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54話 親友に葵先輩が知られる

 

 ――桃華視点


 今日は……葵先輩と外回り! お仕事だけどちょっとした遠足気分になちゃう! あのおでかけ以来二人で会う事は無くて葵先輩も残業続き……。


 私ももう少ししたら残業でお手伝いしてもらうと課長さんから言われたけど、今はまだ残業をしていない。


 一緒に残業……な、なんか、きっかけになるかも。


 さ、さて! あんまり仕事中に余計な事を考えてると失敗しちゃいそうだし。集中しないと。


 立ち並ぶオフィスビル群の中、手元のメモを頼りに住所を探し目的地のビルに入った。


「えっと、ここの12Fですね……あ、ありました!」


 無事今日の訪問先を見つけた。どうやら葵先輩は場所を知っているみたいであり、私が練習がてら場所を探すという事をしている。


 こんな小さな所まで気を使って慣れさせようとしてくれてる。流石は部長さんが言う社内一面倒見のいい人だ。でも私以外の人にも同じなんだろうなぁ……そこはちょっとやきもち焼いちゃうかも。


 振り返ると珍しくぼーっとしている葵先輩が居た。なにか考え事をしているみたいだけど……。


「葵先輩? どうしました?」


「いえ、じゃあ行きましょうか。ちょうど5分前ですしね」


「はい、勉強させていただきます!」


 今まで梓先輩や課長さんとご一緒させてもらったけど葵先輩とは初めて。私の出番は無いだろうけど足を引っ張るような事はしないように気を付けよう!


 ぐっと拳を握って気合を入れた。よ~し、頑張るぞ~!



 受付で案内され、会議室に向かった。まだ他所さんの会社にお邪魔する事に慣れていないから緊張しちゃう……。うう、綺麗な会社ですね……。


 案内された会議室もこれがまた広かった。私達は二人ですけど10人以上お相手さんがいらっしゃるのでしょうか? 完全にスペースが……。


 そんな部屋の空間の心配をしていたらクライアントさん達が現れ、葵先輩が立ち上がった。少しだけ遅れて私も慌てて頭を下げた。


 あ、危なかった。危うく会議室を眺めながらクライアントさんを無視しちゃうところだった……余計な事を考えるのはやめよう……。


 頭を上げると二人の女性が映った。おそらく上司の方とその部下の方――沙織ぃ!?


 課長さんと同じく抜群のスタイルに整った顔立ち、完全無欠の美女。間違いない、沙織だ……この会社に勤めてたんだ……。せ、世間は狭いね。


 沙織の方も同じく面食らった様子で動揺の色が見える……あれ? 私、何か大事な事を忘れているような。


 私が好きな人が今この隣に居る人だとバレちゃう!? 名前もこの前言っちゃったし!


「お忙しい時間を割いていただきありがとうございます。坂上葵と申します。隣に居るのは鈴宮桃華、新入社員の研修も兼ねて同行しております。ご無礼な点もあるかと思われますが、何卒ご容赦下さいませ」


「こちらこそ、宜しくお願いいたします。それに弊社も研修中でして。この時期は新人研修の時期ですものね」


 あ、なんか普通に名前呼んでくれた。少し嬉しい~。じゃなくて! もうバレちゃったあ!!


「初めまして、坂上葵と申します。宜しくお願いいたします」


「は、はい! 黒田沙織と申します!」


 沙織と葵先輩が名刺交換してる……ああ、面と向かってバレた……。でもいいな、私だって葵先輩の名刺持ってないのに。後で譲ってもらおうかな。


 私は上司さんと名刺を交換し、続いて沙織と交換になったのだけど……見た目には冷静を装って清楚な顔をしてるけど、口元が少し上がってる……。それに友達同士で名刺交換って、なんかちょっと変な感じがする……。


「す、鈴宮桃華と申します……」


「黒田沙織です、よ、宜しくお願いいたします……」


 やっぱりお互いぎこちない形になってしまった……きっと後で色々聞かれる&言われるんだろうなぁ……。




 葵先輩のプレゼンは以前会議の時にも見させてもらったけど、完璧な内容だった。クライアントさんの質問にも的確に答えていたし見ていて惚れ惚れした。違う意味でも……。


「ありがとうございます。御社の企画は素晴らしいですね。是非今後とも長いお付き合いをさせていただければと思います。ただ……この資料のこの部分が分かりづらい点がありました。ああ、でも坂上さんの説明で納得出来ましたので大丈夫なのですが」


 背筋が凍るような感覚に襲われた。上司さんが持つ資料は私が作ったものだった。


 私、足引っ張てる……。


「大変申し訳ございません、浅学菲才の身であり御社のご期待に沿えるよう精進いたします」


「あ、そう言う訳じゃないですよ。十分伝わりましたから」


 どうして葵先輩が悪い事になっているんですか!? それを作ったの私ですよ! そ、そうだちゃんと言わないと!


 口を開こうとした瞬間、葵先輩の手が見えた。多分、任せろって意味……かな。私がしようとした事を察して……。


 そのまま葵先輩は交渉の結果、新規案件を獲得するに至った。不利な状況であったとは思うんだけど、いつも以上に流暢に丁寧にお話をされていて相手の感触を掴んだのが大きいところだと素人なりに思った。


 そんな技術もお持ちなんですね……私、今の部署に居てていいのか。何の役にも立ってない……。



 訪問先の会社を後にし、会社へ帰る為に駅に向かっている所で葵先輩が足を止めた。


「少し休憩してから会社に戻りましょうか。緊張したでしょ?」


「すみません……あの資料、私のせいで……」


 あの時、葵先輩が止めてくれなければ私が余計な事を言っていた可能性が高い。そして商談も失敗する可能性もあった。ほんとに私って何やってるんだろう……。


 幸い雨が降っているので傘をしているのと身長差があるので私の顔は見えていないと思う。こんな情けない顔見せたくもないですぅ……。


 私の返事を聞かずに葵先輩は『そこの席座って下さい』とだけ残し、カフェに入っていった。オープンテラスのカフェであり、屋根はあるので濡れはしない。


 そのまま席に座り今日の事を思い出していた。お仕事もダメ、恋愛もダメ、ライバルは居なくなったと思ったら更にパワーアップして自分の上司となって現れる。私、前世で何か悪い事したんだろうか……。


 どうしようもない事を考え込んでいると葵先輩が戻って来た。手には二つのカップが握られていた。


「はい、どうぞ。レモンティーにしましたけど良かったですか?」


「あ、ありがとうございます」


 レモンティー……好きです。その後、元気の無い私を見てか、少し昔の話をしてくれた。梓先輩が泣いていた事や課長の事も。だけど課長の事は少し濁した感じだった。


 気になります! どうして梓先輩の事は言えて課長さんの事は隠すんですか!? や、やっぱり心のどこかでは課長さんの事を……。そうだ、そうに違いない! 


 それに梓先輩と課長さんは天才肌だとおっしゃった。おそらく葵先輩も……私だけ違う。


「私はそんなの無理ですぅ……それに迷惑をかけっぱなしで――」


「いいの、いいの。そういうのは俺の仕事だからね。鈴宮さんが失敗すればするほど俺の力が付くから」


 そんな優しい言葉かけられたら……ず、ずるいですぅ。ドキドキしちゃうじゃないですか! 思わずレモンティーを飲んで照れを誤魔化した。


「それに俺の仕事のスタイルは積み立て型なんで。どんどん失敗して俺を優秀にして下さいね!」


 葵先輩も私と同じ……。な、なんだろう、ちょっと嬉しいです!


「も、もう……そんな事言わないで下さいよ~。私だってコツコツ頑張りますよぉ。あ、でもわざと失敗して葵先輩を困らせる事も出来ますね!」


「そ、それは勘弁して欲しいな……やっぱ失敗しないで」


「ふふ、どうしましょうかね~?」


 えへ、ちょっと意地悪しちゃった。そっか、葵先輩と同じスタイルかぁ……うふっ、それだけでなんか心がウキウキしちゃう。


 ……私、今、地で喋っちゃった。そういうところ! そういうところなんだよ! 私ぃ~! 調子に乗っていつもやらかして! あぁ、すみません、葵先輩! 生意気な後輩で!


「あの、もし良かったら仕事終わりにご飯でも……いかがでしょうか?」


「えっ、は、はい! 喜ん――」


 心拍数が一気に跳ね上がった。ま、まさかのお誘い!? 


 でも次の瞬間、このタイミングでスマホの呼び出し音が鳴った。葵先輩も同じタイミングで鳴ったのでおそらく会社からだと思う。


 葵先輩はすぐさまスマホを確認した。少しだけ不機嫌そうな顔はしていたのが少し嬉しかったけど、即対応なんですね……当然ですね、今業務時間中ですしね……。


 私も少し遅れてスマホを確認した。送信者は梓先輩で内容を確認する為にタップすると。とんでもない内容が書かれていた。


『今日の定時終わりにCHICK集合~!』


 あ~ず~さ、せんぱぁあ~い! どうして、どうしてこのタイミング何ですかぁ!?


 今ですね!? 念願のお食事デートが成立しようとしたところなんですよ? 何処かで見てるんですか!? これはもはや嫌がらせの領域ですよ!?


 心穏やかではないけどなんとか取り繕って葵先輩に声をかけた。


「葵先輩……ど、どうしましょうか……」


「行くしか……無いですね。すみません、ご飯はまた次の機会にしましょうか……」


 無残に潰えた……うう、梓先輩、どう責任取ってくれるんですかぁ……。


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