ゴブリンテイマー、休憩する
「それで、どうだった?」
『ゴブゴブブ』
「なるほど。それなら十分戦えそうだ」
『ゴブブゴ?』
「あとは手はず通りに頼むよ」
『ゴ!』
僕に一通りの報告を追えたゴチャックは、もう一度光錯スキルを発動させ姿を隠すと、幌の隙間から外に飛び出していく。
それを呆然とした顔で眺めていたキリートさんに僕は向き直ると小さな声で彼の耳元に話しかけた。
「どうやらこの先の中継所の少し先で仕掛けてくるようです」
「本当かい?」
「そこに脇道が隠されていて、野盗の連中が待ち構えていることをゴチャックが確認してくれました」
そして僕はキリートさんと最終的な確認をすると、馬車の床にもう一度寝転がった。
無理に動いたせいで吐き気が限界に近づいている。
だが、もうそろそろ奴らが動き出すはずだ。
今、吐いている場合では無い。
そんなことをもうろうとした意識の中で考えていると、ゆっくりと馬車の速度が落ち、やがて止まった。
「中継所に着いたみたいだ」
「これで休めますね」
僕は先に降りたキリートさんに助けられつつ馬車を降りる。
やっぱり揺れない地面は最高だ。
僕はそのままフラフラとした足取りで、中継所に作られた休憩場所へ向かう。
街道の中継所には簡単な宿屋と領軍から派遣された兵士の詰め所、そして簡易的な休憩場所と食事処が揃っている。
周りは頑強とは言えないが、それなりの壁に囲まれていて、出入りの門には常に兵士が目を光らせていた。
「坊主、そんなことで護衛なんて務まるのかい?」
休憩所の椅子に倒れかかっていた僕に、護衛の一人である大男のギムイが馬鹿にしたような声音でそう言った。
確かに初めての馬車に酔ってふらふらの僕は、そう嗤われても反論は出来ない。
「ええ、まぁ。僕自身は動けなくても、僕には戦ってくれる仲間がいますから」
そう答え、腰のテイマーバッグを軽く叩く。
テイマー職の良いところは、テイマー本人が動けなくても、テイムした魔物には影響が無く、各自の判断で動いてくれることにある。
もちろんテイマーからの的確な指示が無ければ、知能の低い魔物の場合では殆ど役に立たない。
僕の使役するゴブリンという魔物はまさにその典型で、普通であればたとえテイマーが指揮したとしても低級な冒険者にすら勝てないだろう。
「けっ。テイマー様は楽でいいよな。自分の代わりに魔物を戦わせればいいんだからな」
ギムイの後ろから、ひょろっとした目つきの悪い男が顔を出し、そう吐き捨てるように言った。
彼はたしかヒャラクだったか。
Aランクパーティ【疾風の災禍】の斥候や罠解除担当だったはずだ。
僕たちの馬車に先駆けて斥候としてこの休憩所に先にたどり着いていたらしい。
「おうヒャラク。どうだった?」
ギムイが振り返ってヒャラクにそう告げると、ヒャラクは気持ち悪い笑みを浮かべながら「今のところ何の問題もねぇな」と答えた。
普通に聞けば野盗からの襲撃は今のところなさそうだという話に聞こえるが――
「予定じゃ、少し休憩して次の中継所で一泊だったな坊ちゃん」
「その予定だけど、何か問題が?」
「いや。そこのガキのせいで予定変更でもあったら困ると思ってよ」
ギムイが僕を顎で指し示しながらそう口にする。
僕は少しむっとしながら体を起しながら「僕のことは気にせずに。きちんと。予定通りに進んで貰って結構です」と答えた。
「ちっ、生意気な目をしやがって。雇い主のご指名じゃなきゃここに捨てていきたいくらいだぜ」
ギムイはそう吐き捨てると他のパーティメンバーの元へ帰って行った。
僕はその背中を見送りながら、隣で不安そうな顔をしているキリートさんに精一杯の笑顔を見せ。
「大丈夫。こっちも予定通り進んでますから」
そう告げたのだった。




