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中空の布団

 もう少しだけ街にとどまろうと思う。そのための宿屋を探したい。





 宿屋は一般に酒屋が兼ねている。選ぶときの目安は場所だ。急ぎなら往来の激しいところ、そうでないなら繁華を避ける。こうすることで、その街の日常を見る。

 歩き回っていると、いい場所を見つけた。ここにしよう。

 からん。

 扉を開けると、快い音が響いた。奥のほうから歩いて来た主人に向かって口を開く。

「一部屋お願いしたいのですが」

「生憎と、普段使っていないお部屋しか……」

「構いませんよ」

 そのほうがぼくにとっては都合がいい。使われなくなった部屋には妖精が住み着いていることもあるからだ。





 案内された部屋はいかにもといった感じだった。

 ゆっくりと音を立てずに少しだけ(ドア)を開け、隙間から中を覗きこむ。


(……いそうだな)


 ちらちらと動くものが見えた。種類までは特定できないが、妖精で間違いないだろう。


(さて、どうしたものか)


 妖精の種類によっては対応が変わって来る。ぼくは部屋の雰囲気から風の妖精だと推測した。





 風の妖精が好きな香を焚き、部屋の中にそっと花を差しこむ。しばらくしてから様子を見るために戻ってみると、見事に花がなくなっていた。


(当たりだ)


 どうやら、ぼくの推測どおり風の妖精だったらしい。もう(ドア)を開けても、妖精を驚かすことはないだろう。こういった小さな積み重ねがいずれは青い瞳の妖精との再会につながっていると信じている。

 ぼくは少しだけ埃っぽい部屋の中へと入っていった。





 翌朝、目が覚めると、ぼくは宙に浮かんでいた。風の妖精は恩返しに【中空の布団】という祝福を授けると聞いたことがある。これがその中空の布団なのであろう。


(……すごいな)


 街を一望できる。素晴らしい景色だ。

 ただ、残念なことに中空の布団は降りる場所を選べない。完全に妖精任せだ。それは困る。聞くところによれば、対策はその場で跳ねることらしい。なので、ぼくは跳んでみた。

 すると、その場で落下した。

「嘘だ!」

 もちろん、嘘なんかじゃなくて……。ぼくは屋根に直撃して足の骨を折った。弁償のための費用で、この前の路銀も帳消しだ。





「とりあえず、怪我を治さないと」

 ぼくは足を別の場所へ向けた。冒険は、まだつづく。

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