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CALL of DUNGEON ~人よ ダンジョンからの祝福を~  作者: 斎藤ケイジ
1st Dungeon
9/9

08 結託

今回ちょっと短めです。

あの会議の後俺はアカネに連れられて彼女の部屋へと案内されていた。

彼女は何かの決断をしようとしている。

そしてそれは俺の運命にも関係することだと直感した。

しばらく黙っていた彼女は意を決したようにこちらの目を見て話し始めた。


 「イザヤ、ここの状況はどん詰まりだ。アタシは目覚めてからの数日間、ここの連中を観察してた。マシュー達はこの施設の物資をかき集めて確保して、自分たちに都合のいいようにやり繰りしてる。もっと言うなら、戦闘ができる変異者に負担を押し付けて、弱者としての権利を数で押し通してる。そうは言っても戦闘を行ってる人間たちも結局は全員素人だから戦闘システムのアシストがあっても怪我人が出始めてる」


 戦闘補助のアプリは、事前申告で探索者やそれに類する戦闘を行う進路を希望していた者たちにしか提供されていない。これは法も関係する都合上仕方のないことだったが、ここがダンジョンに呑まれてしまったことを考えると戦える人間が限られているということはあまりにも痛い。

 勿論、戦闘を目的としていない変異であれど実際に無力というわけではない。しかし、誰しも死にたくない、命を懸けたくはないだろう。戦闘アシストがないというのはある意味では戦わない格好の()()()にもなりうる。


 ルサンチマンという言葉がある。これは持たざる者が持つものに抱く敵意のことであり、弱者が弱者であることを肯定する感情でもある。しばしば危機的状況に置かれた小集団はこのルサンチマンを暴走させてしまうことがあるという。


 「周囲のモンスターもここを襲ってくる頻度が高くなってきてる。マシューは助けが来ることを信じているみたいだが、実際のところはわからない。外に駆り出されている奴らも最初は頼られることに喜んで応えようとしていたみたいだが、それだけで長続きはしないだろうな。不満が溜まってきてるし、気が荒いやつもいる。次にモンスターの襲撃があれば誰かが爆発してもおかしくはない」


 「命の危険がある状況で助かるかどうかもわからない。ストレスで精神状態が悪くなり、負担に対する不平等がそれに拍車をかける。人間関係は悪化して、それがまたストレスへ。考えてるだけで気が重くなる話だ、確かに状況はいいとは言えないな」


 それで、と彼女の眼を見る。その先の考えがあるのだろうと、いつの間にか二人とも座り込んで向き合う形で話していた。


「アタシはここを出ようかと思ってる」


 少し息を吸って、彼女はそう切り出した。


「…このダンジョンから脱出するということか?」


「違うね。イザヤ、これはチャンスなんだ。なぁ、今この国にどれだけの探索者がいる。その中の何人が名を知られている。大半の奴は名も知られず誰に知られることもなく怪我で引退かダンジョンで消息を断つことになる。そんなのはゴメンだ。アタシはここに来るまでずっと名をあげる方法を考えていた。だがアタシはマシューのやつみたいに生まれからくる話題性や支援者なんかもいない。あるとすればこのプロジェクトに選ばれた幸運くらいのものだ。企業や軍に所属するんじゃダメだ。使う側であるのと使われる側ってのは大違いだぜ。だが国の機関に所属せず、企業にも属さず探索者になるためには実績がいる。数十年前までならいざ知らず、資格もない人間がダンジョンで功績を上げるなんてのはほとんど不可能だ。今しかないんだ、この突発的な状況で、強力なデザインされた異能を持つ人間が揃っているというある意味で奇跡的なこの環境だからこそ()()()()()()選択ができると思っている」


「つまり、このダンジョンを攻略する…ということか」


「このダンジョンは生まれたばかりでまだそうエネルギーを蓄えてはいない。ダンジョンは生まれた時が最も弱い、環境を作ってモンスターを生み出すことに多くのリソースを割いてるからだ。コアを守る王位個体が持つ力は他のダンジョンと比べて比較にならないほど小さいはずだ。勝算がないわけじゃないと思っている。あとは仲間だ。一人でダンジョン踏破なんてのは不可能だ、現実的じゃない。イザヤ、アタシはお前に協力してほしいと思っている」


じっとこちらを見つめる彼女の目を正面から覗き込む。

唇を湿らせて俺は答えた。


「ダンジョンの攻略か。大それた話だ、初めてのダンジョンで準備も整っていない。探索者の資格すらない素人ばかりの状況で、しかも他の連中は身内で喧嘩するのに夢中で協力など得られそうにない。およそダンジョンアタックを行うのには最低な状況だ」


否定要素を挙げ連ねる。

こんな状況でダンジョンの踏破?絵に描いた餅もいいところだ。

子供でもそんな無謀なことは考えない。


「だが」

「だからこそやる価値がある」


こちらの言葉に苦しそうに俯いていたアカネがハッと顔を上げる。

俺とて人間を捨てこれまでの人生をかけてここにきたのだ。

探索者として偉業を成し輝ける道を行く、真に未知をかける探索者になると覚悟を決めてやってきたのだ。

その道を共に行く本気で命を賭けて戦える仲間を得られる機会がどれほどあるだろうか。

何一つ心の準備などできていないが、ここが俺の人生の一番の転換期だと確信できる。

後から考えると何とも無謀でバカな決断かもしれない。

しかし今この時、俺は決断したのだ。


「これは分の悪い賭けだぞ。しかも掛け皿に乗っているのは俺たちの命だ」


「へへ、だからこそやる価値がある。だろ」


ニヤリとニヒルに笑った。

俺たちは共犯者だ。

自分たちの欲のためだけにここの連中を裏切ってダンジョンを攻略しようとしている。

俺たちがいなくなればここの状況は戦力を二人も失うことになる。

だがそれでも俺たちはここを出ることを選んだ。


「よろしく頼むぜ、相棒」


「ああ、よろしく頼む相棒」


俺達は互いに手を取り笑い合った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がしっかりしている事 納得しながら読み進めることが出来る [気になる点] 続きが気になる(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク [一言] ……エタってない事を祈ります(。-人-。)
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