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エピローグ おかえりとただいま

 試合から二日後。俺たちは夕暮れが照らす港に集まっていた。

 この場にいるのは三人。俺と体調が回復した歌恋。そして今回の功労者の美鏡だ。


「で、ですから! わたくしはまだ駿たちとまともに合わせる顔が……!」

「もう! あれから何日も経ってるんですよー! そんなこと言ってないでキビキビ歩いてください!」

「観念する……もりずみ君たちは気にしてない……」


 そんなとき、ごねた声が遠くから聞こえてきた。

 必死な顔で手を掴んでいる有栖。もう片方の手を引く野々宮の姿も見えた。

 そんな二人に手を引かれているのは、気まずそうな顔をした榊坂だ。


「カサルナちゃん来てくれたんだ! えへへ、ありがと!」

「えう……ご、ご機嫌麗しゅうですわ」

「あー、えっと……よう榊坂」

「は、話すのは久し振りですわね駿」


 最後がケンカ別れになっちまった俺と榊坂。事情は理解しつつも、なんとも言えない顔で受け答えをする。


「お互いにぎこちないですね。顔が赤いですよ守住くん。しかし、榊坂家ご令嬢の意外な表情も見れるとは。これが見れただけでも付き添った価値はありそうで」

「う、うっせー!」「う、うるさいですわ!」


 声が重なったせいで、俺たちは顔を見合わせて固まった。


「ふひひ! お嬢様のテレ顔も見れたので、野々宮兄妹は退散するのであります!」

「瀬場さんのところに行くから、おれたちはここで……」

「そっか……。二人とも今回はありがとうな。お前らのおかげで、誰一人欠けずにハッピーエンドが迎えられそうだ」

「……それはこっちのセリフ。ありがとうもりずみ君……」

「アリスからもお礼を言わせてください。おにぃが今も島にいれるのは先輩のおかげです。本当にありがとうございました!」


 有栖が深々と頭を下げる。それが心から言った言葉なのだとわかった。


「って、そんなにかしこまる――」

「ふっふーん! まあ、さっすがアリスの嫁って感じですね!」

「駿ちゃんが有栖ちゃんの嫁!?」

「嫁じゃねえよ! あと婿でもねえからな!」


 俺のツッコミで笑いが上がった。そんな温かな雰囲気の中で、野々宮兄妹が港から立ち去るのを見送る俺たち。


 十分ほど経ち、会話で賑わい始めた港に定期船がやってくる。

 船から出てきた中には、俺たちが待ちに待っていた一組のバカップルの姿があった。


「あ! みんなー!」

「おお!? 出迎えがこんなにいるのは予想外なのだ!」


 小走りで船から降りてくると、友明は俺と握手を交わし、愛奈は歌恋と榊坂に抱きついた。


「あ、愛奈ちゃん!?」

「いきなり抱きつくとは相も変わらずですわね」

「えへへ! カレンちゃんとルナちゃんなのだー! って、そういえばこっちの子は誰?」


 愛奈が美鏡を見て首を傾げる。どうやら、この二人は面識がないらしい。


「えっと、私は心音愛奈でござる! 以後お見知りおきを!」

「私はB組のクラス委員をしている美鏡蜜柑です。彼らとは財前と戦うために共闘した仲です」

「財前会長と? なんであなたが?」

「実は、私は黄泉川皐月の幼馴染なんです。今回の件で、財前の悪行を裁きたくて力添えを」

「そっか。あなたはサツキ先輩の……謝って済むことじゃないけど、先輩を助けれてあげれなくてごめんなさい」


 申し訳なさそうに頭を下げる愛奈。

 だが美鏡は「気にしないでください。あの時期はあなたたちも大変だった訳ですし」と言って愛奈の頭を上げさせた。


「そういえば、お前らは地元に戻ってる間に問題とかはなかったか?」


 俺は空気を変えようと別の話題を振る。財前からの嫌がらせとかも考えられるからな。


「駿くんには電話で話したけど、僕の方は問題なかったよ。親に少し心配されちゃったくらいでさ」

「私は……」


 愛奈がチラリと榊坂を見た。


「どうかしまして?」

「あ、えっとね。ルナちゃん以外は知らないと思うけど、私の両親はマネートレーダーをしてて」


 そういえば、そんな話を野々宮から聞いてたな。


「仕事熱心なせいで親子の会話も少なくて、それでその……私は親とあまり仲がよくなかったのだ。だから、正直家に帰るのがすごくつらくて」

「愛奈ちゃん……」

「帰ったらきっと怒られる。そう思って家に着いたら、むしろ怒られるどころか謝られちゃった」

「謝られた、とはどういうことですか?」

「それが、ルナちゃんのお母さんがうちの両親に話をしてたみたいで……」


 榊坂の母親は、愛奈の両親に会ってこう言ったらしい。




 今回の件、娘さんには非がありません。どうせ財前家の者が見せしめに行ったのでしょう。

 まずは叱らず、誠心誠意向き合って娘さんの言い分を聞いてあげなさい。


 子にとって、親とは一番頼らなければならない心のよりどころ。

 親が子の言葉を信じてあげなければ、子供は一体誰を頼りにし、すがればいいのですか?

 あなた方は天性の読みをお持ちのようだけど、人の心を読むのは疎過ぎる。今一度、親として娘さんと向き合い、傷心している我が子を抱きしめてあげなさいな。


 こちらはこちらでなんとかします。あなた方の雇用を取り消すつもりはないので、思う存分娘さんの心を癒してさしあげなさい。




 以上が愛奈が両親から聞いた話だ。

 そのおかげで愛奈は嫌な思いをせず、親子三人の時間をゆっくり過ごせたのだと言った。


「ふふっ、さすがですわねお母様。ですが、セリフの一部がお父様の受け売りですわ」


 榊坂が苦笑しながらそんなことを言った。


 どうせ榊坂が手を回したんだろうな。って思ったが、どうやら違ったみたいだ。

 実直な性格の母親。おそらく父親もそうなんだろう。榊坂の芯が真っ直ぐなのは、この親譲りなのだと俺は納得した。


「そうだ! 財前会長はどうなったの? 僕たちが帰ってこれたってことは……」

「財前は一学期の間中、島から退去することになった。復学まで一切のリンクの使用が禁止されてるみたいだ。メイドの黒咲も一緒に島を去った」

「私が得た情報では、財前は当主である父親から勘当を告げられ、亡き母親の実家に引き取られたという話です」


 退学にはならなかったが、あいつは重い罰を受けることになった。


「会長さんのお母さんって亡くなってるの?」

「ええ、彼が幼い頃に。それが原因かは分かりませんが、性格が破綻しだしたのがその時期からとも聞いてます」


 なるほどな。そういう事情があったのか……。


「だからと言って俺は同情しねえぞ。あいつがやったことは、それを知って許せることじゃないからな」

「それは私も同じですよ。あと、教頭は辞任。財前家からも学園側からも捨てられたようですね。実質島流しのようで」


 今回の件で俺たちと絡むことはなかったが、教頭も事件の当事者だ。

 こっちに対しても同情する気は起きねえがな。


「なんかもう、私たちのせいで色々と大事になっちゃったのだ……」

「あのときの僕らはどうしてあんな……僕たちのせいでみんなに迷惑をかけてしまって、本当にごめん……」

「良いっての。気にすんな」

「駿の言う通りですわ。わたくしたちにも色々ありましたが、誰一人欠けることなく事なきを得ました。それで良いではありませんか。……まあ、財前家には今回の件、いいお灸となったのではないかしら?」


 榊坂の言葉に、それぞれに思うところがありながらも納得した顔になる。


 しっかし、長期休暇から波乱の連続だったな。

 過去についてみんなに話したり、八百長問題が大事になったり。

 今回の戦いで、ちょっとは歌恋の立ち位置も改善されたと思いたいが……はてさて、どうなることやら。


 リンクについても、謎が深まる部分と解けた部分があった。

 アベルに関しては今度会ったら正体を問いたださねえと。あいつはまだまだ色々知ってるはずだ。


 友明たちとまた、一緒に学園生活を送れる未来を掴み取れたこと。

 それこそが、俺にとって今回の件で得た一番大切なものだ。俺はその思いを胸に刻む。


「そういえば、まだあいさつをしてなかったな。友明に愛奈おかえり! これからも一緒にバカ騒ぎしようじゃねえか!」

「うん! 二人ともおかえりなさい! また街に遊びに行こっ!」


 俺と歌恋は笑顔で二人にあいさつした。


 そんな俺たちの顔を見て、友明と愛奈が目に涙を浮かべ始める。

 友明たちはその涙を拭うことなく、俺たちと同じように笑顔であいさつを返す。




 ――みんな、ただいま!!

3章&一学期編前半が終了となりました。

よければ感想や意見、ブックマークや評価などがいただけると励みになります。


【次章予告】

中間試験と生徒会に関する問題事に見舞われる駿。そんな駿に第二と第三校舎の生徒会長たちが接触を図ってくる。

三校の生徒会長である皇次との戦いが、駿すら知らなかった我禅流の真実や歌恋に関する秘密を明らかにし、彼の日常と常識を崩壊させる結果へと導いてしまう。

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