出版済「おはなしでてこい」その2 ななちゃんのお話
なろうに執筆するにあたって加筆修正しました。
少し暑い夏の日の昼下がりのことでした。ひまわりがゆらゆら揺れていました。
ナナちゃんは、ひとりで保育園のお庭で遊びながら、お母さんがお迎えに来るのを待っていました。それでもさみしくはありませんでした。
遠くのほうからだんじりのお囃子が聞こえてきます。きっと誰かがお祭りの稽古をしているのでしょう。ナナちゃんは少しの間、目をつむって、耳を澄ませてお囃子を聞いてみました。
お囃子に混じって、いろいろな音が聞こえてきました。風の音、セミの声、鳥の声・・・。
(夏ねぇ・・・。)
と、ナナちゃんは思いました。ちょっとうれしくなってにっこりしました。
おや、遠くでわらび餅屋さんの声が聞こえてきました。
「わらびーもち、わらびもちわを~~~・・・。」
なんだかいつもの声と違うような???だって、いつもは演歌歌手みたいな男の人の声で、
「わらびぃ~もち、わらびぃもちぃよぉ~♪」
って聞こえてくるのに、今日はザラザラした高い声で、おまけに
「わを~」
だなんて…。
(暑いから、マイクがおかしくなったのかしら?)
って、ナナちゃんは心配しました。
「わらびもちわを~~~ん!」
あきれるくらい思いっきりへんな声。
(あらら。)
どうやら聞き間違いではなさそうです。その声はだんだん近づいてきます。わらびもち屋さんは、マイクがおかしいのに気づいていないようです。
(教えてあげよう)
ナナちゃんは、保育園の門の所まで駆け寄って、
「わらびもち屋さ~ん!」
と、声をかけました。
「へーいまいど!」
元気のいい返事がわらび餅屋さんの車の中から聞こえてきました。
「こんにちは」
ナナちゃんがにっこりと挨拶すると、
「こんちわん!」
振り返ったのは、ハチマキ姿の怖い顔した犬でした。鼻の上にしわを寄せています。
「へ・・・?わんこ??」
ナナちゃんは、ちょっとびっくりしましたが、気を取り直して、
「もうかりまっか?」
と、尋ねてみました。
「いやあ、あきまへんなあ。」
わんこは少し寂しそうに答えます。
「何でもうからないの?」
と、ナナちゃんが尋ねると、
「それがようわかりしまへんのや。」
さらに悲しそうにわんこが答えました。
その顔があまりにも悲しすぎるので、ナナちゃんは、
「手伝いましょか?」
と、つい言ってしましました。
「うわ~ほんまに?助かります!」
わんこは大喜びです。運転席で、天井に頭をぶつけそうなぐらい飛び上がってます。
ということで、ナナちゃんはわらび餅屋さんの車に乗り込みました。
「どうして今日はいつものおっちゃんがいないの?」
と、ナナちゃんが不思議な顔をして聞くと、わんこは、
「父の日のプレゼント代わりに、だいぶおそくなったけれども、ワイが1日お仕事さしてもーて、おとー
ちゃんは、阪神タイガースのデイゲーム観にいかはったんや。」
「へー、そーかー!」
と、ナナちゃんは
(このわんこ、とてもいいわんこね。)
と思って、ぱっと明るい顔になりました。
そんな話をしながら、車はゆっくりゆっくり歩くくらいの速さで進んで行きました。
すると、おばちゃんが、近付いてきました。
「お客さんよ。」
と、ナナちゃんは、わんこに知らせます。
「わらび餅、ひとつね。」
おばちゃんが、声をかけてきました。
「へい」
わんこは緊張してるのか、ぶすっとした顔で応えました。その怖いことと言ったら…。やっぱり、鼻の上の方にしっかりしわをよせています。おまけに口元から牙がキラリ。
「わっ、こ、怖っ。やっぱいい。要らんわ。さいなら。」
おばちゃんがあわてて帰ろうとするところへ、
「そーいわんと。このわらび餅とお~ってもおいしいですよ、おきゃくさん。」
ナナちゃんは、とびっきりの笑顔で引きとめます。
「そお?そない言うなら、買うて行こうかいな。」
と、おばちゃん。
「おおきに。」
と、ナナちゃん。
「どーも」
と、わんこ。
おばちゃんを見送った後、
「わかった!」
と、ナナちゃんがキラキラした目で言いました。
「なにが?」
と、不思議そうな顔のわんこ。
「わんこ、もっと『にこっ』としなよ。そしたら、わらび餅売れるよ。」
「そうかな?」
わんこはちょっと疑いの気持ちで聞きます。
「そうやて‼」
ということで、『にーっこり!』の練習をすることになりました。でも、どうしてもわんこのにっこりはぎこちないのです。だって、怖い顔のわんこなんですもの。
ナナちゃんが言います。
「あのね、おでこと鼻の上にしわを寄せないの。目じりを下げて、お口はあけすぎると、きばがこわいよ。口の端っこを上にしてみて。」
ナナちゃんは自分の顔に指を使っておでこをさわったり、口の横を上に向けて、
「ほら、こういう風に、もっと、にーっ、て。」
ナナちゃんが笑ってみせます。
「こうかな?にーっ」
わんこも自分のおでこや、口元を触ってみたりして練習します。
「そうそう、やればできるやん!」
そして、わんこは、とうとう顔を手で触らずに、にっこりすることができるようになりました。
そんなこんなで、やっとわんこはにっこりのコツをつかんだのでした。
つりあがった目がやさしくなり、口元もちょっとかわいく開いています。
「おい、わらび餅屋、二つばかりくれい。」
おじいさんが、わらび餅を買いにきました。
「いらっしゃい。」
ふたりはとびきりの笑顔であいさつしました。
「おや、いつもの親父さんじゃないノウ?」
「ヘイ、今日は代理で。」
ニコニコわんこが応えます。
「ほほーう、そうかい。愛想もええノウ。がんばりや。」
「まいど。」
「おおきに。」
おじいさんがわらび餅を手にさげて、帰って行きました。
「やったぁ!この調子やぁ!!」
「わぁうぅをう!!!」
ふたりはガッツポーズ。
それから、お客さんがたくさん居そうな公園前に移動しました。
案の定、公園にはたくさんの人がいました。あっという間にわらび餅は売り切れになりました。
「おつかれさま。」
ナナちゃんがいうと、
「おつかれい!お礼に『みっくちゅじゅーちゅ』でもどう?」
と、わんこがいいます。
「みっくちゅ…?あ~あれね、こないだ大津のおばちゃん所に送ったやつ。でもナナはスプライトのほうがいいなー。」
「あら、そう?じゃあ、スプライトね。」
そういうと、わんこはスプライトを買ってきて、
「どうぞ。」
と、くれました。わんこの飲み物は、牛乳のようです。
「じゃ、かんぱーい!」
ふたりはかんぱいしました。
「にっこりが大事だったんかー」
「そうよー」
そんな話をしながら、飲みました。
「さあ、ナナちゃん、送って行くよ。」
わんこがいうと、
「保育園までお願いします。」
と、ナナちゃんがいいました。
保育園まで送ってくれたわんこが
「ありがとう、おかげで助かりました。」
というと、ナナちゃんは、
「ごちそうさまでした。楽しかった。」
と言いました。
「さいなら」
「さよなら」
ふたりはお別れしました。
「また会えるといいな。」
見送りながら、ナナちゃんが、つぶやいたとき、
「ナナちゃん、ナナちゃん。」
と、先生の声が聞こえました。
「はーい!!」
って、元気にお返事すると…
ナナちゃんは保育園のお部屋の中でお布団に入ってました。
「あれ・・・?」
何だか不思議な気持ちです。
「はい、お昼寝はおしまい。少し早いけどお母さんがお迎えにいらしたわよ。」
と、先生は言いました。
(さっきまでのは、夢やったんか?)
って、ナナちゃんは思いました。そしてちょっとだけさみしいなと思いました。
(でも、お口の中にスプライトのあじがのこてるんだけど???)
何だかよくわからなくなってしまうナナちゃん
「ナナちゃ~ん帰るよ~。」
向こうでお母さんが呼んでます。
「はーい。」
と、急いで帰りの支度をして、先生にさよならをいいました。
「今日はどんなことをして遊んだの?」
お母さんが聞きました。
「あのね、あのね・・・」
ナナちゃんは、さっきわんことわらび餅を売りに行った不思議な夢?を見たことを話しながら、お母さんと楽しくお家に帰りました。
おしまい