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「なろうラジオ大賞4」のための物語

自称天才怪盗クロカゲだけが知っている

作者: ヤギマルケイト

 暗い部屋に男はいた。


 名は「クロカゲ」。

 自称、天才怪盗である。


 あくまで自称にすぎない。

 だが──

 彼はまぎれもなく本物の、天才であった。


 部屋は彼のコレクションルームだった。

 次なる“獲物”を彼は夢想する。


「──『眠れる乙女』か」


 とある富豪の所有する名画に、彼は狙いを定めた。


 クロカゲには美学がある。


 ただ盗めばいいわけじゃない。

 あくまでフェアに。華麗に。

 予告状を送り、堂々と獲物を奪い、鮮やかに逃げ去る。

 怪盗とは何とリスキーなのだろう。


 だが。

 全ては杞憂であった。

 なぜなら──

 彼は天才だから、である。


 犯行に最適な日時を、一切リスクのない確実な方法を、彼は知っていた。


 クロカゲの頭の中には膨大な知識と情報がつまっていた。

 あらゆる状況が計算できた。

 物事の先の先を読むことが可能だった。


 警察がどれほど強固な警備を行おうとも、それをかいくぐり盗み出すことは容易だった。


 彼は、天才なのだから。


          ☆


 ひとつだけ懸念があった。


「シロガネ──か」


 白銀(しろがね)(てる)


 やはり天才と謳われるこの名探偵は現在、英国にいる。

 帰国してくる確証はない。


 だが、無視はできなかった。

 犯行は確実に。完全にだ。


「──お手並み拝見といこうか。名探偵」


          ☆


 シミュレーション252回目。

 完全なるクロカゲの犯行を、彼はあっさりと阻んでみせた。


 恐るべし、名探偵シロガネ。

 計画は全て失敗していた。


 これは彼の脳内で行われている単なる空想にすぎない。

 実際にはシロガネはそれほどの天才でなく、クロカゲの思考がそれを生み出しているだけかもしれない。


 だが──


 天才クロカゲに傲りはなかった。


          ☆


 ダメだ。


 何度繰り返しても、結果は同じだった。

 

 ──やむを得ないか。


 クロカゲは天才である。

 故に──退くべき時を知っていた。


「今回は君の勝ちだ」


 犯行計画の全てを、彼は白紙に戻した。

 完全成功の保証がない以上、

 これは行うべきではない。


 次は必ず。

 天才クロカゲは誓うのであった。



 部屋に明かりがついた。


 ここは彼のコレクションルームである。

 部屋は……がらんとしていた。


 何も、なかった。


 彼の“獲物”はまだ、ただの一つとして、並んではいなかった。


 クロカゲは天才である。


 だがその結果、彼の思考は名探偵シロガネを無視できず、犯行は中止に追い込まれていた。

 これまで全て。


 彼の犯行が行われたことはない。

 まだ一度も。




 自称天才怪盗クロカゲ。

 彼はまぎれもない天才である。


 だが、天才であるが故に──


 彼は未だ、

 “自称”怪盗のままである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この枠でいいのか分かりませんが、シロガネ気になります。一体何者… [一言] 「未実行かよ!」 思わず突っ込んじゃいました(笑)
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