25話 女子高生にお願いする
――桃華視点
葵先輩と間接キス、葵先輩と間接キス、葵先輩と間接キス……。
お店から出ても先程の事件が頭から離れない……そして物理的に離れられない状況になっているのは梓先輩だった。
葵先輩の背中におぶさられ幸せそうな顔をしている……。ずるい……。
「あ、あの、大丈夫でしょうか、梓先輩……」
「ああ、たまにあるんですよ。気分が乗るとこうなるんですよ。きっと鈴宮さんと一緒に仕事が出来る事が嬉しかったんですね」
「梓先輩ぃ……」
さっき応援してくれるって言ったじゃないですか……おいしい所持って行ってますよぉ~。その行為は応援の行為とはかけ離れていますぅ。
「とりあず梓は店長のとこに預けに行きます。鈴宮さんは遅くならない内に帰って下さいね。その……また後でメールしますから……」
うん、そうして下さい! あ、後でメールをしてくれるんですか……ってメールぅ!?
「は、はい……そ、それでは後程……」
やったぁ! 葵先輩からのアプローチ、初めていただきましたぁ!
心の中では尋常では無いくらい喜びが跳ねているけど、したたかに頭を下げて駅へと向かった。ちなみに、舌を噛みしめて顔の緩みは押さえた。
「たっだいま~!」
「お帰り、やけに元気ねえ~」
お母さんが出迎えてくれ、リビングでひと心地付いているとお茶を淹れて持って来てくれた。
「そう言えば咲矢がずっと待ってたわよ? あ、来たわね」
「姉ちゃん、遅いぞ!? 明日の事まだ何も聞いて無いんだぞ!」
随分ご立腹みたい。お茶でも飲んで心を落ち着けて欲しい。
「ああ、ごめん、ごめん。明日は10時に駅前のショッピングモールに集合だよ。私は案内するだけですぐ帰るからね」
「うし、分かった! じゃあ俺は明日に備えて寝るぜ! じゃあお休み!」
騒がしい弟だ……。どれだけ楽してるんだか。まあ、私もだけどね。
「全く、あの子ったら、誰に似たのか……きっとお父さんね……」
ため息を吐きながらお茶をすすっていた。私もそう思うよ、お母さん。
話題絶頂のお父さんは今日もまだ帰って来ていないみたい。だけど、お父さんも世間では結構評判が良いらしい。きっと若い頃は咲矢みたいな感じだったんだろう。
「そうそう、私達GWの二日目から二泊三日で温泉旅行に行ってくるからね! と、いってもあなた達ももう子供じゃないし心配する程じゃないわよね。宜しくね~」
「うん、大丈夫だよ~。ゆっくり楽しんで来て~」
「そうそう、桃華ちゃん……彼氏さん、今度紹介してね! それに、私達が家に居ないタイミングは上手に使ってね! あ、でもちゃんと避妊は――」
「ちょっ! お、お母さん!? な、なにを言ってるの!? そ、そ、そんな事しないし、彼氏でも無いから!」
何て事を娘に……。
「もう! お母さんったら!」
部屋に戻り、スーツを脱いで部屋着に着替えながら先程の事を思い出していた。
「まだ彼氏でも無いし、なってくれるかも分からない存在なんだから……清音ちゃんとかも居るし……女子高生かぁ……ハードル高いなぁ……」
ふとスマホを見るとメールの着信が残っていた。
「あ! メール! あ、葵せんぱ……なんだ、沙織か……」
ごめんね、完全に残念賞の扱いをしてしまって。えっとなになに……『興奮して眠れません』、『神が降臨される』、『時計の針の進みが悪い』と。
ふむ。最後のは電池を入れ替えた方がいいと思う。仕方無いから返信しておこう。
『とりあえず目を閉じて下さい』
よし、これで――あ、またメール。あの子、スマホ握りしめてるのかな?
「はいはい、どうせ眠れないとかでしょ? 羊の数でもかぞえ――」
送信者の名前には私が登録した文字『葵先輩』と表示されていた。
――葵視点
「くっ! 大将が何も言わないと思っていたら、梓! お前寝たふりしてただろ!」
「へへ、そうだよ~。まあ、酔ってはいるけどね~。でも大将って凄いね、ちゃんと見抜いてるんだから~」
意識もはっきりして自分で歩ける状態にも関わらず、俺は喫茶店まで背中に乗せて運んでいる。
「いいじゃないの! こんな美人なお姉さんが密着してるんだよ? 高いお金払わないとしてくれないよ? こんな事!」
「あのなあ……」
物理的に梓のアッシーとなっている。駅から歩いて2分程の距離なんだが。はあ……早く喫茶店に行こう。
「済まない、梓が迷惑をかけた……」
喫茶店に入ると店長が片手で猫を持つみたいに梓を持ち上げてくれた。
「えへへ、ダーリン~!」
なんかぶら下げられたまま頭にちゅっちゅしてる……。こいつ、確かに酔ってるのは酔ってるな……。
「梓がこれほどまでに酔うとは……よっぽど楽しい事があったんだな」
「ええ、この前に来た鈴宮さんが同じ部署の同僚になったんですよ。それで歓迎会も兼ねて『飲ま飲ま』で飲んでて。じゃあ店長、梓を宜しく、俺は帰りますね」
「ああ、世話をかけた。今度特別な珈琲を飲ませてやる」
「葵~ばいばあ~い!」
「はいはい、ばいばい、と。それじゃ店長、おやすみなさい」
鈴の音を鳴らして店の外に出て、家の方向とは逆へと足を向けた。GW、俺にはやらなければならない事がある。あいつの力を借りるのはしゃくだが……。
「いらっしゃいま――うわっ! 葵ちゃんだ!」
「お客に向かって『うわっ!』とか言うんじゃない」
やって来たのはコンビニであり、清音に用があった。レジの前に立ち中々のご挨拶を承った。
「お買いもの? でも残念! 高校生は22時までは働けないのだ! 私のレジはもう受け付けられません~! またのお越しを~」
頭の上に手でばってんマークを作りながら楽しそうに伝えてきた。店内の時計を見ると21時45分を指しており、確かに高校生の働ける時間の限界であった。だが、それを狙って来た訳なのだ。
「ああ、清音? ちょっとだけ時間くれないか? 実は頼みたい事があるんだ」
「え、葵ちゃんが……女子高生はお値段張るよ?」
「誰が買うか! 次のシフトのお兄さんも困ってるからくだらない冗談言ってないで早くあがれ!」
『もう、冗談だよ~』と言いながらスタッフルームに入りしばらくすると制服を着た女子高生が出て来た。本当にこいつはノリが軽くて困る。しかしこいつしか頼める相手がいないという俺の人脈を同時に恨んだ。こんな奴でも俺の中では貴重な存在だ。
「ほら、家まで送って行ってやるから……って何してるんだ?」
まるで捨て猫のような瞳でこちらを見て指を指し訴えていた。その先にはレジ横のホットコーナーがあった。
「うう、葵ちゃん、私、お腹が空いて力が出ない……ああ、そこの特選チャーシューまんが食べたい……あ、あんまんでも……カレーまんも捨てがたいし。いやいや、ここはピザまんで」
「お兄さん! もう面倒だから全種類1個づつちょうだい!」
たかられた……まあ、高い物ではないからいいけど……。
「おいひぃ~! お仕事終わりの肉まんは堪らないね!」
「さよですか」
住宅街を歩きながら肉まんを頬張る女子高生、絵にはならない。さて、俺もただで肉まんを喰わせた訳では無い。
「清音、さっき言ってた頼み事の件なんだが……」
「私は肉まんで買えるほど安い女じゃないよ!? 女子高生というブランドは――」
「ほれ、ピザまんだ」
「なあに? 葵ちゃん、何でも言って~」
お前は数百円で買えてしまうのか……。でもその素振りはあの頃と被るからやめて欲しい。少し不安になるぞ?
袋からピザマンを渡してあげるとそれはもう笑顔を振りまきながら口に頬張っていた。
「単刀直入に言うぞ? 明日、俺と買い物に付き合ってくれ。服が欲しいんだ」
決して街のコンビニの女子高生に頼むべき事では無いのは重々承知している。だが、俺は服のセンスは皆無だし、街の知り合いは喫茶店の熊店長、女医のラーメン屋、女装のファンシーショップオーナー、声高な居酒屋の大将などなど、ロクな知り合いが居ない。
悔しいがこいつが一番まっとうなのだ……。
「あ、ひょっとしてこの前の子とデート? いいなあ~私も一緒に行きたい~!」
「お前は自分で何を言っているのか分かってるのか? 一緒に来て欲しいのは買い物、デートは来なくていい」
なんか横で横暴だ、人権侵害だとわめいていたが、あんまんを出すと静かになった。流石は育ち盛り。
「まあ、いいよ~、学校はもちろん、明日はバイトもお休みだし。でも、こんな可愛い女子高生を束縛するんだからそれ相応の物はねだるよ~?」
「ああ、分かってる。流石に何も無しじゃ俺の気も引けるからな」
とりあえず約束はこぎつけた。明後日にデートを控えているが俺にはまともな服が無い。普段着とスーツしかない。ここは流行に敏感な若い感性を頼りにしたい。
「さあ、着いたぞ。俺からも親御さんに話をしておく。不審者扱いされたくないからな」
「ええ~大丈夫だよ、葵ちゃんなら」
「俺がそう言う訳にはいかないの」
清音の親御さんには面識があり、仲良くさせていただいている。理由を話したところ問題無く了承もいただけた。よし、これでデートの準備もバッチリだ!




