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やがて古代魔法を解き明かす天才少女  作者: AteRa
第三章:生まれの土地
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第三十一話 アムステラの第三王子

 その時、雨の街道を早馬が二つ、もの凄い勢いで駆けていた。

 前の馬が水溜まりを踏み水飛沫が思いきりかかるが、後ろの馬に跨がっている青年は気にしない。

 青年の顔には必死な表情が浮かんでいた。


「殿下! 魔族ってどれくらい早く走れるものなんですかね!?」

「知るか! 僕に聞くな!」


 前を走る屈強な男が後ろの青年に聞く。

 しかし青年は怒鳴るようにそう言い返した。


 青年の名前はエレイア・アムステラ。

 アムステラ神聖大国の第三王子である。


 今走っている道は、アムステラ神聖大国からイージス王国の王都に続く道である。

 早馬を乗り継ぎながら一週間かけて三つの領地を越え、現在アルシュバイン伯爵領に入ったところである。


「クソッ! この雨はどうにかならないのか!」

「殿下、そんなことをおっしゃっても雨は止みませぬぞ!」


 殿下の悪態にそう返すのはアムステラの聖騎士団の副団長ドレムである。

 彼はエレイアの幼い頃から知っており、第二の育ての親とも言える関係性だった。


「ああもう! 早く周辺の国に魔族が脱走したことを伝えないといけないのに!」

「こんなときに古代魔法が使えたら良かったですね!」

「あんなお伽話の話をするな! もっと現実的な話をしろ!」


 どうやら二人とも相当切羽詰まっているのか、はたまた大雨のせいで声が掻き消されるのか、大声で怒鳴るように会話をする。


「すみません! ただ古代魔法には転移なんてものもあるみたいですよ!」

「それくらい知ってるわ! 僕は大国の第三王子なんだぞ! 人並み以上には勉強してるっての!」


 焦る二人に反して、余計に雨は勢いを増していく。

 結局馬も走れなくなり、近くの街で休むしかなくなった。


「……ここはアルシュバイン領の主要都市か」

「まずは領主に挨拶に行って、状況を伝えた方が良いのでは?」

「そうだな。よし、屋敷に行こう」


 土砂降りの中、二人は屋敷に向かって歩き出した。

 そこが騒動の中心地になることなんて、その時の誰もが知る由もないのだった。



   ***



「はあ……雨かぁ……」


 雨の日って何だか憂鬱だよね。

 気分が下がるっていうか。

 気圧の問題なのか、はたまた条件反射的なものなのか。


「しかしやっぱり行き詰まったなぁ……」


 一向に魔力に関する話が進まない。

 ここまで難敵だとは思わなかった。

 先日、魔力に意思があるだろうと予測を付けたところまでは良いものの、会話を試みてももちろん出来るわけもなく、結局手がかりは掴めないままだ。


 う〜ん、後もう少し、もう少しで何か掴めそうなんだけどなぁ。

 その少しが足りない気がする。

 窓際で頬杖をついてそうぼやいていると、何やら玄関の方が騒がしくなってきた。

 気になったので部屋を出て階段を下っていく。

 そこにはびしょ濡れになった美青年とおっさんがいた。

 困ったような表情でリーチェが対応していた。


「だから、僕らはアムステラ神聖大国から来たんだ! ここの領主と話がしたいから通してくれ!」

「いえ……アポがない状況ですと、そう簡単にもいかず、まずはご主人様に確認を取りに行かなければならなくてですね……」

「それに僕らもついて行けば良いだろう!? あまり時間がないんだ!」


 どうやら二人はかなり切羽詰まっているように見えた。

 それが真剣だと分かるからこそ、リーチェは困っているみたいだった。

 私は階段を降りて、二人の間に割って入る。


「……君は?」


 ようやく私に気がついた青年が私にそう尋ねてくる。

 尋ねられたら、仕方がない。

 私は軽い自己紹介をした。


「私はレイラ・フォン・アルシュバイン。ここを治める伯爵家の長女です」

「そうか! それは話が早い! 父にエレイア・アムステラが来たと伝えてくれないか!?」

「……ん? エレイア・アムステラ?」

「あれ、言ってなかったっけ? 僕はアムステラ神聖大国の第三王子なんだ」


 その言葉に私とリーチェは思わず固まる。

 アムステラ神聖大国。

 それはこの超大陸アガレスにある三大国家のうちの一つであり、このイージス王国の隣に位置する国家である。

 その名の通り巨大な宗教国家で、大陸への影響力は計り知れない。

 もちろん、そんな国の第三王子ともなれば、木っ端の国の伯爵家なんて一瞬で踏み潰せるだろう。


 私たちは大慌てで頭を下げた。


「す、すみませんでした! 失礼な態度を取ってしまい!」

「いや、そんなことはどうでもいい。それよりも当主に会わせてくれないか?」

「は、はい! 今すぐ!」


 私はそう言うと、大慌てで転がるように階段を上り廊下を走り、父の執務室の前まで来た。


「お父様、お父様!」


 扉を蹴破るかの勢いで開け、そう叫びながら中に入る。


「どうしたんだい、そんなに慌てて?」

「アムステラの! アムステラの! アムステラ神聖大国の第三王子が今玄関前に来てる!」


 ゼエゼエと荒い息を吐きながら、私はそう叫んだ。

 それを聞いた父はキョトンとした表情で一言。


「……ん? アムステラ神聖大国の第三王子、だって? それが玄関前に? って、はぁあああああああああああああああぁああ!?」

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