1話、街中でアルパカを見つけました。
良く聞き慣れた学校のチャイム。
窓側の席は午後になると太陽の光が差す。昼食をとり、お腹が満たされた後の日光を浴びて眠気が来る。その気持ちわ良くわかる。しかし…
「…榊くん、次は移動教室ですよ。」
返事はない。熟睡しているようだ。
注意するのは面倒だが仕方ない。私はこのクラスの委員長をしているため、ここは起こしておくのが無難な選択だろう。
「呼び掛けるだけじゃ蓮太郎は起きないぞ。風見。」
「真壁くん。そのようですね。」
言い終わると私は熟睡している彼の頬をつねる。あっ、柔らかくて温かい。
「いてててててててて」
「起きましたか?次は移動教室ですよ。皆のほとんどはもう移動しています。」
「起きてる。起きてるから離して~。」
柔らかく、触り心地が良いので、離すのを忘れていた。
「起きたのならすぐ準備してください。」
「む~風見さん、今度からはもうちょっと優しく起こして欲しいな。」
榊くんはつねられた頬をさすっている。
「優しく起こしても起きないじゃないですか。それになんでまた私が起こすこと前提なんですか。」
「風見は面倒見がいいからなー。」
「真壁くんは榊くんと幼馴染ですよね?真壁くんからも何か言ってやってください。」
「うむ。確かに。蓮太郎、いつまでも委員長に迷惑をかけるな!」
「え~、徹、担いでって~」
「おいおい、蓮太郎の筋肉が使ってくれって泣いてるぞ?」
無駄に熱い説得だが、積極的に榊くんの説得をしてくれるのは助かる。
「…徹。本当にそう思うか?」
当たり前だろう…。彼は何を言い出すんだ?
「…蓮太郎…。」
ほら、真壁くんもこれには流石に呆れているじゃないか。
「お前、俺が筋トレをしているのを知っていたのか?まさか、部活もしていない俺のことを考えて、ダンベルの代わりになろうと…?」
…ん?真壁くんも何か言い出したぞ?
「…本当にそれだけか?」
「…なに?」
「…本当にそれだけが理由だと思うか?」
「まさか、隠れて鍛えているが、実践で使わない筋肉のことを考えて役に立てて欲しい…と。」
これは、質問を深堀りしていくディープラーニングというやつだろうか。しかしこんな単純な…。
「うおおお!鍛えた筋肉を使わず泣かせていてるのは俺の方だったのかー!!」
単純だなこの男。
「僕はいつだってお前の味方だぜ。」
榊くんは親指を上に立てる。
「いやいやいやいや、待ってください真壁くん。」
「どうした委員長?…まさか、委員長もダンベルの代わりに!?」
「ふぇっ?」
私の考えていることとベクトルが違う思考に思わず変な声を出してしまった。
「うおおお!!俺は猛烈に感動した!!友達思いな仲間に囲まれてなんて幸せなんだー!!!」
そう言いながら真壁くんは私と榊くんを簡単に担いで次の教室へ走り出した。
なんでこうなった。
私の名前は「風見 春菜」。二年二組のクラス委員長をしている。一年生の時に学年トップの成績をとり、二年生になり委員長を推薦され、誰からも文句がなく、私も学年首位だし、頼られるのも嫌いではないのでそのまま委員長となった。
隣で担がれながら眠そうにしている彼は「榊 蓮太郎」。午後になるといつも寝ている。無害であるが、問題児だろう。しかし、物腰が柔らかくて話しやすいので友達が多い。うらやま…なんでもない。
そして私たちを担いで走っているのが「真壁 徹」体格が良く、ザ・スポーツマンという見た目だ。しかし、帰宅部らしい。底抜けの明るさから友達が多い。
…私にだって友達はいますよ?疑ってます?
ほら、そこに見えてきた美少女。
「…ん?わぎゃーーー!!なんだなんだ!?」
その反応は当然だろう。人を二人担いで走ってくる男がいるのだから。
「よう美砂嬢!今日も元気だな!!」
「あ、まっちゃんか。今日も元気すぎるな!」
「はっはっはっありがとな!!」
彼女は「城野 美砂」。オーバーなリアクションがとても可愛い。私の癒しだ。かなりのお嬢様らしいが、本人からはそんな雰囲気がない。良い意味で。その反応からよくいじられるが皆悪意がない。そして友達が多い。まったく嫌になるぜ。
「その両肩にいるのははるちゃんとれんくん?」
はるちゃんとは私のことだ。れんくんとはおそらく榊くんのことだろう。彼女はあだ名で呼びやすいように呼んでいるようだ。
「…二人が倒れてな…」
「えっ!?大丈夫なの!?保健室に…」
「なに嘘を言っているんですか。」
「わぎゃーーー!!生きてるーーー!!」
「城野さん、殺さないでください。」
「人殺しなんてしないよ!!」
話が噛み合わないがとりあえず言えることは、可愛い。
「榊くんを起こそうとしたらいつの間にかこんなことに…」
「神様のいたずらだね~。」
「あ、榊くんも生きてた。」
「そ、それよりも真壁くん。もうそろそろ降ろしてください。」
なんとか次の授業には間に合いそうだが、さんざんな目に遭った。もう榊くんは起こさない。
そう思いつつ四人で世間話をしながら次の教室へ向かった。
私は部活に所属していないので、授業が終わればすぐに、真っ直ぐに帰宅する。学年首位になる程度は勉強をしているので当然と言えば当然だ。
だが今日は先生から教材の移動を手伝わされて、すぐは帰れなかった。そしてこの教材、中々重かった。
運動はあまり得意ではなく体力も乏しい。こんな私に肉体労働をさせるとは…。あの教師分かってないな。
私の家は学校からあまり遠くないので、歩いて通っている。
「…?…あれは…。」
私の目に入ったのは白い毛むくじゃらの生物だ。進行方向なのでどんどん見えるようになってきた。
「ひつじ?いや…。」
あの首の長さは…。
「…アルパカかな…。」
アルパカ。こんな都会でアルパカ?首輪がない?野良のアルパカ?は?
ぷっぷーーーーー
しまった。アルパカに夢中で道路に私が飛び出してるのに気がつかなかった。
横からトラックのような大きな影が私に迫ってくる。なのに、私はなぜかもう一度アルパカの方を見た。
「…なっ…。」
そこにはアルパカに股がっている榊くんがいた。
「なんでやねーーーん!!!」
そこで私の意識は途切れた。