映画とか小説とか味噌ラーメンとか
「ねえ、きみは何のために生きてるの?」
「うん?」
「生きる意味、特にないなあって思って」
「それってつまり死にたいってこと?」
「んー、そこまでじゃない。でも、生きててもしょうがないかなって」
「そっか。そうだなあ、ぼくが生きてるのはね、うーん、たぶん欲望のためかな」
「……よくぼう……」
「いや、虫を見るような目はやめてくれよ。そういうやましいやつじゃなくてさ、美味しいもの食べたいとか、面白い映画が観たいとか、面白い小説が読みたいとか、自分でも書きたいとか──いっぱい欲望あるから、それを果たすために生きてるんだと思う」
「すごいね」
「すごい、のかな」
「ぜんぜん、そういうのないもん。美味しいものも面白いものも、好きだけど、なければないでべつにいいし、そのために生きるってほどじゃない」
「こないだ行った、あそこのラーメン屋さん。塩ラーメン美味しかったじゃない」
「うん? そうだね、けっこう好きだった」
「あのお店ね、味噌も美味しいらしいんだよ。冬季間限定なんだけど、塩麴が入ってる濃厚なやつで」
「……ふうん、そうなんだ」
「いまちょっと、食べたいなって思った?」
「んーまあ、ちょっとね。でも、味噌ラーメンのために生きたいとは思わないから」
「じゃあさ、こないだ読んでもらったぼくの小説のつづきは?」
「……読みたいよ。でも、それだったら味噌ラーメンのほうがちょい上かな」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬって本当に言うひと、はじめて見た」
「笑うなよ、いまのはちょっと落ち込んだぞ」
「ごめんごめん」
「よし。じゃあ味噌ラーメンより読みたい話、書いてみせる」
「ほう」
「だから、待っててくれないかな」
「…………ちなみにさ」
「うん?」
「さっき、やましいやつじゃない、って言ったよね」
「言った」
「ぜんぜん、これっぽっちも、やましいやつはないの?」
「えーっと、うーん、どうだったかな」
「ちゃんとこっち見て。ね、いちドットもないの?」
「んーまあ。ほんのちょっとぐらいはある、かな」
「フーン」
「いや、この流れで虫を見るような目、おかしくない? どう答えたら正解なんだよ」
「世の中にはね、正解なんてないのだよ」
「名言っぽく誤魔化すなよ、ったく……」
うん。
きみをからかうのに飽きるまで、とうぶんは、生きてみてもいいかな。




