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10話 ファンシーショップのオーナーがおかしい

 

 ――桃華視点


 罪悪感に苛まれながらも坂上先輩に続いて暖簾をくぐった。入り口に入るとすぐ横に食券機が置いてあった。


 どうやら食券を購入するシステムのようなのだけれど、何故かそのまま見向きもせずに奥に進んで行ってしまった。


 慌て着いて行くとカウンター席へと腰をかけた。どうやら坂上先輩はカウンター席が好きみたい。出来ればお顔を見ながらお食事したかったかな……。


 その横に腰かけると坂上先輩は濡れたシャツを脱いだ。中の服までしっかり染みて居る様子であり、寒そう……。


「あの! こ、これを使って下さい!」


 先程かけてもらったタオルを取り、差し出した。


「こんなに濡れて……風邪引いちゃいますよ!」


 濡れている肩にタオルをかけた。すみません、私のせいで……今更ですがやっと言えました。


「だ、大丈夫です! そ、それより、その、み、見えちゃいますからこれは使ってて下さい!」


 かけたタオルを返された。見えちゃう? 


 ……あ、ブラ透けてたんだった! はうぅぅ……でも、坂上先輩がぁ……。


「お、葵じゃねえか!」


 また坂上先輩の名前をを呼ぶ女性の声が聞こえた……私だけじゃないかな、ちゃんと苗字で呼んでるの……羨ましいじゃないですか。


 そんな嫉妬心を少しばかり燃やしながら声のしたカウンターを見ると、女医さんが居た。


 うん、私、おかしくなっちゃったのかな? 確かラーメン屋さんに来てた筈だけど……でもちょうどいいや、目の前にお医者さんがいるのなら診断してもらおう。少々、恋の病を患っていましてですね……。


「なんだ? 外、そんなに雨降ってんのか? どうりで客足が悪い訳だぜ」


 見た目は白衣を着た女性、背も高くてポニーテールがとっても似合ってる。しかも細長の眼鏡をかけて聴診器はかけていないけど、どこからどう見ても女医さんだ。しかも胸も大きくてインナーから谷間が……ろ、露出高く無いですか?


 坂上先輩、ここ何のお店なんでしょうか? 本当にラーメン屋さんなんでしょうか? 


「結構降ってますよ、まあ、ちょっと濡れちゃたけど直ぐ乾くと思うから」


「でもお前、結構濡れてるじゃねえか? 大方カッコつけてそこのお嬢ちゃんを濡らさないようにしたんだろ?」


 そ、そうなんです……坂上先輩ったらずぶ濡れになって。や、優しいんですぅ……。


「女性に優しくするのは俺のモットーなの! それよりなっちゃん、今日のオーダーだけど――」


「ああ、そうだな、葵は女の子には特に優しいもんな。っていうかお前ちゃんと栄養のある物食ってんのか? ラーメンなんぞ体に悪い物を食ってる場合じゃねえぞ?」


 えっと、何点か確認したいことがあるので整理させていただいて宜しいでしょうか? まず、なっちゃん? ちょっと親し過ぎませんか? ちゃん付けってどういう事ですか!? 相手は女医さんですよ?


 それと女の子には特に。が付くんですね。誰にでもですか? そうなんですか!?


 はっ!? お、落ち着かないと、そ、そうよ、坂上先輩は常連さんみたいだし、お店の人と仲良くなっているだけ……そ、そんな嫉妬したらダメ……。あれ、おかしいな、私ってそんなに嫉妬深い子だったけ?


 なんかいろいろ考えにふけっていると、視線を感じた。なっちゃんさんである。じっと私の方を見たかと思うと専門的なラーメンの話をし出し、自動的にメニューが決まった。


 ところでハリガネってなんでしょうか……。


 女医さんのなっちゃんはどうやら本職はちゃんとラーメン屋さんだった。どうやら白衣はユニフォームのようなものらしい。それにして中々変わった趣向である。



 用意していただいたものはちょうどよいサイズのものであり、ディスプレイで見た山盛りラーメンのミニ版といった所であった。


「あいよ、お持たせ しかし葵はちょいちょい女を連れ込んでくるな!」


「ちょっと!? なっちゃん!? 鈴宮さんが誤解するから!?」


 や、やっぱり……そ、そうだよね、私だけ特別だなんて思っちゃダメだよね……。


「ち、違うんですよ! ここに連れて来たのは梓とさっきのコンビニのバイトの子だけですから!」


「え……コンビニの、バイトの……子?」


 梓先輩は問題無いけど……出来れば、そういうのは知りたく無かったな……。そっか、さっきの子かぁ。


 その後、なっちゃんさんとお話をしたけど正直、上の空だった。でもなんか気に入られたみたいだけど。それにどうやら坂上先輩はコンビニの子を清音って呼んでいるみたい。


 だけど……私は諦めませんよ! 例え今は女性陣で一番下の評価でもいつかきっと坂上先輩に釣り合う女性になって見せます!


 気合を入れてラーメンに箸を付けた。なんか食べるのに夢中だったので、お話が良く分からなかったけど、なんかアザラシちゃん? の事を話していたような気がする。確か、坂上先輩の部屋に置いてあったぬいぐるみの事かな? 後で聞いてみよう。


 とりあえず……このラーメン美味しい~! また来たいなぁ。出来れば先輩と。あ、坂上先輩っていうよりこっちの方が親近感があるかも! よし、これなら自然だししばらくはこの呼び方で行こう! あ、葵先輩って呼ぶのはもっと親しくなってから……。



 ラーメンを食べ終わり、ここはしっかりと割り勘でお支払いした。お礼をしに来ているのに奢られっぱなしじゃ何をしに来たか分からない。それにしてもなっちゃんさんの言葉にはびっくりした。


 まさか、毎日来るなと言われるとは……。しかも体に悪いって。ま、まあ毎日ラーメンでは体を壊しちゃいそうだけど。


 それよりも何故か先輩の顔色が悪い……まさか、体調が悪くなったんじゃ。


 声をかけてみたけど思ったよりも重症のようでなんか歯切れが悪かった。これ以上は一緒に居るとどんどん悪化してしまう。


 名残惜しいけど先輩の言う通り、駅に向かう事にした。


 すみません、この後、ゆっくりして下さいね。私、とっても楽しかったです!


 ……って! お礼! お礼何にもしてない! ど、どうしよう!? なにか、なにか!?


 周りを見渡すと一軒のお店が目に入った。可愛らしいファンシーショップであった。その中に先輩が持っていたアザラシちゃんが目に入った。


「あ、あの、アザラシちゃんって……あれですよね?」


 思わず声に出してしまった。


「そ、そうですね。アザラシちゃん、好きなんですよ……」


 え!? た、確かに部屋にもぬいぐるみが置いてあったけど。まさか本人の口から好きな物を言っていただけるとは! よし、お礼はこのアザラシちゃんのグッズにしよう! 絶対間違いないアイテムだもんね!


 すみません、ここだけ! ここだけ寄らせて下さい! 後はお家でゆっくりしててもらっていいですから!


「ちょっと、寄って行きませんか?」


 その言葉に先程まで暗い顔していた先輩が満面の笑みを向けてきた。目は輝き、活力に満ち溢れてていた。


「鈴宮さんもアザラシちゃん好きなんですか!?」


「あ、い、いえ、その初めて知ったんですが……」


 一気に表情が曇った!? ち、違うんです! 否定した訳じゃないんですよ!?


「で、でも、とっても可愛いですね!」


 先輩の家で初めて知ったキャラクターだけど、とっても愛らしい。それに先輩が好きなものだったら、私も好きになりたいかな~って……えへへ。


 無意識に笑顔になっていた。その顔を見てか、先輩も笑ってくれた。


 とっても……キュンとした、胸が苦しい……えへ、ちょっと恥ずかしいな。


 そのまま照れた顔を見られないように店の中に入った。



 店内はとても可愛らしい雰囲気でいかにも女の子が好きそうなレイアウトであった。


 私もこういう店は大好き! なんか、何処を見ても笑顔になっちゃう……おっと、いけないいけない、今はアザラシちゃんを探さないと! 


「あら、いらっしゃい、こんな時間に来るなんて珍しいわね」


 振り返ると梓先輩にも負けず劣らずのプロポーションを持つ女性が先輩に話しかけていた。


 もう! 女性の知り合い多過ぎませんか!? でも悔しいけど、私なんかよりよっぽど大人だし、綺麗……うう負けたぁ……。


 とぼとぼと先輩の横に歩いて敗北宣言を上げた。


「綺麗な人ですね……」


 近づくとほんとに美しさが際立つ。くうう、梓先輩を超えてない!? 正直自分を磨いた所でこの人の領域まで辿り着ける自信は無い。この人が居る限り……先輩の心は射貫けない……つまり、事実上敗北確定。


「あらあら、可愛い子連れちゃって」


「そんなんじゃない、和夫」


 そうですか、和夫さんとおっしゃるんですね、美しい外観に見合った美しいお名前――


「か、かず!?」


「もう、ちゃんとカズリンって呼んでよ」


 まさかの男の人!? そうだよね、先輩完全にジト目になってるし。和夫さんだもんね。どっからどう聞いても男の人の名前だよね? でも完全に見た感じ女性なんですけど? 男性の要素一つも見受けれないんですけど!?


 しばらく先輩と和夫さんこと、カズリンさんとの話をお聞きしたのだけれど、どうやら新製品があるようで先輩が少しプライドを削って要求していた。アザラシちゃんの為なら少しぐらいは自分を犠牲にする事も辞さないようだ。


 カズリンさんが見せてくれたのはキーホルダーであった。しかもカップル用に分離が出来て各々が持つタイプのようだ。先輩は手に取り少し微妙な顔をしている。


 ふと、視線を感じた。その先にはカズリンさんが居た。私が気付いたのを見るとウインクを一つくれてアイコンタクトを送ってくれた。私は、この意味が分かった。


『これなんかどう?』そう伝えてくれている。私に……。


「それ下さい!」


 先輩は驚いた顔を向けていたが、カズリンさんはにっこりを笑顔をくれた。この人……とっても優しいし、私の考えてる事、分かってるんだ……。



 お会計をする為に二人でレジに向かった時に小さな声で囁てくれた。


「貴女、葵ちゃんの事好きなんでしょ? もう、必死さが前面に出てたわよ? まあそれでも葵ちゃんは気付いて無いと思うけど」


 はううう、そ、そんなに顔に出てました!? で、でも幸か不幸か先輩には気付かれていないんですね……。


「葵ちゃん、超鈍感だから、遠回しに言ってたら何時まで経っても理解してくれないわよ?」


 全てを見透かしたように伝えてくれ、その綺麗な手で商品を渡してくれた。


「……はい、頑張ります!」


 その言葉に再び優しい笑みを浮かべ、見送ってくれた。



 駅の再札の前まで見送っていただくと改めてカズリンさんの言葉を思い出して、先程購入したキーホルダーの入った袋を強く握りしめた。


「今日はありがとうございました! そ、その濡れちゃってるんで早く着替えて下さいね……それと……」


 勇気を出した。今まで生きて来た中で間違いなく一番だった。


 心臓が痛いぐらいにドキドキする、嫌な顔されたらどうしようと不安になる、それでも伝えなければ始まらないもん、だから、勇気を振り絞ります! 和夫さんの応援も無駄にしたく無い!


「こ、こ、これ、受け取って欲しいです……そ、そのお礼として……出来れば、何処かに付けていて欲しいです……わ、私も付けますから……」


 けっして大きな声ではなかったけど、なんとか言えた……恥ずかしい、そして怖い……。



 先輩は少しだけ間をおいて笑顔で差し出したキーホルダーを受け取ってくれた。


 泣きそうになった……嬉しくて。


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