弟の亡骸
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ザダンは、かつての敵に助けられ
ザダンが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
ここは…と、ザダンは上半身を起こすと、伸ばした右腕が鎧だった。
ザダンは、記憶を思い返す。
まず、裏切られた憎しみが来て、次に自分を守って息絶えた弟が過ぎり、そして…
「よう…目覚めたか?」
と、ザダンがいるベッド部屋の入口に、かつての敵だった男達がいた。
呼び掛けたのは暴の化身であるトオル。
隣には、その兄弟である全ての法則を司るスベル。
ザダンは驚きの顔を向けていると、トオルが羽織っている上着の懐から葉巻の銀のケースを取り出し、口に加えると、先を指先で擦って火を灯して吹かす。
トオルとスベルは、黒き軍服のような様相だ。その雰囲気は、どこかの前線に立つ将軍のようだ。
事実、二人は一つの宇宙を破壊する程の、一騎で全てを薙ぎ払う大災厄だ。
スベルとトオルがザダンのベッドに近付き、スベルがザダンを覗く。その瞳は七色に淡く輝き
「んん…右腕以外は、トオルの暴によってダメージを破壊されて修復されているが…」
トオルも近づき渋い顔で
「どうやら、右腕はコイツの力を吸い取る為の触媒にされたみたいだなぁ…」
それを聞いたザダンは脳裏に、自分の力を全て吸い取っていた七人の神王達を過ぎらせた。
「う、アアアアアアアアア」
ザダンの中に怒りがこみ上げる。
信じていた。共に戦った仲間だった。なのに…自分の立場が危うくなった為に、切り捨てられた。裏切った。そして…。
叫ぶザダンをトオルとスベルは、静かに見詰める。
感情が爆発している時に、止めても収まらない。そのエネルギーを使わせて、落ち着いた頃に話をする方がいいのを分かっているのだ。
ザダンが激怒を噴出させていると、弟が過ぎり
「そうだ…弟は? ルシーファは?」
トオルは冷たい目で、スベルが眉間を寄せ
「来るかい?」
トオルとスベルは、ザダンをルシーファの遺体を安置している場所の連れてくる。
ザダンがいた場所は、港町だ。
海がキレイな洋風の町、そこの教会の霊安室にルシーファの遺体が入った透明なケースが置かれて、その周囲をキレイな花達が囲んでいる。
トオルは、葉巻をしまって
「オレの妻達と、スベルの嫁さん達が、花で彩ってくれた。すまん。お前しか…助からなかった」
ザダンは、弟ルシーファが眠る透明な棺の前に来て
「う、ああああ…」
弟の棺に抱き付き涙する。
どんな時も優しかった弟、肉親を失い、二人で生きてきて、自分が英雄となり、苦労をさせた弟に報いてやれると…。
涙するザダンに、スベルが
「その…すまない。安置しているケースは私の力で出来ていて、そこから遺体を出すと、一瞬で風化してしまう。相当に…損耗が酷い。どうやら、君の力を奪う時に、そのご遺体の存在する力まで奪ったようだ」
ザダンは涙しながら
「ごめんな。オレの所為で…オレが、オレが、ルシーファ…やっと…。本当にごめんな」
トオルとスベルは、そのままにして部屋を出た。
ザダンは部屋に夕暮れが差し込むまで涙すると、ザダンは弟の棺を担ぎ霊安室から移動する。
それをドアで待っていたスベルが
「どこに行くつもりだ?」
ザダンは答えない。
スベルが
「待ちたまえ」
と、止めようとする肩をトオルが止める。
「好きにさせろ」
ザダンは、弟の棺を背負って教会から、海の見える岬に行くと、弟の棺を岬に置いて、開ける。
そして、弟の遺体を抱き締めると、一気にザダンの腕の中で弟の遺体が、風化する。
真っ白に全てが染まり、細かな亀裂を入れて弟の亡骸が砕けて、ゆっくりと空気に溶けていった。
ザダンは、弟は風になった夕焼けを見詰め
「教えてくれ…。どうして…アンタ達は…オレを助けた?」
トオルがザダンの左隣に来て
「お前の祖先と約束していた。何時か…自分のように覚醒する者がアルファイガから出て来る。そいつを救って欲しいってなぁ」
スベルがザダンの右隣に来て
「ザダン。君の祖先である男は、アルファイガで、七大神王というシステムを作った。始めの頃は、宇宙に新たな進歩が生まれた…として、平和に過ごしていたが…。七大神王となった七人は、自分達に神王を与えた人物に恐れを抱いた」
トオルはしまった葉巻を加えて火を付け
「要するに、始まりを作るヤツは、終わりも作れる。もし、何らかの心変わりをすれば、自分達は駆逐される。そうして怯えを募らせて、お前と同じように力を奪って殺した。その子孫がお前だ」
スベルが渋い顔で
「だから、君が殺された。七大神王達が奪ったその力によって、アルファイガは更に発展したが。何れ、その力が集結する。海から上がった水蒸気が陸に行き、海に戻るように、その力は元の主に戻る」
トオルは葉巻を吹かしながら
「その子孫であるお前に戻り始めた。そうなると、また…殺されたアイツ、お前の祖先の男のようになる。オレとスベルにその男は、昔のダチでなぁ…。自分の悲劇が繰り返されるなら、それを防いでくれって遺言を残して殺されたのさ」
スベルが
「だから、私とトオルは、敵になった。脅威が近くにあれば、必ず纏まる。オレ達は敵となる事で君を…遺言の通りに守ろうと…」
ザダンがフッと笑む
「通りで…どこか挑戦してくるのを待っているような…戦い方でしたから…」
トオルが
「だから、お前がオレ達を退けた。だが、脅威は去っていない。だから、七大神王共とお前は共存すると…思ったが…」
スベルが
「そうは、成らなかった。結局は、同じ事の繰り返しだった」
トオルが
「お前は、生き残った。この後…ここで静かに暮らすも良い。暮らす為の資金やその他は、オレ達が出す」
ザダンは全てを聞き終えて、静かに沈黙する。
やがて、夕闇は、夜に変わった時。
ザダンは叫ぶ。
アアアアアアアアア。
それは悲しい獣の雄叫びだった。
「憎い。オレは…全てが憎い。許せない。そんなつもりもなかったのに…己の欲望の為に、オレ達を殺した。なら、オレも! オレの欲望の為に動くだけだ! アイツ等を殺したい!
許さない、赦さない、許さない!
お前等を皆殺しにしてやる!」
それを聞き終えたトオルとスベルは、鋭い顔をして
「分かった。それが望みなら…その入口まで、連れていってやろう」
と、トオルは告げた。
スベルが
「その見届け人として、私達が行こう」
ザダンは、岬で吼え続けた。
自分を殺したアイツ等、裏切った連中達全てに、地獄を見せると。
それはアルファイガの宇宙を崩壊させるだろうが、知った事でない。
なぜなら、自ら行った大罪によって自らが滅びる、因果応報であり。
千尋の谷から子を落とす獅子のように、子が父である獅子を憎み、這い上がって、やがて父を殺して、全てを破壊する最悪になるように。
ザダンは、アルファイガの宇宙の愚かで絶望が生み出した最強にして最悪の獅子の子なのだから…。
スベルとトオルは、ザダンをミズアベハ…神の祭壇に連れて行く。
高次元、神域を繋ぐ門であるミズアベハには、適正がない者が来ても神域との道は開かれない。
ザダンに神域の道は開かれなかったが…。
神域を越えた超高次元、是の領域との道が開き、そこから…ザダンの祖先を神化させた超位が出現し、ザダンをその領域まで引き上げた。
復讐という激情から生まれた超位のザダンは、かつて敵であり、自分を救おうとしたトオルとスベルを見届けにとして連れて、アルファイガの宇宙へ帰還する。
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