表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/170

第16話 バッドエンドな始まり方

 俺たちによって語られた過去。それを聞き、それぞれが口を閉ざして押し黙る。

 長い沈黙を破ったのは、感情表現が豊かな愛奈だった。


「うっ……ひっぐ……! カレンちゃんだちにぞんな、過去があっだなんでぇ……! 知らながっだのだあ!」


 愛奈は涙を滝のように流しながら歌恋に抱きついた。それを歌恋が「愛奈ちゃん……」と名を呼びながら背中を優しく撫でる。


「思ってた以上に重い内容だったね……。駿くんが初日に言っていた『デリケート』の意味が理解出来たよ」

「すまんな友明。こういう話だった訳だ。けど、結局歌恋があんな態度を取った原因は脳を検査してもわからなかった。ドアや呼び出しのボタンも、何事もなかったかのように作動したしな。……あ、すまねえみんな。輝美先生には今話したことは内緒で頼む」


 俺は頼み込むように手を合わせた。


「……分かった。それにしても、りんどうさんのお母さんのこともだけど、色々と信じ難い内容……」

「うぅぅ! わだしも言わないぃ! アマギ先生に言っだら、ごっちも怒られそうなのだあぁぁ!」

「……そうですわね。この話題をここで交わしたのは、わたくしたちだけの秘密と致しましょう」


 神妙な顔で手を口に添える榊坂。しばらくそうしていたが、話しながら小さく頷く。


「駿くんの胸の手術痕が気になっていた僕としては、本当の理由がわかってスッキリしたよ」

「あー、確か……なんだっけ? 木から落ちてケガしたんだ、って言ったっけか?」

「……うん。初めて一緒に浴場へ行ったときにそう聞いた……でも、手術したにしても痕が大きいから、おれは違うと思ってた……」


 寮生活である以上、入浴時に裸になって傷口を見せないといけなかった。

 俺はその際に友明たちに傷痕についての説明をしたんだが、歌恋も関わる事故について話す訳にもいかず、デタラメな話をでっち上げたって訳だ。


「ぐすっ……! ちなみにシュンぐんの傷はどんな感じなの?」

「ん? ああ。もう痛むこともないし問題ないぞ。……っておい、なんだよその視線? まさか脱げとか言わないよな?」

「見だいっ!」

「それならせっかくですので、わたくしも愛奈の意見に賛同致しますわ」


 興味津々といった感じの愛奈。面白そうだし乗っかろうとする魂胆が見え見えの榊坂。

 まだ俺の傷を見てないのはこの二人だけだからな。気持ちはわからんでもないが……。


「見たい見たい!」

「痛くは致しませんので、さあ!」

「ちょっと待て! 上だけとはいえ、ここで脱いだら店員に連行されるわ!」


 色んな人が遊びに来てるアミューズメント施設。こんなとこで脱いで前科者、なんてのはごめんだぞ。


「愛奈ちゃんカサルナちゃん。駿ちゃんってね、服脱ぐと筋肉すごいんだよ」

「おい歌恋!?」

「あらあら? それを聞くと俄然興味が湧いてきますわね~」

「トモくん! シュンくん脱いだらすごいの!?」

「うん。鍛えてるだけあるよ」


 友明の返答に愛奈が両手を上げて「キターッ! 細マッチョだああ!!」なんて歓喜してやがる。


「お前らなあ、さっきまでのシリアスな雰囲気どこ行ったよ……」


 俺は呆れて肩を落とす素振りを見せる。あくまで素振りだ。

 こいつらは、俺たちの悲惨な過去をこんなにも簡単に受け入れてくれた。もしかしたら、重すぎて距離を取られてしまうかも。なんて考えがもちろん俺の中にはあったんだ。


 けど、それすらも杞憂だったんだと気付けた今。俺の憂鬱だった心は澄んだ青空みたいに晴れ渡っていた。


「ねえねえ、シュンくんー!」

「……ったく、夏になったらプールで脱ぐから待てっての! うっし! 休憩はここまでだ! 気を取り直して残りの時間も思いっきり遊び尽くそうぜ!」

「まあ、夏に確定なら今回は諦めよう。という訳で、私もシュンくんの意見に賛成なのだ!!」

「あはは! そうだね。全力で楽しもうか」

「……うん」

「ふふっ! みんなが騒がしくて、ため息もついていられませんわね歌恋」

「うん。でもあたしはね、この雰囲気嫌じゃないよ」


 こんなにも心強い仲間がいて、歌恋が今この瞬間も笑ってくれている。

 そんな些細な日常が何物にも代えがたい俺の幸せなのかもしれない。


 長期休暇の最終日。俺たち六人は、最後の休日を思いっきり楽しんで寮へと戻るのだった。




 日も明けた五月六日。今日から授業も再開だ。

 パポスのアラームで目が覚め、着替えて朝食を取る。そして、並木道で合流してみんなで校舎へ向かう。そんなありふれた日常――。


「んじゃ、お前らとはここでお別れだな」

「だね。それじゃあ、またお昼に合流して昼食ってことで」

「では諸君、さらばなのだっ!」


 友明たちと別れ、俺たちはB組のドアを潜る。

 中に入ってすぐ「おっす! お前らおはよーさん!」、「守住クンたちおはようッス!」と休み中にリンクバトルで戦った日向と伊勢が声をかけてきた。


「おはようお二人さん。しっかし、休み明けっていうのは気だるいよな」

「分かるぜ守住。俗に言う五月病ってやつよなー」

「まあ、野々宮クンは終始五月病っぽいッスけどね」

「……おれは常時ヘビーローテーションの野々宮拓哉でございます。正直眠い……」


 なんて休み明け特有の会話をしてるとチャイムが鳴った。

 続けて、担任である春日部先生が入ってきて朝のHR(ホームルーム)が始まる。


 何事もなく過ぎる午前の授業。ここ一ヶ月で色々あったな、と俺は授業を受けながら考えていた。

 これまでのことを思い出してると、休みの間になまった体が、もうちょっとダレようぜ。なんて訴えてくる。

 そのせいか欠伸が一つ。それをかみ殺しながら、俺はホワイトボードの文字をノートへ写していく。


 書き写しも済ませ、俺はなんとなしに周囲を見渡した。

 前の席には熱心に板書する美鏡。あいさつを交わした日向と伊勢も真剣な顔でノートを取り、歌恋は眠たそうに目を擦りながら授業を聞いていた。

 最近はあまり接触してこないが、歌恋のライバルを自称した鹿島桜花(かしまおうか)も視界に入る。


 そして、隣のC組で授業を受けている友明と愛奈の顔が頭に浮かんだ。

 欠陥品のレッテルを貼られた歌恋は、そのことで心に傷を負っていた。そんなあいつを、友明たちが支え続けてくれたから、今の楽しいスクールライフが迎えられてるんだよな。


 ……っと、いかんいかん。教師に指差されても良いように授業をちゃんと受けねえと。


 自分を取り巻く幸せな環境に感謝しながら、俺は襲い来る睡魔と戦って午前を乗り切るのだった。




「はあああぁぁ! やっと授業が終わったな! んで腹減った。さっさと飯食いに行こうぜ」

「うん。あたしもおなかペコペコ」

「昨日までと違い、好きなタイミングで食べられないのは辛いものがありますわね」


 昼休み。歌恋たちが集まってきたので、俺も立ち上がって雑談を交わす。


「昨日あんだけ食っておいてかよ? いや、食ってるからこそか」

「ええ。すでに知っての通り、わたくしは大食気味なものでして……」

「あ、あはは……昨日はいっぱい食べてたもんねカサルナちゃん」

「……食事の話するとお腹が減る。めんどくさくなる前に学食行きたい……」


 相も変わらずのカットイン。野々宮の一言で話を切り上げ、俺たちは廊下へと出た。


「あれ? 友明くんたちいないね?」

「C組の授業は……終わってるみたいだな。友明たちは…………中には見当たらねえか」


 廊下にいないのならと思って教室を覗いたんだが、そこには二人の姿はなかった。


「先に行っちゃったのかな?」

「なら、お二人に連絡を入れると致しましょうか?」

「だな。俺は友明にかけるから、榊坂は愛奈に頼む」


 俺の提案に「分かりましたわ」と答える榊坂。んで、コールボタンを押そうとした瞬間――ピコンッ! とパポスの通知音が鳴った。

 なんだ? と思っていると周囲一帯で連鎖的に音が鳴り始める。


「ったく、なんなんだよ。えっと、全校生徒への重要なお知らせ?」


 歌恋たちも届けられたポップを見たのか首を傾げていた。

 どんな内容なのか気になってメッセージを開くと。


「…………は?」


 そこに書かれていた内容を見て、俺は自分の目を疑った。


「これは……!」

「くっ! やられましたわ……!」


 同じく読み終んだらしい野々宮と榊坂が表情を険しくなるのが見えた。

 歌恋も同じ反応だ。パポスを見る目が見開かれていく。


「駿ちゃんなんで!? だって、あのバトルは何の不正もなかったんだよ? あたしたちみんな、悪いことなんかしてないもん!」

「ああ、もちろんだ。俺ら誰一人として不正はしてねえ。けど、証拠って……ん? また通知が来やがった? …………――っ!? そういうことかよ……!」


 新たなメッセージには音声ファイルが添付してある。

 題名は『大庭友明及び、心音愛奈の八百長に関する証拠音声』と書かれていた。


 ――んじゃ、お前らとはここでお別れだな。


 朝別れる前、俺が友明たちに告げた最後の言葉。

 それを思い出した俺は、ガリッ! と音が出るほどに歯を噛みしめる。


「またか……また俺は選択を……言うべき言葉を誤ったのかよ!? くそっ! ……くっそがああああぁぁあああッ!!」


 俺は憤る気持ちを抑えきれず、壁に向かって拳を叩きつけた。




 第一校生徒会です。いきなりの通知で申し訳ありません。

 この文書は、発生していた重大な問題が解決したため、再犯が起きないようにと第一校の生徒全員に送っています。


 先日、リンクの能力を使用出来ない二年B組の生徒、竜胆歌恋が島に残るかどうかの進退を賭けたリンクバトルが行われました。

 その試合で彼女は勝つことが出来、現在も在学中となっています。

 これは生徒会長としては喜ばしいことであり、理事会が承認したということは紛れもない彼女の実力だと、僕自身も思っています。


 しかし対戦相手となった大庭友明と心音愛奈のバディが、友人である彼女のためにわざと負けたのではないか? という話が耳に入ったのです。


 実態を掴むために調査したところ、残念ながら、証拠となる音声が見つかってしまいました。

 その証拠を突き付け、本人たちに事情聴取をしたところ、二人は「間違いないです」と不正をしたことを認めました。


 ただ、本人たちは自分たちが勝手にやったことであり、相手のバディは無関係だと主張しています。

 僕も鬼ではありません。彼らの主張を信じ、対戦者である竜胆歌恋と守住駿は無関係と判断しました。

 よって、この二名に関しては不問とします。


 しかして、大庭と心音が不正をしたのは事実です。

 現在、国外にいる理事及び学園長に代わり、あとを任された教頭と共に審議した結果。心苦しいながらも、彼ら二人を退学処分としました。


 今後、このような不正が起きないことを心から祈っています。星燐学園の生徒だという誇りを持ち、悪質な不正などを行わないよう、よろしくお願いします。


 第一校生徒会長 財前帝より。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ