ブラコン、世界を越える
由々しき事態である。
俺は今まで生きてきた17年間の中でも指折りの、いや、もはや他を圧倒的にブチ抜いた1位と言っても過言ではない危機に直面していた。
そう、兄貴に恋人が出来たのである。
兄貴は4つ上であり俺とは似ても似つかなくもない…訳では無いのだが、圧倒的に整った顔立ちをしている。
例えて言うならば、福笑いだろうか。
俺が通常の福笑いならば兄貴は目隠しナシで芸術家が本気で組み合わせたような福笑いなのだ。
俺にも何が言いたいのかはわからないが、つまりは兄貴は顔がとてもいい。身内の贔屓目に見なくても芸術品だ。美術室に置いてあるような彫刻のモチーフになりそうな造形だ。かっこよすぎる。
そして頭もよく、運動も得意であり、なおかつ最高に好青年なのだ。
困った人がいたなら即座に手を差し伸べることができるし、周りからも頼りにされている。
どこからどう見てもモテないはずが無い、そんな完璧超人の兄貴に今まで恋人が出来たことはなかった。
もちろん弟である俺の執拗なまでの虫除けの成果である。
簡単なことだ。
小さい時から完璧超人の片鱗をみせていた兄貴に俺が尊敬の念を抱かないはずがない。憧れないはずがないのだ。
みんなに好かれ、期待を寄せられる兄貴に俺は憧れ、尊敬の視線を向けた。そんなこんなでいるうちに、俺は立派なモンペになっていたが、相も変わらず兄貴は聖人を極めていたし、超人オーラをばらまいていた。
そんなこんなで日々を兄貴かっこいいポートレート作成につぎ込んでいたとき、あることに気がついた。
邪な目で我が尊き兄貴をみる女が多数いることに。
もちろん俺は激怒した…という訳ではなく、「惚れちゃうよなぁー、そりゃ。兄貴すげぇもんなぁー。」なんて若干の同情を感じて、そして必ずかの邪智暴虐っぽそうな女共を兄貴の視界から取り除かなければならない、と決心したのだ。
同情で尊敬と敬愛というこの鋼の私情は覆らない。
それからというもの、入学式を含む学校行事やら、恋人達の聖夜やらリア充の日やらと、全ての行事において建築される兄貴の恋愛フラグをへし折ってきたのだ。
数多の本命チョコを選別し、下駄箱の手紙を検閲し、告白しようとする愚かな女子を恋愛という境地から更なる高み、つまりは兄貴親衛隊員にまで引き上げたりもした。
この血と汗と涙と兄貴今日もかっこいいで彩られた日々の努力が、今この瞬間、脆くも崩れ落ちたのである。
いやね?確かに兄貴もいい歳なのはわかってる。
恋人の1人や2人いた事があっても何ら問題は無いし、むしろもっといてもいいはずなのだが、神聖なる兄貴に並び立てる、要するに釣り合うことのできる女などいるはずが無い。
マジでそれはいない。
つーか、俺のこの兄貴完全ガード 〜決して誰も近づけまい〜 を超えて兄貴と付き合うとかどういう事だよ。忍者かよ。どんな技を使ったんだよ。いっそ御教授願いてぇよ。
なんて、虚しい俺の現実逃避を尻目に兄貴は逢引に行ってしまった。
逢引、つまるところデート。
俺はふらりとソファーから立ち上がる。向かう先は彼女…もとい忍者(仮)のところ。
逢引なんてふしだらなことに兄貴が巻き込まれる前に、俺は忍者(仮)を合い挽きにしてやろう。何と合わせるかは未定だが。
顔も名前も知らぬ女よ。否、我が生涯の敵よ。とりあえずは死ぬが良い。
そう意気込み、俺は玄関を勢いよく開けて飛び出した。
が
俺は今、どうして''見たこともない''場所にいるのか。
頭がカラフルでよく分からない服に身を包んだ人々が行き交う通りに俺はポツリ。
はてさて、Let's合い挽きと意気込んで飛び出した俺は何故ここに? てかここはどこ?
俺の素朴な疑問に答える声はなし。俺の中にも答えはなし。
ただ一つわかることは、「このままだと兄貴のデートを止められない」ということ。
ああ、この由々しき事態は当分終わりそうにない。
表現の稚拙さが目立ちますね。精進します。