第4話 一学期中間テスト
中間テスト前日の夜――。
俺たちは自室にこもり、問題を出し合う形で勉強をしていた。
「では問題。ある日の暮方の事である。……この文から始まる話はなんでしょうか?」
「……むずい。なんだっけ……」
「羅生門だな。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。って続いたはずだ」
「おお! 駿くん正解だよ」
「……当てるだけじゃなく、その後の文まで言うとは……」
その辺は前の高校でも習っていた部分だ。今回はたまたま覚えてただけだから、二人には謙遜した感じで返事をした。
「ふう……とりあえず、勉強はこんなところかな?」
「だな。国数英と一通りの問題は網羅したはずだ」
「……古典と分数嫌い。古い言葉も約分も、日常では使わない……」
「それを言ったらおしまいだろ。まあ親父にも、学校で習うもののほとんどは実生活では使わない。なんて言われたことはあるが」
「そういう話は聞くよね。まだ想像とかはつかないけどさ」
苦笑交じりで話す友明。
そもそも、何が必要で何が不要なのかも俺たちにはわからないからな。社会に出れば、その辺も否応なしに理解するのかもしれないが。
「あ……そうだ社会」
俺は頭の中に浮かんだ言葉で、あることを思い出した。
思い出したのは先日の世界史の授業についてだ。
「ん? 社会がどうかしたの?」
「いやさ。世界史の授業を受けたときに闘演祭って言葉が出たんだ。初めて聞いた言葉だから、疑問に思って質問しようと考えてたんだが、勉強とかが忙しくて頭から抜け落ちててな」
「あはは! そういうことあるよね」
「……闘演祭って、ドゥクス・ソル共和国の話題が出たとき……?」
野々宮の言葉に俺は頷いた。
「ああ。共和国の人間が、その行事の警備をするって聞いたから、どんなものなのか気になってたんだ」
「そういえば、去年のときにも警備兵みたいな恰好をした人たちが会場内にいたよ。っと、今回は闘演祭についての説明だったね」
友明がベッドに座ったまま足を組み、その上に腕を置く。
お? 久々に出たな。友明が説明をするためのポーズ。
「闘演祭っていうのは、星燐学園の三校舎にいる全生徒の中から、最強のバディを決めるためのトーナメント式の大会なんだ」
「全バディが参加するトーナメント?」
「そうだよ。九月に行われるイベントでね、各校舎ごとに予選を行うんだ。AからDの四ブロックに別れ、勝ち上がった四組のバディが決勝トーナメントに参加出来る。それを三校舎分だから、合計十二組が決勝の舞台で戦える訳だね」
今が大体、約二千組くらいのバディが存在するって言ってたか。単純計算でも一校当たりで六、七百組ってところだ。
そう考えると、会場の都合も含めて予選だけでも相当な期間になる。
にしても数百分の四か……狭き門ってレベルじゃねえぞ。
視線を戻すと、友明が俺の内心に気付いたのか苦笑いをしていた。
「……基本的には試合は休日に行う。……土日や祝日」
「決勝トーナメントは予選終了後の土日二日分で行うんだ。期間としては、予選も含めて約一ヶ月ってところだね」
「結構長いんだな。まあ、リンクバトルなんてこの島でしかやらないだろうし、独自のイベントならそんなもんか。……ちなみになんだが、体育祭や文化祭もそんくらい長いのか?」
「いやいや、どっちも二日間だけで終わるよ。強いて言うなら、前段階の準備とかが闘演祭の予選にあたるのかな」
また友明が苦笑しながら答えた。
あー、そうだよな。体育祭なら競技の練習をしなきゃいけない。文化祭だって出し物を決めたり、道具を揃えたりで準備に時間がかかる。
まあ、祭りなんて言葉が付くイベントはそんなもんか。
「なるほど。お前らも参加するんだよな?」
「もちろんさ。去年はバディを組んでなかったから、試合を観戦するだけだったんだ。決勝戦なんて本当にすごかったよ。この大会を見たからこそ、僕はマッチングシステムまで使ってバディを組もうと考えたくらいだし」
「……おれもカサルナと出る予定。腕試し……」
二人とも参加か。それを聞いて、俺は自分の鼓動が高鳴るのを感じた。
他のやつらも含め、どんなバトルを繰り広げるのかを考えてると楽しくなってくる。
でも、やっぱり前衛として戦えないのは歯痒い。俺自身、自分の実力を試したい気持ちがある。
歌恋には申し訳ないが、トラウマをどうにか克服してもらって、二学期には俺が前衛を務めてのリンクバトルをしたいもんだ。
「さて、闘演祭の説明はこんなところかな。参加の申し込みは七月になってから。パポスから参加登録が出来るからね」
「おう。今回も説明ありがとうな友明」
友明は「いえいえ、どういたしまして」と笑顔で返事をした。
「……というか眠い。もう寝る……」
「お? もう十一時回ってんな。俺も明日のテストに備えて、そろそろ寝るとしますかね」
「僕はもうちょっと勉強するよ。補習は受けたくないからね」
「だな。けど、あんまり根を詰めすぎるなよ」
「わかってるって」
もう少し自習を続ける友明を残し、俺はカーテンを閉めて布団に潜った。
まあ、やるだけのことはやった。あとは覚えた問題が出るのを天にでも祈るか。
朝を迎え、一日目の最初のテストを受ける。
今日俺たちが受けるテストは古典と英語、数学Aの三科目だ。翌日の二日目が数学IIと現代文の二教科という日程になっている。
ちなみにテストはマークシート形式の問題だ。
最新鋭の技術を集めた学園がマークシートでのテストなのかよ。と俺は知ったときに思ったんだが、この学園の生徒数を考えると納得してしまった。
教科担当の教師が採点する答案用紙の数、当たり前だが数百枚。それだけの数を一つ一つ採点なんて、生徒の俺からしても頭が痛くなってくるほどだ。
要するに、マークシートなのは採点する教師に優しい仕様だということ。
テスト中はパポスの電源は切り、監督の教師に預けないといけない。リンクに対しては、接続を阻害する妨害電波的なものが出てるらしいから、不正対策も万全とのこと。
まあ、俺はカンニングする気もないがな。
「マークシートと問題用紙は行き届きましたね? ……では、始めてください」
担任である春日部麗先生の声に従い、一斉に紙が裏返される音が鳴る。
さあ、この学園での最初のテストだ。問題の読み間違えや記入ミスがないようにしないとな。
それから三時間が経ち、一日目のテストの日程が無事に終了した。
なんだかんだでテストを終えた俺たちは、学食で食事をし、中庭のいつもの場所で答え合わせをしている真っ最中だ。
「……では、問十一の答えはX=23ですのね?」
「はい。そうなります。ですので答えはBで間違いないかと」
「うぎゃあ! じゃあ、計算ミスってたのだ!」
「うーん、僕も答えが違うなぁ。ちゃんと見直ししたはずなんだけど……」
「友明の場合、こっちじゃなく、そっちから先に計算してれば23になってたはずだぜ」
「え? ……あ、本当だ。単純に解き方が違ってたみたいだね」
数学は計算ミス一つで答えが変わってくる。すでに俺も自己採点で何ヶ所か間違ってるのを確認した。
「歌恋はこの問題解けたか?」
「ふぇ!? え、えっと……わからなかったから当てずっぽうでBに……しちゃった」
「お前なぁ」
「まあまあ、答えが合ってたのなら良いではありませんの」
「……マークシートは、途中の計算式を書かなくて良いのがありがたい……」
そうなんだよな。下手すれば、当てずっぽうでも満点が取れるのがこれの怖いところだ。
「そのせいでしょうね。舞人はテストの問題を見ずに記入して赤点を免れたりしています。本当にあの熊は悪運が強い」
「そういえば、ゴウダくんって授業まともに受けてないものね」
「豪田くんは授業中に寝てたり、そもそも教室にいないときもあるから」
愛奈と友明の言葉に「あの馬鹿……」と美鏡が眉間を指で押さえていた。
豪田ってすげえな。我らが春日部先生だって、現代文の授業でC組を担当してるはずなんだが……。
俺には到底マネ出来ないな。そこに痺れる――やめておこう。今は採点に集中だ。
そんなこんなで一時間。自己採点を終えた俺たちは図書室を訪れ、残りの二教科への追い込みをかけた。
テスト二日目。
すでに関数や方程式とかの面倒な数学IIを終わらせ、最後の一教科のみとなった。
現代文は得意だから、覚えた内容が出てくれれば楽勝だ。
教師の声に合わせて俺は問題用紙を裏返す。
最初は漢字やふりがなを選択肢の中から選ぶタイプの問題か。この辺はウォーミングアップレベルだな。
俺はさしたる時間もかけずにマークシートを塗り潰していく。
最後は文章系の問題だった。しかも、ありがたいことに内容は羅生門とはな。これはこっちのもんだ。
俺は文章を頭に入れながら問題を読み解く。そこからマークシートに記入する三拍子。走り出したペンは止まらない!
気付けば、俺は全てのマークシートを埋め終えていた。時間もまだ余ってるから見直しをしておこう。
……うっし。たぶんだが、九割以上は合ってるはずだ。
少しの間を空けて終わりを告げるチャイムが鳴った。
「おし! てめーらそこまでだ! 三秒以内にペン置かねえ奴はカンニング扱いにすんぞ!」
チャイムが鳴る直前まで寝ていた監督の教師。新土神楽先生の咎める言葉が教室中に響いた。
終わった途端に切り替える様はさすがの一言だ。
「んじゃ、このあとはHRがあるから勝手に帰んなよ。学生諸君と俺、この二日間ご苦労さん」
そう言い残して新土先生は教室から出て行く。自分も労う様は以下略。
「ふう、お疲れ様でした守住くん。その顔、どうやら手応えがあったようで」
「そっちも問題ないって顔だな」
前の席に座る美鏡と雑談を交わす。どうやら、お互いにテストの出来は上々なようだ。
続けて歌恋や榊坂、野々宮も集まってテストの話に花を咲かせた。
俺たちが話していると、教室のドアが開いて春日部先生が入ってくる。
そのまま帰りのHRが始まり、連絡事項を伝えた先生が最後に「みなさんお疲れ様でした。今日は羽目を外さない程度に英気を養ってくださいね」と言って出て行った。
「っはあ……やっと終わったって感じだな」
「うん。お疲れ様駿ちゃん」
んで、再度集まるいつものメンバー。
「……寝たい……心底寝たい……」
「野々宮くんは寮に帰って寝た方が良いのでは?」
「ですわね。わたくしはストレス発散のために食べ歩きをしたいところですわ」
「お! それ良いな。俺も付き合うぜ榊坂」
「あ、あたしも行きたい」
「んじゃあ、友明たちも誘うとするか」
なんて放課後の予定を立てていると、俺の席の近くにあるドアが開いた。
まあ、そんなものは普通のことだから俺たちは振り向きもせずに話を続けていたんだが……。
「テストご苦労様。お話し中のところ申し訳ないんだけど、オレも混ざっていいかい?」
「え?」
教室内のざわめき、そして男の声が聞こえて振り返る。
「あらあら? これは珍しいお客様ですわね」
「え? 小野先輩? えっと、俺たちに何か用ですか?」
振り返った先にいたのは、優しい顔付きをした副会長である小野先輩だった。
「きみたちと言うか、きみにだね守住くん」
「お、俺?」
「うん。実は守住くんに頼みたいことがあってね。今から時間もらえないかい?」




