父さんの鞄
今日は仕事が早く終わった。
見慣れた背中。スリムな体型だけれど背筋が伸びた凛々しい姿。父さんのうしろ姿を見つけた。
「父さん」
「ああ」
「鞄持つよ」
「ん?そうか?」
ひょいと掴んだつもりが、革製の父さんの鞄はずっしりと重かった。
「ちょっと寄ってくか?」
嬉しそうな父さんと初めて居酒屋へ立ち寄った。
「お疲れさま。うまいなー。こうして飲むの初めてだな」
「うん。そうだね」
仕事は楽しいか?とかそんな話をして。
今、僕は実家から通勤しているのだけれど、父さんに話してみた。
「父さん。あのさ。春から僕。一人暮らししようと思うんだ」
「うん?そうか。母さん寂しがるけど。喜ぶと思うぞ」
「うん」
「いいんじゃないか?」
「ありがとう」
「父さん。この鞄こんなに重いんだね」
「何言ってんだ若いもんが」
「ただいま」
父さんと声がハモった。
「おかえり。ふふ」
春までまだ少しある。