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古いゴブリン  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
第一幕 ゴブリンテイマー

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ゴブリンテイマー、黒幕と対面する

 ゴチャックの先導で廊下を進む。


 どうやらこの建物自体はそれほど大きくなく、少し大きめの民家を改造したもののようだった。

 窓は木の板が打ち付けられていたが、隙間から外の光がかすかに差し込んでおり、廊下を歩くには問題は無い。


「ここは結局いったいどこなんだろうね」

「多分、例の野党の住処だとおもいますけど」


 廊下の突き当たりを曲がると扉があり、その扉を開く。

 そこは牢番の部屋のようで、壁には牢屋の鍵がぶら下がっていた。

 四人分の椅子と机、机の上には乱雑にものが置かれていて、とてもじゃないが綺麗とは言えない。


 この部屋の窓は他と違い特に板で塞がれているわけでも無いようで、つっかえ棒を使って半分くらい開かれた状態で放置されている。

 少し覗き込めば外が見えそうだ。


「見てみます?」

「見張りとか居るんじゃ無いの?」

『ゴブブ』

「誰も居ないって言ってますよ」


 僕はゴチャックの言葉を聞いてキリーとさんと一緒に窓の隙間から外を確認することにした。

 隙間から見えたのは、古びた数件の木造の家。


「どうやらどこかの廃村みたいですね」

「それを盗賊団がアジトに使ってるってことか」


 辺境の地では、中央から何らかの理由で逃げてきた人々が勝手に街道から外れた場所に村を作り、隠れ住んでいることも珍しくない。

 廻りの町や村との関わりが極端に少ないそういった所は、何らかの理由で村が滅びて廃村になることも多い。


 村民の減少による自然消滅ならまだ良いが、身内同士の争いや魔物の襲撃で滅びる場合もある。

 この村の場合、建物の損傷が少ない所を見ると自然消滅、もしくは住民がこの地を捨て別の町か村へ移住したかだろうか。


「あっ、キリートさんあっち見てください」

「ん? あれは僕たちの馬車だ」


 窓の隙間からギリギリ見える建物の脇に、僕たちが乗ってきた馬車が二台並んで置かれているのが見えた。

 そして、その馬車の陰になってわかりにくいが、向こう側に積み荷がすでに全て降ろされているのが目に入る。


「どうやらあそこに人が集まってるみたいですね」

「みたいだね。どうするエイルくん」

「もちろん、黒幕の顔が見える所まで移動しますよ」


 僕はそう答えて窓から顔を離すと、出口の扉をなるべく音を立てないように開く。

 小さく開いた隙間から光錯(こうさく)を使ったゴチャックが、先に外に出て廻りを確認するために出て行くと、しばらくして戻って来る。


『ゴブブゴ』

「そうか。それじゃあ案内してくれるかい?」

『ゴッ!』


 建物の周りを一周して確認したゴチャックによると、どうやら人が集まっている場所からこの牢屋の建物は死角になっているようで、このまま扉から出ても大丈夫だという。

 だけどいつ誰が戻ってくるかわからない。

 一応その警戒は必要だ。


「キリートさん。今から僕がゴチャックの力を補助魔法で強化します。ですから僕が良いと言うまで僕の手は離さないでくださいね」

「強化ってどういう……」


 僕は何か聞きたそうなキリートさんの手を左手で握る。

 そしてもう片方の手でゴチャックの手も掴んだ。


「いきますよ」


 僕は少し意識を集中してゴチャックに自分の魔力を送り込み、彼の力を解放する。

 瞬間。


「行くって何を――うわっ」


 僕の方を何をするのかと見ていたキリートさんが驚きの声を上げた。


「エイルくんが消えたっ」

「僕だけじゃありませんよ」


 僕は掴んだ手を、キリートさんの目線まで持ち上げるとそう答えた。


「あれ? 自分の手もぼやけて……これってまさか」

「ゴチャックの光錯(こうさく)スキルですよ」


 僕はゴチャックの力を強化することで、ゴチャックのスキルの効果範囲を広げたのである。

 ただし――


「テイマーバッグを奪われてるので、僕の手が離れると効果は消えちゃいますから、絶対に手は離さないでくださいね。絶対ですよ」

「あ、ああ。わかったよ。それにしてもテイムした魔物のスキルをこんな風に使うなんて」

「おかしいですか?」

「専門家じゃ無いから断言は出来ないけど、知る限り同じことが出来るテイマーを自分はしらないな」

「そうなんですね。それじゃあまり人前で使わないようにした方が良いですね」


 僕はそう呟くとゆっくり扉の隙間からゴチャックに手を引かれるように外に出る。

 両手が塞がっている僕の代わりに、キリートさんがゆっくりと扉を閉じたのを確認して、僕らはゆっくりと馬車と、その横の建物を陰にして盗賊団に見つからないように移動していく。


 前にも言ったが光錯(こうさく)スキルは万能じゃない。

 自らの体に当たる光を屈折させることで姿を隠すことは出来るが、よく見れば不自然に風景が歪んでいるのがわかる程度のものだ。

 特に自分が動いている場合はその屈折のゆがみの目立ちは大きくなる。


 それに足音や、歩くときに出る土煙まで消せるわけでは無い。

 なので慌てず走らずゆっくりと移動するのが鉄則だ。

 

「ふぅ、やっとついた」


 神経を研ぎ澄ませながら牢屋の建物から馬車横の建物の裏へたどり着いた時には、キリートさんはかなり額に汗を浮かべていた。

 そこまで気を張らなくても大丈夫だとは思うけど、彼にとっては初めての体験なのだから仕方が無い。


「沢山の人の気配がありますね」

「十人以上はいそうだね。しかも中にはあのAランクパーティもいるんだろ?」

「ギムイたちですか。まぁ、彼らが『本当にAランクパーティ』だったら少しは手こずるかもしれませんね」


 僕は両手を離さずに建物の陰から顔を出し、馬車と建物で見えなかったこの廃村の入り口前広場らしく場所を眺める。

 そこには野蛮そうないかにもな格好をした十人ほどの男たちと、ギムイたち冒険者、そして二人ほど見かけからは盗賊とは思えない男が立ち話をしていた。


「あれ?」

「どうしたんだいエイルくん」

「僕が予想していた人物がいないんですよ。それともこれから来るのかな? でも……」


 その男たちの向こう側にもう一台、少し僕たちの馬車より小さめだけど立派な馬車が止まっているのが見える。

 多分ギムイたちが出迎えに出た相手が乗ってきた馬車だと思うけれど、その馬車からこれから誰か出てくるような様子は無い。


「じゃあの二人の内どちらかが『あのお方』ってことなのかな?」

「エイルくん、自分にもちょっと見せてくれるかい?」

「お願いします。僕が知らないだけでキリートさんなら知ってるかもしれませんしね」


 僕はそう答えると、手を離さないように注意しながらキリートさんと場所を変わる。

 そして彼が建物の陰から顔を出したとたん――


「あいつは……トスラじゃないか!? どうしてこんな所に」

「トスラって誰なんです? キリートさんのお知り合いですか?」

「ああ。知ってるも何もあいつは――」


 ダイト商会の代表であるケリー・ダイトの一人息子であり、ダイト商会の後継者。

 トスラ・ダイトに間違いないとキリートは答えたのであった。


 トスラ・ダイト。


 ダイト商会次期代表と言われているその男のことはエイルは初耳だった。


「僕はてっきりルーリさんの言ってたケリー・ダイトって人が来るものだと思ってたんですが」

「ケリーさんか……あの人は確かにレリック商会とずっと戦ってきたし、自分も何度も辛酸をなめさせられたものだが」


 ダイト商会の二代目として、若い頃からタスカ領でも一番の商会であったダイト商会を守り続けて来た。


 そんな彼の足下に突然現れた商売敵であるレリック商会。

 きっとケリーにとってそれは全力で叩き潰さなければならない相手だったに違いない――と、僕は思っていた。


「父とケリーさんはいつも顔を合わすと喧嘩してたけど、でもあれは似たもの同士だったからなんだ」

「本当はそれほど仲は悪くなかったってことですか?」

「よく家でも愚痴ってたけどね。お前の代までにはレリック商会をダイト商会と五分で戦えるようにして、あのいけ好かない男の鼻を明かせてやるって」


 それまで、商人になってからずっと敵なしだったケリー・ダイトにとって、ターゼン・レリックという男は初めて相まみえる好敵手だった。

 漫然と日々の業務を繰り返す日々の中、ケリーにとってやっとその日常に変化を与えてくれる存在だったのだ。


「あの二人はいつも正々堂々、正面から殴り合ってた。だからダイトとレリックの二つの大商会がこの領地に存在出来てたとも言えるね」


 だが、ケリーの後継者であるトスラは……。


「あいつは父親ほどの商才は無い……まぁ、自分も父にはまだ全然かなわないと思ってるけど、いつかは追い抜いてやるつもりで居るんだが、あいつは違う」

「違うって何がですか?」

「あいつは今すぐにでもケリーさんを超えるつもり……いや、もう超えたつもりで居るんだ。町の青年会で何度も話すことがあったけど、いつもいつも自分が今すぐにでもダイト商会の代表になればレリック商会なんてあっという間に潰してやれるのにって」


 青年会でも自分の意見と合わない事案にはことごとく反対し、その全てをダイトの力を利用して潰す。

 いつしか青年会はトスラと、その腰巾着の独壇場になってしまったのだという。


「自分がなんとか出来れば良かったんだけど、見ての通り僕は気が弱くてね……」

「……キリートさんは優しすぎるんですよ」

「そうかな」

「でも、優しいだけじゃダメだと僕は思うんです」

「えっ」

「優しさだけ与え続けたら、いつしか相手はそれを当たり前に思ってしまうんですよ。だから、時々きっちりと厳しさを見せてあげないと相手は優しさに甘えてしまうんです。きっとあのトスラって人もケリーさんや貴方の優しさに甘えて、それを当然だと思い込んでしまったに違いありません」


 僕はキリートさんにそう告げると建物の陰に全員を呼び寄せる。


「ケリー・ダイトじゃなかったのは驚きましたが、それ以外は大体計画通りでした。なので僕は今から彼ら全員を拘束しようと思います」

「ああ、分かってる。その間ここを動かなければ良いんだね?」

「ええ。僕が手をはなすと光錯(こうさく)の効果は消えてしまうので、周りには注意しておいて下さい。一応ゴチャックを護衛に置いておきますが」


 戦闘中にキリートさんが相手に見つかって人質にされるような事態は避けなければならない。

 これはルーリさんの入れ知恵だけど、実際油断して人質を取られたせいで、実力がある冒険者が野盗に倒された例も珍しくないらしい。


「それじゃあ行きます」


 僕はキリートさんとゴチャックが頷くのを確認してからゆっくりと手を離す。

 途端に僕の体とキリートさんの体を包んでいた光錯(こうさく)スキルが解ける。

 そして広場に集まる盗賊たちの隙を突いて一気に馬車の元まで背を低くして駆け込むと――


「さぁ、皆待たせたね。出番だよ」


 僕は親指と人差し指で輪を作り口に当て、思いっきり指笛をならした。

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