地獄堂
足を怪我したぼくは知り合いの薬屋に向かっていた。
※
その薬屋は名を【地獄堂】と言う。大変に物騒な名前だ。しかし、主人の腕は確かである。
からん。
入口の扉を開けると、快い音が響いた。釣られて、主人がぼくのほうを向く。足の怪我を見るやいなや、訝しげな表情を顔に浮かべた。
「なぜ、来たんだ?」
(……酷いや)
たしかに、つい先日来たばかりだが、その言い方はないだろう。ぼくは少し泣きそうになった。
「よっぽど、ぼくは主人のことが好きなんですね」
冗談を言うと、主人はそっぽを向いてしまった。なので、主人の表情は読めない。戸棚の薬をいじくりながら主人は虫を払うような仕草をぼくに向かってする。
「誑しに分けてやる薬はないよ、帰んな」
「嫌だな、ほんの悪ふざけですって」
自然に治癒するのを待ってはいられない。薬をもらうため、ぼくはすぐに謝った。間を置かず、主人が呆れたような溜め息とともに飲み薬の入った包みを渡してくれる。なんだかんだ言っても、主人は好人物だ。お代を払いながら、ぼくは「ありがとうございます」とお礼を言った。
すると、主人がつけ加えるように口を開いた。
「本当は塗り薬のほうが効果が高いんだけどね。家にふつうの客は来ないから、置いてないよ」
主人とは長い付き合いになるが、そういった話は聞いたことがない。ぼくは興味深い話に相槌を打ちながら、再度お礼を言って薬屋を後にした。
※
これから、遠い道程を経て宿屋に帰らないといけない。それを思うと、少しだけ憂鬱な気分になる。
(近くに薬屋があればいいのに……)
そこで、ふと気がついた。あるではないか街の薬屋が。
『なぜ、来たんだ?』
主人がぼくを訝るのも無理ないことだった。
「それなのに、ぼくはなんて恥ずかしい台詞を……」
(しばらくは来られないな)
ぼくは足を別の場所へ向けた。冒険は、まだつづく。




