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35話 健全過ぎるお泊りデート

 

 ――桃華視点


 目が覚めるとお腹の痛みも治まっていた。


「あれ……私、寝ちゃって……」


 体を起き上がらせ、周り見るといつもの風景じゃなかった……そ、そうだった! ここ葵先輩の家だ! いろいろお話してくれている間に寝ちゃったんだ!


 人生初のデート……しかも最上級のお泊りデート、そこで私は……寝てた。こんな事ってあるの……。


「あ、目が覚めましたか? ちょうど晩ご飯が出来た所なんですが……」


 葵先輩が居た。当然の事、だってここは葵先輩の家なんだもん。で、でも晩ご飯? い、今って何時……。


 部屋に備え付けられていた時計を見ると6時を過ぎていた。


「わ、私、ずっと寝て!? す、すみません! 折角のお休みをしかも晩ご飯まで!」


 申し訳無いにも程がある……新人がぐーすかぴーすか寝てる間に先輩にご飯を作らすなんて……。


「あ、いや、じ、実はですね。頑張って作ったんですけど、ちょっと失敗しちゃって……ど、どこか食べに行きましょうか!?」


 どうやら調理に失敗したみたいだった。確かに少し部屋が焦げ臭かった。一緒にキッチンの方に向かうと少し焦げたショウガ焼きと味噌汁、サラダがお皿に盛られていた。


「こ、これ、葵先輩が?」


 相当な激戦がこの場所で繰り広げられたのだと思う。お肉は焦げているし、野菜のサイズはバラバラ、お味噌汁の入ってるお鍋は噴きこぼれた後が付いていた。


「いやあ、料理って難しいですね……全然ダメダメでした。はは、ちょっと勿体ないですがやっぱり晩ご飯は外で――」


「そ、それ!? 怪我したんですか!?」


 言葉を途中で遮った。葵先輩の指に赤く染まるものが見えたから。


 左手の人差し指にティッシュを乱雑に巻き付け、セロテープで止めてる……あまりにも酷い応急処置だった。


「あ、ちょっと、包丁でぐさっと……大丈夫ですよ、もう血は止まって――」


「ダメです! ちょっと待って下さい! 私、絆創膏持ってますから!」


 急いでリュックの中を漁った。絆創膏などを入れているポシェットは一番底にあったので服やタオルを放り出して掴み取った。


 葵先輩もこちらに来てくれたので私の前に座ってもらった。早速セロテープを剥がすとべっとりと血の付いたティッシュがほどけ、傷口が見えた。


「少しだけ我慢して下さいね……あ、葵先輩! ちょっとじゃないですよこれ! 結構深いですよ!」


 傷口を見るとかなり深く切れている事が分かった。こんな傷にティッシュぐるぐる巻きは無いですよぉ……。


「とりあえずこれで……あんまり動かしちゃだめですよ! 傷口が開いちゃいますから! 後、周りに付いた血をふき取りますので」


「あ、は、はい、ありがとうございます……あ、あの……」


 葵先輩が傷口では無く別の方向に視線を向けていた。その先を見ると先程リュックの中身が散乱していた。ブラとパンツなどが豪快に……。


「きゃああっ!!」


「ぎゃああっ!!」


 恥ずかしい叫び声と痛みの叫び声が重なった。原因は両方私、思いっ切り怪我をしている指を握ってしまったの……。



「すみません! すみません!」


 ただひたすらに謝った。ドジとか言うレベルじゃない。医療ミスだよ……。おかげでまた血が滲み出しちゃいましたぁ……。


「だ、大丈夫ですよ、こちらこそすみません……」


 先程の下着達は大急ぎで直した。無我夢中だったので気にもかけずに中身をばらまいてしまったみたい……。


「じゃ、じゃあ、とりあえず着替えてもらって、外に食べに行きましょう」


 私は首を横に振って葵先輩のシャツの裾を持った。


「私、あの料理が食べたいです……」


 慣れない料理をして、指を怪我してまで作ってくれた晩ご飯を捨てる事など出来ない。そんな事をしようものなら人として疑われるレベルだよ。それになにより、私の為に作ってくれたお料理を食べだい!


「あ、味は保証出来ませんよ? というより確実に不味いですよ?」


「いいんです! 私はこれが食べたいです!」


 味なんかよりも気持ちなんです!




 葵先輩が作ってくれた料理をダイニングのテーブルに並べて早速いただいた。お肉は焦げた味がしたし、お味噌汁は煮詰め過ぎたせいか辛かったし、サラダはかなりの歯ごたえがあった。


「葵先輩、とっても美味しいです!」


 それなのになぜか、すごく美味しく感じた。


「ええ~、そうですかぁ? 俺はめっちゃ不味く感じるんですけど……」


 お肉を咀嚼しながら味と同じく文字通り苦い顔をしていた。でも、私には最高のお料理ですよ!


 残さずに全部綺麗に食べた。ご馳走様です! そしてありがとうございます、葵先輩!




 晩ご飯の片付けも終わらせ、いよいよする事が無くなってしまった。


 よくよく考えたら付き合ってもいない男女が一つ屋根の下に居る訳だから、当然……そっちの方に流れていくのが自然だと思う。でも、今日は私が……。


「あ~、鈴宮さん? 良かったら先にお風呂入っちゃって下さい」


 お、お風呂!? そ、そうですよね、お風呂に入らないと……で、でもシャワーにしておきますね。今日はその、いろいろ事情がありますので。


「は、はい、そ、それでは失礼します……」




「ドキドキするよぉ……お、男の人の家で裸に……」


 当然シャワーをするのだから裸になる必要があるのいう間でも無いけど、とてつもない程の緊張感を感じる。


「えっと、シャンプーは……」


 目の前に並ぶシャンプーとトリートメント。葵先輩の匂い……はぁ、また私変な事を考えてる……ほんと最近自分でもおかしいと思う。今度、梓先輩に相談しよう。このままだと確実に葵先輩に嫌われてしまう。



 新しい下着をつけ、改めてパジャマを着た。シャワーだけにしたけどとってもさっぱりした。今度は下着をさらさないようにしっかりと中の見えない袋にしまった。もはや今更感はあるけど……。


「すみません、お先にいただきました……」


「あ、いえいえ、後で俺も入りますね」


 浴室から出てくると葵先輩はお酒を飲んでいた。私が苦手なビールだ。


「じゃあ、もう少しこの街の話でもしましょうか?」


「はい!」


「実は和夫ですが、こいつがまた一癖ありましてね!」


 和夫さんの話をしながらキッチンの方に向かうと冷蔵庫から私が選んだレモンティーを持ってきてくれて一緒にお話しをする事になった。たくさんのお菓子と共に。




「あれ、もうこんな時間ですか」


 楽しい時間は進むのが早い。話に夢中になっていると時計は22時を回っていた。テーブルの上にはビールの缶とお菓子の食べた後が山盛りとなっていた。


「とりあえず俺はお風呂に入ってきますね! すみませんが少し待って下さいね~」


 葵先輩はかなりの量のお酒を飲んでいる為、足元が少しふらついていた。それでもなんとか浴室に辿り着き、お風呂に入って行った。


「ちょっとだけ悔しいなぁ……」


 テーブルを片付けている時にふとお腹を撫でた。薬が効いてる為、痛みはそれほど無い。でもあまり無理には動けない状態。だから葵先輩は家でゆっくりさせてくれたんだと思う。でも、何かを期待していた自分も居た。咲矢と沙織だって……。


 いざそうなったら取り乱しまくる自信はあるけど……。


「焦らなくてもいいよね……うん、私のペースで頑張ろう。今日だってお泊りデートはしてる訳だし絶対にそうならなとダメって訳でも無いし」


 リビングのテーブルの上を片付け終わる頃には葵先輩もお風呂から上がって来た。首からタオルをかけて上半身裸で。


 ほんのり汗をかいた上半身にはぜい肉は見当たらず、引き締まっていた。昔鍛えていたとは言ってたけど、咲矢よりも遙かにしっかりした体つき、それにおっぱい丸見え……。


「あ、葵先輩!? あの、あの!?」


「え? あっ!? す、すみません!」


 私の声に驚いたようで急いで服を着てくれた……も、もう! でもこれで動じてちゃプールとか行けない。だって男の人は水着だと上は着ないもんね。


 今から夏の事を考えるなんて気が早過ぎるかな……。



「じゃあ、そろそろ休むとしますか。俺はソファーで寝ますので鈴宮さんはベッドを使って下さいね」


「そ、そんな! わ、私がソファーで大丈夫です! 日中も使わせていただきましたし!」


 とは言ってもそこは譲ってくれず、ベッドで寝かせてもらう事になった。日中、散々お昼寝したにも関わらず緊張の連続から、意外な事に再び睡魔が襲って来た。


 私……寝てばっかりだ……。


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