その音が聞きたくて。
白球を握り、おおきく振りかぶってボウルを離す。
1球投げるごとに、毛細血管が切れると言われても、僕には投げたい理由がある。
体に力を入れて、ボウルを離した刹那の瞬間。
バン!!
と音がこだまする。
この音が好きで僕は白球を投げる。
女房役と言われるお前の左手に目掛けて。
最後の大会。
最後に投げた白球は自分が1番聞きたくない金属音だった。
自分の頭上を高々と舞う。
その瞬間は何よりも長く感じた。
ゆっくりと自分は振り向く。
遠くに見える仲間はその白球を最後まで追いかけていた。
仲間の背中がフェンスに当たり、自分の背中から大きな歓声が上がった。
それは自分たちに向けられたものではなかった。
どんなブーイングよりその歓声は自分の心を折った。
サイレンの音が鳴り、知らない昔の歌が聞こえる。
最後に頭を下げて、僕はお前にいう。
「ありがと。お前の音が好きだった。」
『その音が聞きたくて。』
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