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2話 童顔新人ちゃんのピンチ!

 

 ――桃華視点


 あ~あ、坂上先輩、歓迎会に結局来てくれなかったなあ……ちょっと楽しみにしてたのに。


 会社の近くの飲み屋さんで歓迎会を開いてもらい、先程終わった。


 尚、お酒は飲んでいない。というより、飲んだ事が無い。とはいえ、二十歳も越えたので練習しないといけない。今度、家で飲んでみようと思う。


 今は駅に向かって歩いている所であり、街灯も少なく、薄暗い道である。気を紛らわすかのように、先程の歓迎会で仲良くなった鳴門梓(なるとあずさ)先輩の事を思い出した。


 とっても気さくな方で『鳴門先輩? そんな堅苦しい呼び方は無ッシング! 梓でいいよ!』と初絡みからトップギアだったなぁ……流石に先輩は付けさせてもらったけど。


 そんな梓先輩は坂上先輩と同僚にあたる関係柄……その上綺麗だし面白いし。席も隣だし。


 ひょっとして彼女なのかな……そうだよね、梓先輩って私と違って大人の女性って感じだもんね。坂上先輩ってあんな綺麗な人が好きなのかなあ……。


 坂上先輩って私まだ入社してひと月も経って無いけど、とっても面倒見がいいってみんなから評判だし、背も高くて眼鏡も似合ってカッコいいし。今日だって梓先輩の出席の為に残ってくれたって聞いた。


 部長さんも『もし困った事や相談したい事があったら坂上に聞くのも手だよ。今日はいないけどね~』っておっしゃるぐらいだもん。


 私は坂上先輩の対して好意を持っている。これだけは間違いない。だからいろいろ考えてしまうのだろう。


 彼女いるのかなぁ……今日は折角仲良くなるチャンスだったんだけど……でも、今日が最後って訳じゃないし! うん! また次の機会に――


「お、可愛いお姉ちゃんじゃん!? 俺達と遊ばない!?」


 嘘……。


 駅までの近道にと選んだこの道は街灯も少なく人通りも少ない。そんな道で三人の男の人に囲まれて……。


「おい、この子おっぱいでけ~ぜ!?」

「おおマジ!? どれどれ」


 壁際に押し寄せられ、いきなりカッターシャツを強引に引っ張られ、ボタンがはじけ飛んだ。


「うほ! まじででけ~じゃん!」


「や、やめ……」


 恐怖で声が出せない、辛うじて出した言葉は蚊の鳴くような声量だった。


 やだ、こんな人達に、こんな……やだよぉ……怖いよぉ……。


「おらあ! お前ら何してんだ!? 嫌がってるだろうが!」


 人が!? た、助かっ……。


 手を払いのけて間に入って、あ、あれ? この人!?


 私を後ろにかくまってくれた。背中越しだけど一瞬見えたあの姿って。


 そんな事を考えてる間に目の前で助けに来てくれた人が殴られた。先程とは違い叫び声が出た、私のせいで迷惑を!


 ゆっくり立ち上がってまた相手を見てる……も、もういいですから、立ち上がらないで! 大怪我しちゃ――えっ?


 こ、この人、とっても強い!? 良く分からないけど流れるような動き!


 あっという間に追い払っちゃった……そ、そうだ! お礼言わなきゃ!


 薄暗いので良く見えないけど、私には分かる。だって毎日こそっと見続けている顔だもん。


 やっぱり坂上先輩だ!!


 こ、こんな出会いをするなんて、も、もしかしてこれって運命!?


「怖かったよぉ!! 刃物とか持ってたらどうしようかと思ったよぉ!!」


 物凄く怖がってる!? 私以上に!? 座り込んで膝抱えてるし! しかも腕と足がプルプルしてる!


「あ、あの、大丈夫、ですか?」


 立場変わっちゃった……。でも、こんな時に不謹慎だけど……私、凄く嬉しいです! だって、憧れの先輩が助けてくれたんだもん……。


 凄く怖い思いをしたけど今はちょっと嬉しい……うう、変な顔してないかな? バレないように下を向いておこう……。





 ――葵視点


「汚い部屋だけど……とりあえず座ってて下さい、今何か暖かいものでも入れますので」


 まさか、こんな事になろうとは……でも無事で良かった。さて、とりあえずインスタントの珈琲でもお出しするとしよう。



「お待たせしました、どうぞ、珈琲ですが砂糖とミルクは如何いたしましょうか?」


「ひゃ、ひゃい!」


 なんだ……やけに妙な返事だ。あ、そうか。シャツが……。とりあえずそのままで目のやり場に困る。


 とはいっても女性用の服なんて有る筈も無い。あ、そうだ! 鈴宮さんがこの辺りに居たという事は。


「すみません! 気が回らなくて! 今、鳴門(なると)を呼びますから!」


 鳴門梓(なるとあずさ)……今回のクレームを引き起こした張本人だ。恐らくあいつはこの辺りの店で二次会でもしてる筈だ。あいつに服を持って来てもらって一緒に鈴宮さんを引き取ってもらおう。


 いくら会社の後輩とはいえ、入社したての子が腕プル足プルの男と一緒に居たい訳無いだろうし。それにこれ以上の間違いは起こしてはならない! 俺は職を失う訳にはいかないのだ!


 スマホを持ち、電話帳を開いて……梓と。


 通話画面をタップしようとした瞬間、柔らかなものに腕がタップされた。


「うひゃあ!!」


「きゃあ!」


 思わずスマホを投げ出してしまい、鈴宮さんを抱きしめる形となった。小さな体だし、や、柔らかいし、しかもブラのレースも見えてますから!!


「坂上先輩は、坂上先輩は……」


 え、どうしてそんなに瞳を潤わしてるの? 俺、何かしましたか!?


 あ、ああ、この体勢か。これで何もしてないは通用しないか。事案ですね。


「す、すみません、ど、どうしましたか!?」


 とは言うものの、いきなり突き放すのもどうかと思い、そのままの状態で質問してみたが、良く見るとはだけた胸に加え、ストッキングも破けており、完全にAVの世界になっている。


 危なかった、ここに連れてくる間にもし誰かに見られていたら、間違いなく俺が現行犯で誤認逮捕されていただろう。


「あ、あの! 梓先輩にご連絡は大丈夫です! それよりも助けて頂きありがとうございます!」


「あ、い、いえ……すみません、俺も情けない所見せちゃって」


 うずくまって膝抱えて生まれたての小鹿みたいに震えてたもんな、ああ、完全に幻滅されただろうな……。


「すみません、喧嘩って実は苦手でして……」


 そもそも殴る方も殴られる方も痛い。寸止めしたのは当たると痛いのもある。そりゃそうだ骨を叩いている訳だし、下手したら指が折れる。


 それに俺の格闘術は護身程度のもので、本気でやっている人には足元にも及ばない。というかそういう人は基本的に先ほどのような事はしないが。


「い、いえ! あのその! 何かお礼を……」


 ああ、この子は優しい子だな。ビビり倒してたこんな俺に気を使ってくれているんだな。涙が出そうだよ……。


『ピンポ~ン、ピンポ~ン、ピン、ピン、ピン、ピ、ピピピピピ、ピンポ~ン』


 誰だ、こんな時間にチャイムを連打する奴は。まさかさっきのやつらか? いや、あり得ないな。必死に逃げて行ったし。


 そもそも俺の家を知る筈が無い。それにここはマンションだ、エントランスの呼び出し無しで入ってくると言う事は……知り合い?


 あの管理人の爺さんめ、顔見知りはすぐにマンション内に入れるからな。セキュリティの意味無いじゃんか。


「誰か来たみたいですね、こんな時間なんですが、ちょっと見てきますね」


 鈴宮さんに声をかけ、そのまま体から離れて玄関に向かった。もう取り返しが付かないレベルまで評判は落ちただろう。だが、ここまでくれば逆に清々しさすら感じる。


 鈴宮さんは俺から離れられた後のお口直しの如く、俺愛用のアザラシの人形を抱きしめていた。それ、可愛いでしょ?


「は~い、どなた――かはっ!?」


 扉を開けるなり喉元に手が伸びそのまま絞められた!? こ、この手、しかもこの握力はは!?


「桃華ちゃんの叫び声が聞こえたよ? 何してるのかな? こんな時間に後輩連れ込んで、この鬼畜せ・ん・ぱ・い」


「あ、ず、さ……やめて……」


 ドア開けるなり理由も聞かずいきなり喉元を絞めてくるとは……しかも何でここに来たんだ!? 電話は、し損ねた筈……。


「あ、梓先輩……」


 梓は奥に居る鈴宮さんを見たのだろう。弱々しい声に開いた胸元、破れたストッキング姿で涙ぐむ姿を。


 更に力が込められた……。これは、ヤバい! 落ちる!


「へえ、お楽しみの途中って訳? 強引に若い子の服を引剥(ひんむ)いて」


「かはっ……く、くる……し…ち、ちが……」


 タップは受け付けてくれず俺の意識は暗転した。




 ……あれ、何してたんだっけ。そうそう、確かチャイムが鳴って出たら梓に首絞められて……はっ! 鈴宮さんは!?


 起き上がると申し訳無さそうに座る梓と鈴宮さんが居た。どうやらソファーに寝かされていたらしい。


「だ、大丈夫? ご、ごめんなさい、私、勘違いしちゃって……」


「あのなあ! どこのOLが勘違いで頸動脈キメてくるんだ!? おかしいだろう!?」


 まじで死にかけたぞ!? 


「ご、ごめんってば。よくよく考えたらあおいにそんな根性無いもんね」


 事に書いてまだ侮辱してくるこの後輩は!?


「あ、あの事情は説明させていただきましたので……」


 ああ、いいのいいの、鈴宮さんは。怖かったでしょ? さっきより。この人狂暴だからね? 会社とは全然違うから気を付けた方がいいですよ~? と、声を大にして言いたい。


「葵、なんか私の悪口を考えてるでしょ。もう一度寝る?」


 右手をわきわきしながら笑顔でこちらを睨んでいる。笑いながらキレるとは器用な奴だ。


「いえ、そのような事は一切ございません」


 丁寧にお答えしておいた。本当にやりかねないから。


「ったく。でも良く助けれたね。葵って格闘技なんてやってたんだ」


「いや、そんな本気のものじゃない、ちょっとかじってた程度だ」


 見ため通り俺は根性無しだ。格闘技をする上で絶対無二の闘争心が俺には無い。あくまで自衛レベルの能力があれば十分なのだ。なにより、痛いのは嫌だ。


「さて、葵も目を覚ましたし、私は桃華ちゃんを送って行くよ。まだ終電も間に合うと思うし」


「ああ、俺も駅まで送るよ。と言ってもすぐそこだけどな」


「ううん、助かるよ。また変な人に絡まれたら怖いもん」


 梓なら大丈夫だ。心配してるのは鈴宮さんの方であって。


「……私も女の子なんだけど!?」


 こいつ、いつも思うんだけど心の声読めるのか!? 


「エスコートさせていただきます! うん、どうしたの鈴宮さん? まだ怖い?」


「え、あ、いえ! こ、このお礼はまた後日にさせて下さい!」


「そんなのいいよ。今日の三人組は明日なんとかしておくから。安心して週明けも出社してね!」


 自宅を出て駅まで二人を送った。尚、破れたシャツでは流石に外を歩けないのと、俺の上着を着て帰るのも不自然極まり無いので、ちょっと大きいが俺のシャツに着替えてもらった。


 かなり大きいが、胸の厚みの効果もあり、違和感は無い。ジャケットを着ればぱっと見では分からないだろう。ストッキングは脱いで生足だけど。


 とりあえず梓は何の役にも立たなかった。首絞められただけじゃないか。結局俺の服で代用したし……。


 はあぁ……俺の服を鈴宮さんが着てる……あのシャツは幸せ者だな。


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