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第17話 卑劣な取り引き

 五月六日、朝のHR前――。


 駿たちが教室に入ったのを確認し、愛奈と友明も自分たちの教室の前に立つ。


「うーむ、休み明けは教室入るのが億劫なのだぁ……」

「愚痴を言ってもしょうがないよ。さあ、入ろう愛ちゃん」


 だが、扉を開けようとしたところでパポスに通知が届いた。二人同時に。


「うぅ……! トモくん。カレンちゃんじゃないけど嫌な予感がするのだ」

「あはは……この前のことがあったから気持ちはわかるよ。僕も同じだもの」


 友明が言っているのは、歌恋の退学を賭けた試合のことだ。あのときも二人揃って通知がやってきた。

 その通知を発端に、彼らは感情に任せた言い合いにまで発展させた経緯がある。


「……って、生徒会からの呼び出し?」


 友明が恐る恐ると確認。すると、学園に従属する生徒会からの通知だった。

 とはいえ、これまで彼らはなんの問題も起こしていないのだ。

 生徒会から通達が来ることはまずありえない。だからこそ、友明が困惑するのも無理はなかった。


 そんな彼とは対照的に、愛奈は嫌そうな顔でパポスを見つめている。


「今からか。とりあえず行ってみようか」

「……う、うん」


 気が乗らない様子の愛奈。それを見て友明が不思議そうな顔をするも聞くことなく歩き出す。




 生徒会室。友明がそう印字されたドアをノックすると、中から「どうぞ」という淡泊な女性の声が聞こえてきた。

 かけられた声に従って友明はドアを開ける。室内には生徒会長の財前帝。付き人であるメイドの黒咲菖蒲の二人が待ち構えていた。


「ようこそ第一生徒会へ。朝からすまないね大庭友明君。そして心音愛奈さん」


 帝は机に両肘を突き、組んだ手にあごを乗せていた。いかにも、立場はこちらの方が上だと言わんばかりの態度だ。


「あの、なんで僕たちが呼ばれたのでしょうか?」


 緊張した面持ちで友明が質問をした。

 このあとには朝のHRがある。呼び出されておいてあれだが、友明としては早く用事を済ませたかった。


「緊張しているようだね。それほど時間は取らせるつもりはないから楽にしてくれ」


 帝が目を細め「まあ、時間なんて有り余るだろうがね」と付け加えた。

 その言葉を聞き、愛奈が苛立ったような顔で口を開く。


「何の用なのか早く言ってくれませんか財前会長。私たち、HRに遅れたくないのですけど」

「あ、愛ちゃん……?」


 自分と同じ考えだったこともそうだが、いつもと違う愛奈の雰囲気に友明は驚いていた。

 愛奈の反応を見たことで帝の口元が歪んだ。


「苛立ってるじゃないか心音。どうした? もしかして、僕がお前たちを呼びつけた理由を把握しているのかな?」

「……あんたのそういう態度ムカつく。社交界のときもそうだったけど、猫被って外面良くして、本心では財前家以外の人間全部を見下してるその態度。本当にムカつく……!」

「愛、ちゃん……?」


 愛奈が見せたのは明らかな敵意。友明は初めて彼女のそんな顔を見た。

 そもそも、なんで社交界なんてところに愛奈が行っているのか、それが疑問となって浮かんでくる。


 帝は愛奈の苛立ちに気分を良くしたようで、友明の戸惑う様子には構わず話を進めた。


「答えになっていないが、まあいい。まずは君たちに聞いてもらいたいものがあるんだ」

「き、聞いてもらいたいもの?」


 帝がタブレットを操作するのを眺めながら友明が聞き返した。


「ああ。是非とも聞いて欲しいものさ」


 帝は、嫌らしい笑みを浮かべながらタブレット端末の再生ボタンを押す。

 そこから流れ出したのは――。


「お願いします! 歌恋ちゃんの退学が懸った試合で、僕たちに負けさせてください!」

「お願いします! あなたたち二人と戦う試合で負けさせて欲しいんです!」


 音声を聞いた友明が「そんなっ!?」と驚きの声をあげ、「やっぱり……!」と愛奈が顔をしかめる。


「……なあ、これを聞いてどう思った? どうして生徒会長が音声データを持っているんだ? そもそも、なんでそんなものが存在している? いやいや、自分たちに聞かせてこの男はどうしたいんだ?」


 矢継ぎ早に質問を並べる帝。それから立ち上がって本性を晒す。


「なあああんて思ってるのかあああぁぁ!? ははっ! 分かる! 分かるよ! お前たちの不安が! 疑問が! 苛立ちがさあ!!」


 帝は心底楽しそうに語る。他人を貶めることが本当に楽しいのだと、この男の顔から滲み出ていた。


「……ゲスめ」

「下衆で結構ッ!!」


 愛奈の呟きを聞いて帝は高らかに肯定する。戯言と切り捨て、手を顔に当てて天を仰ぐ。


「あぁ……それにしても、よくこんなヘマをしてくれたよなぁ心音。嬉しいよ。……最近さぁ、目障りだったんだよ。資産家を語る心音家が。大した力もないくせにぃ、榊坂財閥に擦り寄ってぇ、地位を確立しだした投資家風情が気にいらなくてさぁ……!」

「愛ちゃん、それってどういう……?」

「なんだ心音。お前、大事な大事な恋人に話してないのか? ああ……話せないよなぁ。両親が嫌になって、逃げるようにしてこの島に来たんだからさぁ。せっかく、自分の存在を認め、見初めてくれた大切な異性だもんなあ!!」

「やめてっ!!」


 愛奈がそれ以上聞きたくないと耳を塞いでしまう。


 何を言っているのか友明には分からなかった。

 資産家を語る投資家? 愛ちゃんは榊坂さん同様にお嬢様なのか? いや、そもそもなんで逃げるようにして島に来た?

 湧き上がる疑問の言葉が友明の頭を埋め尽くす。


「まあ、離れ離れになる身だ。今更気にしても意味ないな。話を戻そう。僕がお前たち二人に言いたいこと……もう分かるよなぁ?」


 机に片手を突き、友明と愛奈の顔を見下すように眺める帝。


「いらないんだよ。お前らみたいな不正をする奴ら。そんな考えを持ったカビがあるとさ、周囲に広がって全部腐るんだ。正しい生徒たちも巻き込んで」

「お、お言葉ですが財閥会長! 僕たちは本当に不正なんてしていません! 確かに今流した通りの話はしましたが、そのあとちゃんと八百長はしないって約束を――」

「知ってるよ」

「――は?」


 さも当たり前のように帝は答える。自分が知っているのはあの部分だけではないと、そのあとの会話も把握しているという返答。

 なら、なんでだ? と友明の内心が現れる表情を見て帝が告げる。


「今のは建前だ。言っただろ? 邪魔な心音家を潰したいんだよ。だから、この不正を匂わす音声を証拠にし、お前たちを島から追放するんだ。資産家の娘が不正で退学。没落する理由としては充分だろ? しかし可哀そうだな大庭。半ば自業自得とはいえ、決定的になったのが恋人が辞めさせられる巻き添えにされただけ。だもんなあ!」


 心から嬉しいのか、帝は堪えきれずに高笑い始める。聞く者を不快にさせる笑い方だ。


「……だったら、私だけ辞めさせればいいじゃないのさ」

「あ? ここがどこだか忘れたのか? リンクを使い、バディ同士でリンクバトルをさせるための島だ。二人揃っての連帯責任だよ、連・帯・責・任ッ! ……そもそも、大庭も加担しているんだから同罪だろ? なんで彼氏の方だけ無事で済まされるとか思ってんだよ!? お前の頭は、ウルトラハッピーですかあああ!?」


 帝の言う通り、あれは二人で話し合って決めた話なのだ。例え実際に行われなかったことでも、証拠として帝の手元に残っている。

 なら、そっくりそのまま仕返ししてやればいい。


「残念だね財前。今までの会話、録音させてもらったから」

「な、に――!?」

「本当かい愛ちゃん!?」


 愛奈がニヤリと笑う。駿と過ごした長期休暇で、愛奈もそれなりに頭の良い使い方を盗んでいる。

 いけしゃあしゃあと話してくれて助かった。愛奈は心からそう思う。思って、勝ったと確信した。


「あああああぁぁあああッ!! ……なんてな。菖蒲、あいつらのパポス使用禁止な」

「はい、帝様」


 発狂した声を出す帝が、スッと冷静な顔になって指示を出す。

 今まで一切関わらなかった菖蒲がそれに従い、パポスの遠隔操作で友明と愛奈の端末の機能を停止させた。


「……え? なんで!? パポスが作動しない!?」


 唐突にデジタルディスプレイが閉じられ、一切の入力を受け付けなくなるパポス。

 焦る愛奈を見て、帝が再度下衆な笑みを浮かべた。


「おいおい忘れたのか? 財前家はデジタル技術におけるトップシェアの企業だぞ。パポスの電子媒体も我が社が開発してるんだ。つまり、次期社長の僕の権限で使用出来なくした。その録音もお前らが退去後に削除させてもらうさ」

「くっ……!」

「それと他の奴らに話したらぁ……お前らの大切な大切なお友達、竜胆と守住も同罪扱いで退学かなぁ。……いい加減立場も分かっただろ? 僕の言いたいこと、分かるよな?」


 誰にも告げずに離島しろ。帝が言いたいのはそれだけだった。


「さあさあ、もう用は済んだから出ていっていいぞ。一年余りの学園生活ご苦労様でしたあ。あとは地元で頑張ってくださーい! ……ふくくっ! あっはっはっはは!!」


 最早、友明たちに反論する術はなかった。



 

 生徒会室をあとにした二人は重たい足取りで学園内を歩く。向かうべき場所は、それぞれの寮だ。

 帝が根回しをしていたらしく、寮の入り口は解放してあるらしい。


「ひっぐ……! ごめん……ごめんトモぐん……!」

「もういいよ愛ちゃん。大丈夫、大丈夫だから」


 生徒会室を出てから、愛奈はずっと泣いていた。自分のせいで大切な恋人まで巻き込んでしまったと。

 もちろん友明は気にしてない。自分も八百長にすがりつこうとした身。そんな自分が、どうして彼女を責めれるというのだろうか。


「けど、その……一つだけ聞いてもいい?」

「……私の家のこと?」


 愛奈の言葉に友明は頷く。

 友明はあのとき帝が言っていたことがどうにも気になっていたのだ。

 袖で涙を拭うと、愛奈は自分の家柄について話し始めた。


「私の両親は共に投資家。株やインサイダー取引、仮想通貨で生計を立ててたのだ。二人とも流れを読むのが上手くて、いつも黒字。貯金もたくさんあった。そのおかげで、私はなんの不自由もなく生活が出来たいた」


 暗い顔をする愛奈は「でもね」と話しの続きを語る。


「自由だったのは私だけ。お母さんもお父さんも、いつもタブレットやデジタルフォンでレートの変動ばかり確認してた。食事中もお風呂も、寝るときも外に三人で出かけてるときも……二人は、私のことなんて興味ないんだってくらい画面ばかり見て、私の顔を全然見てくれなかった。それがすごく辛くって……だから私、この島に来れてよかったって思えたのだ。自分のことを一人の人間として扱ってもらえたから。それに、トモくんとも恋人になれたのが本当に嬉しくて……」


 友明は「辛かったんだね」と愛奈の頭を優しく撫でる。その温もりに愛奈は静かに涙を流した。


「でも、きっと大丈夫さ。離れ離れになっても心は通じ合えるよ。みんなとだって一生会えない訳じゃない。島の外でなら、連絡を取り合って会うことも出来るさ。そうだ。デジタルフォンは解約したからあれなんだけど、代わりに僕の実家の電話番号を教えるよ」


 そう言って友明は愛奈と番号を教え合った。

 気付くと寮の近くまで来ていた二人。それぞれの部屋に行き、最低限の荷物をまとめだした。

 互いに準備が済んだのは昼を迎える少し前のことだ。


 守衛所にパポスなどの貴重品を返却。それを受け取った守衛の瀬場は、なんとも言えない顔で二人に別れの言葉を告げ、静かに見送った。


 船着き場に着いたのはちょうど正午になる頃だ。誰の見送りもないまま、友明たちは定期船に乗って島を立ち去る。


 駿たちが彼らの退学を知ったのは、そのすぐあとのことだった……。

帝には「ざまぁ」な展開を食らってもらうのでご安心ください。

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