Magic141 謎の通達
私の横にはうずくまる商人。周囲には剣を構えた国境兵もどきが十数人。
よく見てみると、全員が全員剣を構えているようではないみたい。
さて、この十数人をどうやって相手しましょうかね。
とにかく私は対処を考える。
「商人のみなさんはとりあえず攻撃にさらされないようにっと……。えいっ!」
私が手を掲げて指を鳴らせば、商人たちを透明な魔法の壁が包み込む。
魔法障壁。
これならば、兵士もどきたちは商人たちに手を出せないわ。
私は安心して敵にまみえることができる。
「俺たちには向かうということは、セラフィス王国には向かうも同然。女、覚悟はできているんだろうな」
「さて、それはどうでしょうかね。暴力や脅迫を働いていたという事実があって、はたしてどちらの言い分を聞いてくれることかしらね」
「ほざけ!」
私が煽ると、あっさり兵士もどきは私に斬りかかってきた。
国境を守る兵士がそんなに短気でどうするのでしょうかね!
次々と襲い来る兵士たちを、私は楽々とあしらっていく。国境兵の割に、剣の扱い方が雑過ぎるというものだわ。
私だって剣に関してはど素人だけど、ティアローズの力で平然と扱えるようになっている。
そうなれば、こんな国境兵もどきは私の相手ではないということになるわね。
「おい、てめえら! 女一人に何を手こずってやがるんだ!」
「で、ですが、この女、ものすごく剣の腕が立つんでさぁ……」
声の掛け合いがまるで盗賊だわ。
やっぱりこいつらは正規兵ではなくて盗賊か何かなんでしょうね。
まったく……。だとしたら、いつこいつらは紛れ込んだのかしらね。
全員をのした後、戦闘に参加していない兵士たちから証言を取りましょうかね。
「よそ見とは余裕だ……あばぁっ!?」
「うるさい。黙りなさいよ、盗賊風情が……」
不意をうとうとした兵士もどきは、その胸部に剣の柄をぶつけられてその場にうずくまってしまっていた。
気が付けば、兵士もどきたちは隊長と思しき男を残して全滅。
わけの分からないうちに全員を倒されてしまい、残っている隊長は慌てふためいている。
「ば、バカな! 俺たちがこうも簡単にやられてしまうなんて! んなこと、あるわけぇえ!」
現実を受け入れられない体調が、私に向かって突進を仕掛けてくる。
隊長と思しき男だけど、構えからしてど素人丸出し。この程度の腕前では、剣の達人となった私の敵ではなかった。
「唸れ剣よ、切り刻め!」
私は余裕があるせいか、何か印象付けようとそれっぽい詠唱をする。
「はっ、余裕だな。その余裕の顔を歪ませるのが、俺は大好きなのさ!」
私がわざと見せた隙に、敵はまんまと引っかかってくれた。
そのアホ面、永遠に残るようにしてあげましょうかね。
私は腰を落とす。
「シャイニング・ソード・ダンス!」
そう叫んだ次の瞬間、私は隊長もどきのはるか後方に立っていた。
そして、剣を鞘へと納めると、無数の閃光が隊長もどきに走る。
「ぐわああああっ!!」
謎の断末魔とともに、身に着けていた鎧が粉々となって地面へと落ちていく。
下の服だけとなった隊長もどきは、その衝撃の強さに耐え切れず、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。
「成敗!」
私がそう言って顔を上げると、どういうわけか関所の中は歓声に包まれてしまっていた。
「いやあ、ありがとうございます。あいつらが好き勝手暴れてくれたおかげで、我々としても困っていました」
私の元に率先してやって来たのは、少し年老いたおそらく四十代の男性騎士。おそらくはこの国境警備隊の本来の隊長だと思われる。
「どうしてあんな奴らがのさばっていたのですか」
私はすぐさま問い質す。
少々年配の男性騎士が言うには、数日前に急にお城から派遣されてきたということらしい。
だが、持ってきた書類の署名が国王でも王妃でも騎士団長でもなく、なんと側室の名前だったのだという。
首を捻る騎士たちだったものの、側室とはいえ王家の命令ゆえ受け入れるしかなかったのだそうな。
その結果が、さっきのような暴力などの異常な検問となっていたらしい。
「即刻解任ですね。こんな不相応な人物を送ってきたのですから、側室の不手際をそのまま王家に訴えてやればいいのですよ」
「そ、そうでございますな……」
私の訴えに、騎士は強く頷いていた。
「まだ残っていますかね、その命令書」
「それでしたら私が預かっております。お出ししましょうか」
「ええ、そうしてもらえると助かります。私が国王やミケル殿下にお伝えしておきましょう」
「助かります」
残った騎士たちはどうやら以前から国境の警備にあたっていた騎士たちのようで、みんなまともに話が通じていた。
というわけで、伸びているもどきたちは全員縛り上げておくことにした。
「こいつらは、牢屋にでも放り込んでおくといいでしょう。国王たちに現状を伝えて、追って処分してもらえるようにして伝えておきます」
「誠にありがとうございます。我々の力のなさのために、本当に手間をかけさせてしまって申し訳ない」
私に頭を下げていた騎士たちは、被害を受けた商人たちにも誠心誠意謝罪をしていた。
まったく、国境警備にならず者たちを送り込むとは、側室は一体何を考えているのかしらね。
私は腹立たしい気持ちで、騎士から受け取った書類とともに王都へと戻ったのだった。




