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第29話 窮鼠となりし猫は獣を嚙む

 翌日の授業を終え、リンクバトルを行う放課後の時間を迎えた。


 島の中央にある大型のスタジアム。前に友明たちと退学を賭けて戦ったここが、再び決戦の地となった。

 ドーム状の建物の中には百平方メートルの巨大なリングがある。それに加えて数万人が座れる観客席。客席の下には食堂などの施設も完備してるらしい。


 俺と歌恋はその中にある選手用の控室にいた。

 向き合ってベンチに座る俺たちは、緊張に包まれながら会話を交わす。


「この試合の結果であたしたちの学園生活が決まるんだね……」

「そうだ。あいつらの退学を取り消せるか。そして、俺たちがここに残れるかがな」

「うん。あたしたちならやれる!」

「ああ、この勝負は絶対負けられねえ! 力を合わせて勝ちを取るぞ!」


 俺の言葉に歌恋が力強く頷いた。

 パポスに通知が届く。それは試合の開始を知らせるものだった。


「うっし! 行くぜ!」


 気合を入れた俺たちは、財前たちと戦うためにリングへ向かった。


 静寂が広がる廊下を歩くこと数分。その先に抜けると騒がしい歓声が聞こえてきた。

 スタジアム内の明かりが、暗めな廊下を歩いてきた俺たちの目を刺激する。

 それを腕で遮った先に見えたのは多くの学生の姿だった。


 全体的に見ると少ないが、それでも最前列は三百六十度埋まってるように見える。


「すげえな……鹿島と戦ったときとは段違いだ」


 俺は思わず固唾を飲んだ。予想はしてたとはいえ気後れしちまうな。


「うん。やっぱり、第一校の生徒全員来てるんだよね?」

「だろうな。あんな告知までしやがったから、そりゃあみんな来るだろうさ」


 あんな告知とは、昼食時に送られてきた通知のことだ。


 友明たちの退学のときと同じで、今回の試合についてもメールで一斉送信された。

 対象は第一校の生徒のみだ。第二と第三の生徒には知らせないことを念頭に置き、知らせたものには罰則を科すと書いてあった。


 読んだ俺が、傍若無人ってレベルじゃねえぞ! と呆れたのは言わずもがなだ。


 メールには決闘の約束の音声も添付されていた。

 それを聞いたC組の生徒に「大庭たちにも何か訳があったんだろ? 頼む。あいつらが戻ってこれるように勝ってくれ!」と頼まれもした。


 リングへ上がる俺たちには背負うものがある。それは自分たちの進退だけじゃない。

 作戦に協力してくれた野々宮たちの思い。そして、友明たちの無罪を信じてるC組のやつらの願いだって背負っているんだ。


 だからこそ、なおのこと財前との勝負に負ける訳にはいかなかった。


「ふふふっ、処刑台に上った気分はどうだい二人とも? ああ、処刑台なんて言い方で申し訳ない。でも仕方ないじゃないか。僕たちが君たちに負ける要素なんてないのだからさ」


 すました顔でそう言うのは財前だ。別邸のときのようなゲスな顔付きや言葉遣いはしていない。

 あくまで全校生徒の前ということで猫を被ってるつもりらしい。


「そうですか。まあ、俺たちも負ける気はないんですけどね。だから、こちらもあなたに言葉をお返しますよ。大勢の前で醜態を晒す覚悟をしておいてくださいね財前会長」


 俺はわざと挑発する言葉を選んで返事をした。その言葉と態度で財前がピクリと眉を動かす。

 だがそれだけだ。表情を変えないのはさすがといったところか。


「ははっ、その強気な態度、いつまで続けられるか見物だな。さあ、戯れはここまでだ。さっそく対戦を始めようじゃないか。菖蒲」

「了解致しました。エクステリア、アサルトスタイル・シープを装換」

「エクステリア装換。さあ、蹂躙するぞ! 来いディスタスタイル・アリゲーターよ!」


 財前と黒咲がエクステリアの装換を行う。同様に俺たちも。


「行くぞ歌恋! 来いよエクステリア! アシスタスタイル・ウォルフ!」

「うん! アサルトスタイル・ウォルフを使用!」

「「装換!」」


 白い柱が俺たちの体を包み込む。数秒で柱が消えると、俺たちは動物を模したパワードスーツを装着した姿でリングに立っていた。

 俺と歌恋のエクステリアは、共に慣れ親しんだ黒と白の狼型だ。


 黒咲の服装は、元のメイド服が白いウールのような素材に変わったような装いだった。

 他に違いがあるとすれば、ケープを羽織ってる点。所々が機械的なアーマーに変質している他、頭部には巻き角が生えている。

 宣言通り、ヒツジ型のエクステリアって感じの見た目だな。


 財前が身にまとうのは黒いワニのようなエクステリア。

 体を覆うマントが固そうなうろこのようになっていて、翻ったその下にはパワードスーツを着込んでいた。

 加えて、被る帽子がテンガロンハットのせいで、ガンマンのような恰好にも見える。


「アーマメント装換! 共に駆けようアークスメダリオン!」

「アーマメントを装換致します。ヒドゥンツールズよ、我が元に」


 歌恋は足元に出現したブーツ型の武装を装着する。対する黒咲は灰色の短刀を二本手元に転送した。

 メイド服といい二本の短刀といい、別邸で対峙したときとあまり代わり映えがないな。

 機能の強襲技も見てるし、情報面では有利な状況かもしれない。


 けどそれは、相手も常に使い慣れている格好と武器を扱うことにもなる。一度対峙してるとはいえ、楽観視は出来そうにないか。


「さあ、決戦の幕を上げようじゃないか」


 財前がパポスを操作すると、俺にランク戦での対戦申請が送られてきた。


 ランキングには、現在二千を超えるバディが存在している。

 なんでそんな話をするかと言えば、パポスにそれぞれの順位が載ってるからだ。

 財前たちが九十位。対する俺たちは千六百十三位だ。俺たちがまごうことなく底辺ランクなのが見てわかる。

 ちなみに友明や鹿島たちでも三桁の順位だったが、今回は二桁も差がある訳だ。これはこれで中々心にくるものがある……。


 けど、俺はその申請に同意する。

 ランクの数値だけで勝負は決まるとは思わねえ。だからこそ、俺たちは戦って勝負を決めるんだ。


 両者の合意が揃ったことでアナウンスが流れた。


「両バディ、指定ノ位置ニスタンバイシテクダサイ。続キマシテ、リンクバトルニ対スル参加ユーザーノ同意ノ確認ヲ行イマス……ソレデハ、準備ハヨロシイデショウカ?」

「「「「イエス。オフコース!」」」」

「――全承認完了。現フィールドノステージヲ電脳エリアヘト変更。コレヨリ、ステージヲ展開致シマス」


 プロジェクショングラスが展開してリングの壁や天井となって囲んでいく。全てが覆い終わったとき、内部は電子的な空間に変わった。

 周囲に浮かぶ立方体のデータの塊。三百六十度の空中、加えて床や天井には0と1で出来た羅列が行き交う。

 あるのはそれだけだ。百平方メートルに及ぶ空間としてはあまりにも簡素なものだった。


「ステージノ完成ヲ確認。コレヨリ、リンクバトルヲ開始シマス…………オープン・ザ・デュエル! レディ・オーバー!」

「「リンクドライブ!」」


 俺と財前が同時にリンクを繋ぐ。それに従って歌恋と菖蒲それぞれの足元に魔法陣が現れ、頭部まで到達して消滅した。


『前衛はアサルトスタイルか。なら例の強襲はかなりの速度になるはずだ。気を付けろよ歌恋』

『了解だよ! 攻撃範囲はクロスレンジだから、あたしでも対処出来る。ヒット&アウェイは得意だもん』

『ああ、頼むぜ。初っ端から全力で行くぞ!』


 俺の言葉に歌恋が『うん!』と返すと「リンクバトル……」とアナウンスが鳴った。

 互いに前衛が構え。


「――アクセスッ!」


 狼と羊、二体の白い獣による戦いが始まった。


『一気に駆けろ歌恋!』


 歌恋は俺の指示通りに黒咲に向かって走る。それに対して黒咲は腰を落とすと、体がブレてその場から消えた。


『この技……!』

『そのまま前方に飛ぶんだ!』

「ふっ!」


 歌恋はその場で止まることなく前へ跳躍する。

 すると、先ほどまで歌恋がいた位置に黒咲が現れて短刀を振っていた。


「くっ!? 読まれていたと!?」


 向こうの思惑は外れたみたいだな。

 おそらくだが、黒咲が消えたことで警戒して留まる歌恋を、斬撃によって仕留めるつもりだったんだろう。

 初見なら有効な手だった。だが、すでに目にした攻撃なら俺たちには効かねえさ。


『よし。もう一度距離を詰めて仕掛けるぞ!』

『うん! ポイントで増設したブースターを使えば……!』


 振り返りながら着地する歌恋。


「クイックブースター起動! いっけええぇぇえええ!」


 歌恋の言葉に従い、アークスメダリオン取り付けた単発式のブースターが起動する。

 それにより、歌恋の体を一気に前方へと押し出した。

 瞬間速度のみを追求した加速装置。相手との距離を突き詰めるために設計されたブーツ型の機能だ。


「――っこのスピードは!?」


 歌恋が左腕を引き、手の平に空気を収束させる。射程距離内に入った瞬間、掌底と共に行う我禅流の技を放った。


「我禅流闘技! 雪壊掌(せっかいしょう)っ!」


 先制の一打はもらったぞ!


「アームズスキル、ウールディフェンサー起動!」

「――そんな!? 受け止められた!?」


 あれはエクステリアのアームズスキルか?

 アーマーとして装備されたケープが外れて膨張すると、前方に壁となって展開された。


 羊毛を意味するウール。弾性が高く、元に戻ろうとするのが特徴だ。

 おそらくその性質で攻撃を受け止めた。だが、それだとおかしい点が出てくる。


『ウールは通気性が良いはずだ! どうして空圧が通らねえ!?』

『単純に強化のせいだと思う! やっぱり上位ランカーは外装の強化値が高いんだよ! でも!』


 歌恋は諦めない。一旦腕を引き、水夜蛟(みなやみずち)を使用して精神を研磨。

 ステップで相手の側面にずれながら、すぐさま足に電気をまとわせる。


「雷電脚っ!!」


 無防備な黒咲の側面に蹴りが振り抜かれた。

 すでにケープは使ったあとだ。クラッシクなメイド服には、他の防御手段は見当たらない。


「それをもらう訳にはいきません!」

『今度は避けられた!?』


 くそっ! 歌恋の行動を読んでいたかのように回避された。そこから距離を取るように後退される。


 だが、距離が開いても歌恋はまだ諦めていなかった。

 いや、諦める訳にはいかないんだろう。友明と愛奈の冤罪を晴らすため、この勝負に勝とうとする気概が俺にまで届いてきた。


 手の平の気を放つのが雪壊掌だ。それを応用し、五本の指先へ気を集めた歌恋は――。


「我禅流派生闘技! 風牙爪(ふうがそう)!」


 蹴りを行った無理な体勢から腕を振り、空気による斬撃を放つ。 


「避けれ、ない――!?」


 黒咲が即座に反応し、腕による防御で乗り切ろうとする。

 強化されたエクステリアのおかげか、椀部の布が裂けるも、その肌には軽い切り傷が入ってだけだ。


 手元に自動で戻ってきたケープを着直す黒咲。そこから何度か攻防が続くも、互いに有効打が見えないまま時間が過ぎる。

 お互いに示し合うように距離を空けた。これは長期戦になりそうだな……。




 両者が距離を取り、睨み合う形になったところで帝は小さく舌打ちをした。

 思った以上に食らいついてくる歌恋。帝は、欠陥品の分際で自分たちに盾突いてくるのが気に入らないのだ。

 歌恋が奮起する姿を見て腹ただしくなった帝が、しびれを切らして菖蒲に指示を出す。


『……菖蒲アレを使え』

『アレ? ……まさか!? それはルールに反することになります! わたしがこのまま戦えば事足り――』

『なんだ? この僕に口答えをする気なのか!? このまま戦えば事足りるだあ? あの程度の奴にもたつくお前が悪いんだろうが!?』

『す、すみません! ……わかりました』


 指示に否定的な態度を見せる菖蒲だったが、主従関係である帝の意見を拒否することはなかった。命令を背くことだけは決してしない。

 駿たちも菖蒲の表情の変化に気付いたのだろう。身構える姿が帝の瞳に映る。


『くひひっ! やれよ菖蒲!』

『……はい!』


 菖蒲が手に持っていた小太刀を後方に投げ捨てる。

 白きウールで織り成されたメイド服。菖蒲の下半身を覆っている長いスカートが翻されると、その内部があらわとなった――。

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