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多様性戦隊ヒャッカリョウランジャー

作者: 宮本摩月

 幼稚園を襲撃したサソリ魔人は、恐怖におののく幼稚園児と保母さん(二十六歳、黒髪清楚系、最近彼氏とうまくいっていない)に向かって高笑いした。

「ワッハッハハ。園児の諸君。そして保母さんの、えーと名前は? 佳那ちゃん? 彼氏が最近冷たいの? LINEの既読無視? 大変だね……。あっ本題に入らなきゃ。ワッハッハ。園児の諸君と佳那ちゃん先生。ワガハイは恐怖のサソリ魔人である。お前たちを粉々に砕いて、あったかご飯にかけて食ってやる! しかもワガハイはマナーが悪いからクチャクチャ音を立てて食ってやる。まいったか」

 パニック状態に陥った幼稚園の教室。泣き叫ぶ佳那ちゃん先生をスマホで撮影してツイートする園児。サソリ魔人を定規でツンツンする園児。素直に怯える反応をする園児もいる。多様性の時代である。みんな違ってみんないい。

 いったいどうなってしまうのか!

 その時、教室の引き戸を勢いよく開け、そこそこ男前の青年が現れた。

「待てい! サソリ魔人よ、お前の好きなようにはさせん!」

「だ、誰だお前は?」

「……えーとですね。俺たち人数が多くって教室に入りきれないんで、皆さん一回外に出てもらっていいですか」

「なんだよそれ。人に対してはお前の好きなようにはさせんとか言って、てめえは好き放題じゃねえか」

 ぶつくさ文句を言うサソリ魔人を五分かけて説得して、まあまあ男前の青年はなんとかサソリ魔人と幼稚園児の良い子たち、そして保母さんの佳那ちゃん先生を園庭に集合させることに成功した。

「ちっ、やってられっかよ」

「サソリ魔人、ごめんな。あとで牛丼でも奢るから。えーと、皆さんお集まりいただきありがとうございます。本日はお日柄も良く……」

「さっさと本題に入れよ。最初からいくぞ。佳那ちゃん先生も面倒だけどお願いしますね。ワッハッハ。ワガハイはサソリ魔人である! 園児の諸君、そして保母さんの佳那ちゃん、お前たちをスライスしてトーストに乗せて食ってやる。まいったか」

「きゃー、誰かー!」

「待てい!」

「だ、誰だお前は!」

 それなりに男前の青年は変身ポーズをすると、周囲の空間が光り輝き一瞬で戦隊ヒーロー風の赤スーツと赤マスクの姿に変貌した。

「俺は正義の味方、レッド!」

 と同時に園庭にワラワラと戦隊ヒーローの雑多な色のスーツを身につけた群衆が入ってきた。おそらく出番待ちが長かったようで微妙に険悪なムードが漂っている。

「ブルー!」「グリーン」「ピンク」「イエロー」「ブラック」「オーシャンブルー」「ホワイト」「ビリジアン」「ゴールド」「シルバー」「紅」「辛子色」「玉虫色」「藍色」…………(中略)…………「紅桔梗色」「丁子色」「紅樺色」「濡羽色!」

 全員の自己紹介が終わる頃には佳那ちゃん先生は露骨に眠そうな顔を隠そうともせずスマホをいじっていた。退屈して砂遊びや鬼ごっこをしている園児たちに注意さえしない。まったく今時の保母さんは、と怒りたいのを我慢してレッドは叫んだ。

「百花繚乱、百人力、百人百色! 百人揃って多様性戦隊ヒャッカリョウランジャー! みんな違ってみんないい!」

「長えよ!」

「ご、ごめん。牛丼にトッピング付けてご馳走するからさ」

「まったく、今時の正義の味方はよ。勝手すぎんだよ。まあいい、始めるぞ。お、おのれヒャッカリョウランジャーめ。返り討ちにしてくれるわ」

 サソリ魔人は威嚇のポーズを取った。

 緊迫した空気を破ったのはレッドだった。

「あのー、サソリ魔人、俺がキック一発出すから、それで負けて欲しいんだ」

「なんでだよ!」

「この番組三十分完結なんだ。皆さんを園庭に連れ出すのに時間かかったから、もうそろそろ完結しなきゃいけないんだ。」

「俺たちのせいかよ。お前らの自己紹介が長いからだろ、いい加減にしろよ」

「す、すみません……」

 うなだれるレッドを見かねたサソリ魔人はしぶしぶ譲歩した。

「……牛丼じゃなくて焼肉だからな。それとキャバクラ」

「お、俺たち若手のヒーローだからギャラ少ないんですよ。あと、百等分しなきゃいけないし……」

「知るかよと言いたいところだが ……今回だけだからな。牛丼二杯で手を打ってやる」

 呆れ顔のサソリ魔人にレッドの多様性キックが炸裂した。大袈裟に苦しみ動かなくなるサソリ魔人。おそるべし、多様性キックの破壊力!

「先輩ありがとうございます!」

 レッドは小声で呟き、同時にエンディングテーマが流れ出した。

 行け、ヒャッカリョウランジャー。地球の平和を守るため戦え百人の勇者たちよ!

 ヒャッカリョウランジャーは次はキミの街に現れるかもしれない!






 無事番組の時間内で戦いを終わらせた多様性戦隊ヒャッカリョウランジャーだが、彼らの前に新たなる試練が待ち受けていた。

「あのさあ、キミ。一人で倒してどうすんの。戦隊ヒーローだろ? レッド君、このままいくと打ち切りだよ。しっかり頼むよ」

 視聴率とテレビ曲の偉いさんとスポンサーの魔の手がヒャッカリョウランジャーに襲いかかる! 果たしてヒャッカリョウランジャーはこの危機を乗り切れるのかっ!


《終わり》

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