるというわけか。なるほどなるほど。

 なんとなく、セラフィス王国の王族のしきたりというものが分かってきたわね。


「では、殿下とパートナーによるダンスを披露して頂きましょう」


 あーだこーだと話している間に、国王陛下のお話が終わってしまっていたわ。

 ついに来ちゃったのか、この時が……。


 私は気難しい表情で、ミケル殿下と一緒に前方へと歩み出ていく。それに続くように、ラファル殿下とアリエル様も歩み出てくる。

 会場内に集まった貴族たちの視線が集まる中、私たちは向かい合っている。

 私たちがそれぞれにダンスの始まりのポーズを取ると、音楽が鳴り始める。

 楽団による生演奏。

 優雅な音楽が鳴り響く中、私たちは踊り始める。

 ただ、私はミケル殿下と踊ったことが今回で二回目という状況よ。前回のダンスは、学園の新入生歓迎パーティーでのことだったわね。

 ところが、驚いたことにとても踊りやすかった。

 一応、社交界に出ることを想定してダンスの練習自体は行ってきたけれど、まさかぶっつけ本番という状況でこれほどまでに踊りやすいとは思わなかった。


(これは、ミケル殿下のリードが私に合っているということよね)


 こう思えるくらいにミケル殿下のリードは完璧だった。次にどう動けばいいのかがよく分かる。

 なんとも不思議な時間だった。

 王族の相手なんてするものじゃないわと思っていたけれど、これほどまでに気持ちよく踊れているのなら、もう少し続いてもいいかななんて思ってしまう。

 まるで夢心地のような時間も、終わりを迎えようとしている。

 ところがその時だった。


「キャーッ!」


 どこからともなく悲鳴が上がる。


「なにごとだ!」


 悲鳴に反応して国王陛下が叫んでいる。


「影です。影の兵士が襲撃を仕掛けてきました!」


「なんだと?!」


 報告に来た兵士の後ろから、影の兵士たちがパーティー会場になだれ込んでくる。

 悲鳴は、急に兵士が入ってきたことによって起きたようだ。


「ふふふ……、案内ご苦労さま」


「ルクスリアか!」


 影の中から、一人の女性が姿を見せる。

 あれは忘れもしない、ブレイズ伯爵夫人ルクスリアだ。


「お前はブレイズ伯爵夫人。行方不明になったと聞いていたが、気でも触れたか?」


「いいえ、私は正気ですよ。長年用意してきた計画を潰されましたので、そのお礼にと」


 ルクスリアは妖しく笑っている。

 姿自体はどことなくボロボロなのに、その美貌はまったく失われていない。


「ルクスリア! よくも我が領地に泥を塗ってくれたものだな!」


「あら、誰かと思えばブレイズ伯爵ではありませんか。ふふふっ、うまく利用されてくれた、どうもありがとう」


 薄気味悪い笑顔を浮かべるルクスリア。

 だが、パーティー会場の中では、ルクスリアが率いてきた影の兵団が貴族たちに襲い掛かっている。

 一部の貴族は応戦しているものの、相手は実体のない影ゆえに苦戦は免れそうになかった。


「ふふふっ。さあ、影たちよ。このパーティーをもっと盛り上げておあげなさい!」


 会場にはルクスリアの笑い声が響き渡ったのだった。

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