天月心理の異世界旅行5 鍛冶屋
「書けました」
「ありがとうございます。
ギルドカードを発行いたしますのでお待ちください」
身元引受制度に必要な書類とギルド登録に必要な書類を書いて受付のお姉さん渡した後、受付のお姉さんは書類を持ってカウンターの奥に行ってしまった。
「さて、これで貴方も冒険者ね」
「あなたもってことはアリエステルお嬢様も?」
「勿論よ。
それなりに有名人なのよ?」
貴族が冒険者になるというのであれば、それなりに知名度はあるだろう。
僕様としては、戦力としてあてにならない僕様を守る程度の実力があってくれれば嬉しい。
「アリエステルお嬢様って強い?」
「ええ、これでも……」
「お待たせいたしました」
アリエステルお嬢様が、続ける前に受付のお姉さんが戻ってきた。
「こちらが、冒険者カードとなります。
それと今回の登録料の借用書となりますが……」
借用書?
不穏な言葉にドキッとするが、受付のお姉さんの視線は、アリエステルお嬢様に注がれている。
「それはいらないわね。
登録料は私が払うわ」
そう言ってアリエステルお嬢様は、冒険者カードを取り出す。
「分かりましたお預かりいたします」
そのカードを受け取った受付のお姉さんは、透明な玉を取り出した。
「何それ?」
「魔力照合用の水晶玉です」
「これに手をかざすと支払いができるのよ便利でしょう」
「そうなんだぁ」
ハイテクだぁ。
「それでは、魔力照合をお願いします」
「ええ」
アリエステルお嬢様が水晶玉に手をかざすと水晶玉が青く光った。
支払いができたみたいだ。
「ありがとうございます。
口座から1000クレジット引き落とさせていただきます。
よろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
ああ、1000クレジットってどれくらいの金額なんだろう?
恩が、恩が、のしかかってくるよう!
「それとパーティを組みたいと思うの」
「パーティですか?
そちらの方と?」
「ええ、その通りよ」
「分かりました」
次々に頼みごとをされても嫌な顔をしない受付のお姉さん。
冒険者カードを持って立ち上がって奥にある本棚に向かう。
一つ思ったけど、ここの受付で対応できること多いね?
「さて、せっかくパーティも組むことだし何か依頼を受けましょう」
「できれば、危険じゃないのでお願いします」
「勿論よ。
初心の冒険者が一緒だから安全な奴を選ぶわ」
徐々にテンションを上げていくアリエステルお嬢様に反比例して僕様のテンションは下がっていく。
いや、なんだか嫌な予感がするんだよね。
「取りあえずゴブリン退治にでも行きましょう」
「取りあえず?」
「ええ、冒険者と言えばゴブリン退治よ」
受付のお姉さんの方を見るとお姉さんも頷いた。
どうやらお嬢様の言うことに間違いはなさそうだ。
「分かった」
僕様にとっては、冒険者と言えばまさしく冒険する者なので旅をするのが主流だと思っていたのだけど、どうやらその名の通り冒険をする者ということではなさそうだ。
まあ、危険を冒すという意味ではそのままかな?
「それじゃあ、準備をするわよ」
「準備?」
「ええ、準備よ。
獅子は兎を狩るときも全力を尽くすわ」
「まあ、お腹か減ってるからね」
「そういう事じゃないのだけど、とにかく準備をするのよ」
「うん、分かったよ」
なんだか準備をするという言葉に借り物感があるけど本当に大丈夫なのかな?
「冒険者の準備と言えば武器!
武器と言えば鍛冶屋!
だから鍛冶屋に向かうわよ」
「武器ね」
武器なんて生まれてこの方一度も持ったことないよ。
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「さあ、着いたわよ」
やってきたのは鍛冶屋、冒険者と言えば武器という事でそれを取り扱っている鍛冶屋に来ました。
「ひとまず剣を手に入れるわよ」
臆することなく鍛冶屋へ入っていくお嬢様。
一つ思ったけど冒険者の準備で最初に提示されるのが攻撃用の剣っていうのはどうかと思うんだ。
まず、身を守る防具じゃない?
「たのもう!」
「おう、いらっしゃい。
元気なお嬢さん今日は何をご所望ですかい?」
アリエステルお嬢様の謎のハイテンションはさておき難なくそれに合わせる鍛冶屋のご主人。
身長が低くずんぐりとした体形は、しかし筋肉が凝縮されているようで普通以上にがっしりした体形に見える。
ドワーフだ。
まごうことなくドワーフという種族の特徴と一致する。
「今日は、この子の為に剣を買いに来たわ!」
「ほう、お嬢ちゃんが……?
おめえさん、剣を持ったことがあるのか?」
「いいえ」
「初心者ってわけかい。
しかし、おめえさんみたいな子が剣士志望は珍しいな」
「そうだね」
相槌を軽く打つ。
「まあ、珍しいが詮索しねえよ。
それで、どんな剣がお望みだ?
おすすめはショートソードだ」
そう言って主人が顎をしゃくった方に刃渡りが比較的短い剣が並んでいた。
他の剣が長すぎるっていうのもある。
僕様の背丈より大きい剣もあるからね。
「そうね。
どうする?」
「取りあえず防具を見繕ってほしいかな」
僕様がそう言うと主人は、笑みを浮かべた。
「はっ、分かってんじゃねえか
生存率を上げるために防具を優先するのはあたりめぇなことだからな!」
「そうなの?」
「まあ、お嬢さんはあまり関係ねぇ話かもしれねえがな」
そう言ってガハハと笑う主人。
僕様は、何故主人がそんな感想に至るのか分からなかった。
「関係ないってどういうこと?」
「おめえさん、お嬢さんがどんな人物か知らねえのか?」
「はい」
「そりゃあ、珍しいもんだな。
いや、だからこそか?」
ふむふむと何か一人で納得しつつこちらを見る主人。
「お嬢さんは魔術師だからな。
防具をつける意味があまりねえんだよ」
「何で?」
「何でっておめえ、魔術師には障壁があるからに決まってるだろう」
「障壁」
「知らねえのか?
こりゃあ、とんだ世間知らずだな。
どこの箱入り娘だ?」
怪訝な表情でこちらを見る主人。
あ、普通にボロがと思ったらアリエステルお嬢様が僕をかばうように主人に話しかける。
「一先ず防具ね。
それじゃ、竜の素材を使った物を作って頂戴」
いや、かばってないかもしれない。
何か考えていたのかな?
「そんな素材ここにはねえよ」
「それじゃあ、私が用意するわ」
「そりゃ、いいが、竜の素材手に入れるのは大変だぜ?
そのお嬢ちゃんの為にするのか?」
「ええ、問題あるかしら?」
「お嬢さんに問題ねえなら問題ねえよ」
「それじゃあ、決まりね」
「それで、竜の素材手に入れるまで待つが、剣はどうするんだ?
竜の素材が手に入るのならそっちも作れるが」
「そうね!
それがいいわ。
私の仲間ならそれくらいの装備を着けてて当たり前だもの」
「わかった。
他の素材はこちらで用意しておくが、あまり待たせるなよ」
「分かってるわ」
あれよあれよと言う間にいろいろ決まっていく。
けど、ゴブリンを倒すために竜を狩りに行くことになってない?
本末は……転倒してないけど順序が逆になってない?
「それじゃ、次はアクセサリーね。
アクセサリーショップに行くわよ。
弱いアマツキテンリのためにいい物を用意しなきゃね」
いや、弱いよ。
うん、弱いのは分かってるけどそう目の前で言われると少しばかり傷つくよ?
「強く生きろよお嬢ちゃん」
鍛冶屋の主人の哀れみの目を受けながら鍛冶屋を後にするのだった。