表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/65

20話 喫茶店で機密情報ゲット


 ――桃華視点


 梓先輩に連れられて退社したんだけど……ちょっと葵先輩が『えっ?』ていう表情していたような気がする……。やっぱり梓先輩は残った方が良かったんじゃないかな……。


 少し後ろめたい気持ちを感じながら駅前の方に歩いて行るのだけど、その道中、梓先輩から声が上がった。


「ねえねえ、昨日何があったか聞かせてよ! その為に葵を置いていたんだから!」


 成程、確信犯だったんですね……。


「な、何も無かった……事はないですけど、その……」


「ま、まさか、もう済ましちゃったの!?」


「ひえっ!?」

 

 突拍子も無い質問に一気に心拍数が上がった。済ますって何をですか!?


「よし、桃華ちゃん、寄り道して行くよ! これはじっくり話を聞かねば!」


 そのまま手を引かれ、喫茶店『CHICK』へと連れて行かれた。



 ドアを開けると澄んだ鈴の音が鳴り響いた。カウンターには体の大きいスキンヘッドの男性が居り、コップを拭いていた。


「薫~、お疲れ! はい、今日のお弁当もとっても美味しかったよ!」


 そう言うとカウンター越しにカバンからお弁当箱を取り出して店長さんに渡していた。


「……お嬢ちゃんを連れて来たのか?」


 可愛らしいお弁当箱を片手に険しい眼光がこちらに向けられた。多分、『いらっしゃいませ』という意味が込められてるんだと思う。


「こんばんは、店長さん、また来ちゃいました!」


 初めて会った時は怖かったけど、今はあまり怖いと思わなくなった。だって、とっても優しいんだもん!


「……座れ、今日はいい豆が手に入っている」


「あらあ~、薫、随分と桃華ちゃんに優しいね~、どうしてかな~?」


 屈託の無い笑顔を向けているが、あれは笑顔じゃない。脅迫だよ……。梓先輩はとっても嫉妬深いんですね。


「ま、待て……そんなんじゃ無い!」


 珍しく店長さんが焦っている。梓先輩はカウンターの方に回り距離を詰めて……逃げて! 店長さん!


 でも私が思っていた事とは違い、詰め寄った梓先輩はそのまま、店長さんの頬にキスをした。


 一気にスキンヘッドが真っ赤なトマトさんになった……。


「冗談だよ、いつもお弁当ありがとうね!」


 なんですか、私、見せつけられてるんですけど……。だ、大胆ですね。他にお客さんが居なかったからいいものの……まあ、居たらしないですよね。


「……梓、人前でそんな事をするんじゃない……」


 あ、居た。私がお客さんだった……。




 テーブル席に座っていると、暖かい珈琲を持って梓先輩が戻って来た。


「じゃあ、じゃあ、何があったの! じっくりくっきりはっきり教えて!」


 とてもじゃないけどはぐらかせる雰囲気じゃない……仕方が無い、自白しよう……。




「葵……まだDVD直してなかったの……全く。それにしても頑張ったね、ペアのキーホルダー渡しちゃうなんて! それに大学生達の更生具合には驚きだね~」


 そんな話をしていると、店長さんが大きな手でワッフルを運んで来てくれた。脇にはブルーベリーソースが添えてあり、とっても美味しそう!


「俺が直々に恐怖を植え付けてやったからな。二度と人を乏しめるような真似はしない筈だ。万一、馬鹿な真似をしようものなら次の対処は公表出来ないものへ変わる」


 表情を変えずに裏の世界を語ってくれた。それは流石に怖いです……。


「んでんで! 済ましちゃったの!?」


「あ、梓先輩、そういうのは無いです……」


「梓、悪乗りし過ぎだ。葵にも迷惑がかかる、お嬢ちゃんも嫌がってる」


 店長さんが救いの船を出してくれた……うぅ、やっぱり優しいでですぅ!


「ええ~、ま、葵にそこまでする度量は無いのは分かってたけどね。ちょっとからかっちゃった。ごめんね! でもとっても初々しいんだもん! くう~甘酸っぱい!」


 店長さんはやれやれという表情を残してカウンターへと戻って行った。出来ればこのままご一緒して欲しかったんですけど……。


 でも親身になってお話を聞いてくれるし、お、思い切って聞いてみようかな。


「あ、あの……葵先輩の好みの女性ってどんなタイプなんでしょうか?」


「桃華ちゃん? それ本気で聞いてる?」


 急に真顔で聞き返された。わ、分かってます、高嶺の花だと言う事は。そ、それに清音ちゃんだって居るし……で、でも好みが分かれば私だってなんとか食らい付く事ぐらい出来るだろうし、ワンチャンあるかも知れないじゃないですか!


「はい!」


 含みなく、二つ返事で答えた。


「……はあ、アオハルだわぁ……貴重だよ、桃華ちゃんは。こんな純水無垢な子が居るなんて」


 ア、アオハル? せ、青春? そ、そんな年でも無いですが……。それになんか同じような事を咲矢にも言われたような気が……。


「言えないよ、私の口からなんて……桃華ちゃんを汚しちゃうよ……流石の私も葵に罪悪感を覚えちゃう」


 ど、どういう意味だろう……ちょっと分かんない。


「じゃ、じゃあ、清音さんってどんな方ですか? コンビニの店員さんの!」


「あ、それは答えられる。女子高生だよ」


 え? じょ、女子高生? そ、それはちょっとダメな奴じゃ無いですか、葵先輩……。


「ん? どうしたの? あ、分かった、葵にちょっかいかけてたでしょ。あの子、やたらと葵に懐いてるかね。どこかの誰かと一緒で」


「……ふん」


 店長さんの声が奥から聞こえた。そっか、そうなんだ……若さだけが唯一の長所だったのに、女子高生には勝てないなぁ……。


「あ、ありがとうございます……なんか、ますます自信無くしてしまいました……」


「え? 今の会話で自信を無くす所ってあった!?」


 はい、それはもう、盛り沢山……女子高生……ふふ、私も昔は女子高生だったんですよ? 時間は戻す方法は……あ、私は何を考えているんだか。


 思いがけない収穫と共に口に運んだワッフルはベリーの味がちょっぴり酸っぱかった。


「う~ん、なんか元気無くなっちゃったね。じゃあ、とびきりの情報をあげよっか?」


 梓先輩の手にはスマホが握られ、何か操作をしだした。なんでしょうか……癒し画像でも見せてくれるのかな? 私、猫ちゃん派です……。


「はい、葵の電話番号とメールアドレスだよ!」


「そ、そんな! か、勝手に教えちゃっていいんですか!? ダメですよ!?」


 しっかり写させてもらった……ほ、ほら、仕事で使うかもしれないし、遅かれ、早かれとも言うし……。




「ただいま~……」


 ダイニングへと向かうとお母さんと咲矢が一足先にご飯を食べ終えたいた。お父さんはまだ帰っていないみたい。電車の中から家に帰るまで、連絡先をどうするかを悩んでいる内に家に着いた。道中の道は覚えていない。本能で帰って来た。


「お帰り~ってなんかやけに疲れてるな。まだ月曜日だぞ?」


「うん、まあ、ちょっとね……」


「大丈夫? お仕事辛いの?」


 お母さんが心配して声をかけて来てくれた。娘の私が言うのも何だけど、とても綺麗な顔だちですらりとしており、エプロン姿がとても似合ってる。そして私より胸が大きい。言える事はそこだけは確実に遺伝してると思う。


「ううん、お仕事は夢のように楽しい事になりそうなんだけど……いや、その可能性が危ぶまれているというか……うん? なにそれ?」


 お母さんと咲矢の手には旅行のパンフレットが握られていた。何処か行くのかな?


「そう、何かあれば相談しなさいよ。後、これはね今度のGWに旅行でも行こうかと思って。車で行くから宿を探してるの」


 GWかぁ、そういえば来週からお休みだなあ……。葵先輩、一日ぐらい付き合ってくれないかな。連絡しよう……かな? でも今はお仕事してると思うし、邪魔になっちゃう。


 ふと視線を受けている事に気付く咲矢がジト目をして私を見ていた。なんだろう……。


「どうしたの? あ、咲矢もお母さん達と一緒に行くの?」


「そんな野暮な事する訳ないだろ。姉ちゃん、約束! 忘れたとは言わせないぞ?」


 ああ、友達を紹介するんだっけ……。


「はいはい、分かってるよ。お母さん、お腹すいちゃった。今日のご飯なあに?」


 とりあえず、こっちは後回しにしよっと! なんかまだ睨まれてるけど……。



 

 晩ご飯を食べてお風呂に入り、ベッドの上で正座しながらスマホを眺めている。


「うう、な、なにかメールを入れてみようかな……お、お疲れ様とか……でも急に教えても居ない私からのメールなんて送られてきたら引いちゃうかも知れないし……ああ、どうしよう……」


 先程から延々とこのループを繰り返している。梓先輩、嬉しいんですけどこれ、非常に厄介ですよ?


「……先に沙織(さおり)に連絡しよっかな? 咲矢も待ってたし」


 とりあえず問題は後回しにして高校、短大と付き合いをしている友人に電話をかけた。


「あ、もしもし、沙織? 今大丈夫かな?」

「あ、桃華! ちょっとだけ久しぶり! どうしたの? お仕事順調?」


 同じく新人社会人同士、話のネタは尽きず、つい長話してしまったけど本題に入る事にした。


「ところで前から言ってた私の弟の咲矢だけども、このGWに会う?」

「ちょっ! なんでそんな大事な事先に言わないの!? 今までの会話要らなかったよ!」


 おいおい、沙織ちゃん……。


「会う会う! 初日! 初日から会う! はい、決定! はあぁ~あの尊い咲矢君と遂に結ばれる……だ、だめ、彼はそんな人間じゃない! そう、人間では無く神そのもの!」


 ……電話、切ろうかしら。しかし、咲矢とも約束した手前、放置する訳にもいかない。少々錯乱状態ではあるけど。


「分かったよ。じゃあ、咲矢に連絡しとくから。後は二人でゆっくり楽しんで――」

「ムリだよぉ! そんな二人っきりになんかなったら私死んじゃう! お願い、付いて来て! 親友の頼みだよ! パフェ奢るから!」


 そんな高校生なら飛びつきそうな餌をぶら下げらても、私、一応社会人だし、今月はお給料入るし……あ、高校生……清音ちゃん……。


「もしも~し! 桃華? お~い! 桃華ちゃんてば! ちょっと聞いてる~!?」

「あ、うん。ごめんごめん、ちょっと考え事を……分かったよ、待ち合わせだけはついて行ってあげるから。後は二人で楽しんでよね?」

「うぅ……さ、最初だけ、最初のお茶をするところだけ付いて来て! ね!」


 そんなやり取りを終え、最初の紹介までは一緒に居てあげることにした。どうして自分の弟と友達について行かなければならばいのか……これは咲矢に貸しだね……。


 隣の部屋に居る咲矢に直接言いに行けばよかったんだけど、とりあえずメールで内容を伝えた。数秒後、『よしゃああ!!』という叫び声が聞こえた。そして次の瞬間、『うるさいぞ!』とお父さんの声が響いて来た。どうやら帰って来ていたみたい。


 時計を見るとすでに23時を過ぎていた。思わぬ所で時間を喰ってしまった。


「とりあえず……メールの文章を打つだけなら……うん、練習、練習!」


 ベッドに寝転がりながら妄想の世界をひた走らせて文章を打ってみたんだけど……やだ、これ、楽しい! なんかノッて来ちゃった! GWのお誘いとかも入れちゃえ! 


 あ~あ、こんな風に気軽にメールを送れたらなぁ~。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ