ゴブリンテイマー、証明する
確かに開封された時に砕けていた部分ですら元の状態に戻っているのが不思議だが、そういうものなのらしい。
「お前はテイマーではないのか?」
「そうですけど」
「では何故そんなことが出来るんだ。そんなことが出来るのは付与魔法使いだけのはずだ」
「そうなんですか? でもまぁ、僕はテイマーと言っても『ゴブリンテイマー』という特殊なテイマーですからね。付与魔法くらい使えてもおかしくないでしょう?」
そっか。
普通のテイマーは付与魔法は使えないのか。
ルーリさんの授業では、まだそこまでは教えて貰っていなかった。
とにかく今はそんなことはどうでも良い。
僕は元に戻った封蝋を両手の指で挟み込むようにしながらガエルに封蝋が向くように持ち直す。
「この封蝋についてはルーリさんに教えて貰いました」
そして僕はその修復されたばかりの封蝋をもう一度割り開く。
面倒なのでペーパーナイフなどは使わない。
おかげで指先にパキッという気持ちいい刺激が伝わって来た。
「さてと。僕も実物を見るのは初めてなので上手くいってるといいんだけど」
僕はそう呟きながら封書を開けると、中の紙を取り出した。
そしてそれを開き、中を確認する。
「ルーリさんの言っていたとおりだ」
僕は中を確認してから、取り出した紙をガエルに向けて広げてみせる。
横からヤンマンとギムイ、そして今度はアガストさんとルーリさんも覗き込んできた。
「なんだこりゃ」
「たしかにさっき封書の中に入れたのは白紙だったはずですが」
ヤンマンとギムイが、紙の正面を見てそう呟く。
広げたその紙には、先ほどまでは何も書かれていなかったはずだ。
だけど、僕がもう一度封をしてそのままもう一度『僕が』開封した結果――
「ごく普通の挨拶しか書いてませんね」
「これじゃあからさま過ぎるんじゃねぇか。差出人はセンスがねぇな」
隣接する隣国の領主からの、何の変哲も無く当たり障りの無い社交辞令に塗れた文章がいつの間にか記されていたのである。
「私も実物は初めて見ました。これが魔封蝋の力なんですね」
「本人意外が封書を開けると、中身が書き換わる……それが魔封蝋だ」
重要な文書を送り合う時、途中で何者かに奪われたり、事故などで紛失すると大変なことになる。
なので、そういった文書を送る時はそれぞれの魔力を刻んだ魔封蝋を使うのだそうだ。
中身そのままに開封できるのは、魔封蝋に登録された当人たちのみ。
これであれば、送られた当人以外が開封したとしても機密は守られるわけである。
「……」
「さて、領主様。もう一度白紙を入れて封蝋を復活させます。ですので貴方の手でこの封を解いてくださいますか?」
もしガエルが封蝋を開け中の紙が白紙のままであれば、先ほどの文章は隣国から領主宛に送られ、しかも領主自身が開封し中身を確かめたものだという決定的な証拠になる。
僕はガエルに向かって歩み寄ると、彼にその封書を手渡した。
少しは拒否される可能性を考えていたが、以外に素直にその封書を受け取った彼に、僕は少し違和感を覚えたけれど……。
「ふむ。この封を開ければ良いのだな? タコール、どう思う?」
「領主様の無実を晴らすためにはそうするしか無いでしょうな」
無実?
あの封書は領主に宛てたもので間違いないはずだ。
ここまで僕が皆の力を借りて集めた全ての証拠と証言がそれを裏付けている。
なのにあの余裕そうな二人の表情は一体どういうことなんだろう。
「領主様。貴方が無実だと言うならどうぞ開けてください」
僕は元の位置まで戻るとそう告げる。
「おいエイル。本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。これで完全に証明されますよ。そうしたら直ぐにでも」
「ああ、ガエルを国からの依頼通り逮捕してやる」
アガストさんと僕はそう頷き会うと、壇上の上で何の表情も変えず封書を手に持ったガエル・タスカーエンを見つめた。
ゆっくりとガエルの指に力が込められていく。
誰もが息をのむ空気の中……。
パキッ。
封蝋があっさりと砕ける音が響き渡った。
「これでいいのか?」
「……ええ。それでは中身を確かめさせて頂きますね」
僕はもう一度前に歩み出ると、頬杖を突いたままつまらなそうな顔で封書を差し出すガエルから、それを受け取る。
そしてそのまま封書の中から紙を取り出すと、謁見の間に居並ぶ仲間たちに向けてそのガエルの関与を示す決定的な証拠になるであろう紙を、広げて見せたのだった。




