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第7話 小春日和な祝日

 ゴールデンウィークも最終日。時刻は午前十時半を過ぎたところだ。

 俺たち六人は星燐学園からバスに乗り、一番近い市街地までやってきた。


 多くの人がごった返す活気のある街。ファストフード店にレストラン。大型の百貨店もあれば、服や靴などを取り扱う専門店なんかもあったりする。

 歩道にはアクセサリーなどの露店も開かれていて、市街地に来れば大抵のものは手に入ってしまうほど、多くの店が(のき)を連ねていた。


「はあー! やっぱりシャバの空気は美味えぜ!」


 バスから降りて早々、出所したかのようなセリフが聞こえてきた。愛奈だ。


「愛奈ちゃんがいつの間にか犯罪者に……」

「罪状は食い逃げだな」

「ちょっと! シュンくんの中の私のイメージどんななのさ!?」


 ボソッと言った俺の一言を聞き、愛奈が抗議の声をあげてくる。


「ねえ友明。愛奈に「例えキミと鉄格子で引き裂かれるようなことになっても、僕らの想いまでは引き裂かれないよ!」って言ってみてくださいな」

「いきなり!? さ、さすがにここでそのセリフは言えないかなぁ」


 榊坂の無茶振りに苦笑しながら断りを入れる友明。

 歩道の真ん中で愛を叫ぶ勇気は、友明でも持ち合わせてないみたいだ。


「てか、その言い方だとここじゃなきゃ言えるみたいに聞こえるな」

「いやいやいや! ここじゃなくても言えないって!」


 俺の茶化す言葉に手を振って否定する友明。そんな風に話しながらも賑やかに歩を進める俺たち。


 歩く中、野々宮一人だけは黙ったままだ。いつも通りと言えばその通りなんだが、考え事をしているような顔付きだ。大方、朝に起こったことについてだろうさ。

 俺が気にしてないんだからお前も気にすんなよ、とアイコンタクトを送っておく。目が合ったが、察してくれたかはわからん。


「では、これから男女に別れ、昼食前に合流するということでよろしくて?」

「そうだね。僕たちは服を見繕うことにしようか」

「ん? おう。野々宮もそれで良いか?」


 俺の問いに首を縦に振る野々宮。


「それじゃあ、時間になったらそこの噴水前で待ち合わせなのだ。遅れちゃダメだからね?」


 そう言いながら愛奈が広場にある噴水を指差す。


「了解だ。お前らの方こそ遅れんなよ?」


 女子三人が談笑をしながら遠ざかっていく。

 会話の中に「今日は歌恋のコーディネートをしますわよ愛奈」、「いいねー! カレンちゃんを可愛く仕上げちゃおうー!」なんて聞こえてきた。

 それに対する歌恋の声は「あたしで着せ替えしても楽しくないよ?」と困惑したようなものだ。


「僕たちも時間まで服を見て回ろうか」

「だな。自分の服も見たいが、それとは別に……こっちも野々宮をコーディネートしてみようぜ」


 友明がその提案を聞き「あはは! それ面白そうだね」と賛同する。

 もちろん、野々宮が嫌そうな顔をしたのは言うまでもない。


 それから二時間ほどが経ち――。


「来たのだ! こっちこっちー!」

「俺たちの方があとに着いちまったか」

「ごめん、遅れちゃったかな?」

「いえ、わたくしたちもさっき着いたところですわ」


 先に噴水のところに戻ってた女子組と合流。

 それぞれが紙袋を持っているところを見るに、あっちも必要な買い物は済ませたみたいだな。


「って、歌恋はどうかしたのか?」

「……」


 会話に参加してこない歌恋。並び立った愛奈とカサルナの後ろに隠れてる状態だ。

 どうしたんだあいつ? 何かあったのか?


 隙間から見た感じだと、さっきまで着て服とは違うものを着てるみたいだが……。


「さあさあ、お待ちかね。カレンちゃんのお披露目タイーム! カレンちゃんを華麗にコーディネートしたから、お見せしちゃうのだ!」

「ほら歌恋。駿に見せてあげなさいな」

「い、いいよぉ……似合ってないもん……」


 前に出るように促す榊坂だが、どうにも歌恋が嫌がって出てこない。

 少しの間押し問答が続いていたが「……うぅ……笑わないでね……?」と根負けして姿を現す。


「……おー! いやいや、似合ってるよ歌恋ちゃん」

「うん。別に変じゃないと思う……」


 歌恋が着ていたのはセーラー風のワンピースだった。

 白地に青のラインが入っている。歌恋の腰のあたりで生地が絞られており、下半分がスカートのように広がっていた。

 首元に巻かれた青いスカーフがアクセントになってるな。


「どうシュンくん?」

「え? あ、いや」

「や、やっぱり似合わないよね……?」


 俺が言葉を詰まらせたことで歌恋が不安げに尋ねてくる。

 けど、俺は言い淀んだ訳じゃない。ちょっとした案を考えてたところだ。


「違うっての。歌恋ちょっと動くなよ」

「ふぇ?」


 俺は歌恋の前まで歩いて手を伸ばす。そのまま歌恋の後頭部に手を置き、ポニーテールを作っていたシュシュをゆっくりと外した。

 髪が解け、俺の手を撫でるように重力に従ってサラリと落ちる。


「あらあら? 歌恋が髪を解いたのを初めて見ましたが、これは……」

「僕も初めて見たけど、雰囲気がガラッと変わるね」

「どうだ? 俺的にはこっちの方が似合うと思うんだが」


 普段のポニーテールでは活発。もしくは元気な印象が強い歌恋。

 けど、解かれてロングヘアーになった瞬間、おしとやかで素朴な雰囲気に変わる。

 白いセーラータイプのワンピースが合わさることで『幼さが残りながらも清楚で奥ゆかしい少女』に早変わりってな。


「おおー! さっすが幼馴染のシュンくん! カレンちゃんの魅力の引き出し方を熟知してるのだ!」


 愛奈が少し興奮した様子で拍手を送ってきた。やめろう。照れるじゃねえか。


「ですが個人的には、そこから頭にフリルのリボンを付けたいところですわね」

「うーん……私としてはツインテールにするのもいい感じ?」

「あら? ツインテールならゴスロリ系の服装もありではなくて?」

「あ! それいいっ!」


 と女子連中が次々に案を出しては盛り上がり始めた。

 そんな二人を他所に歌恋と野々宮が「お腹空いた」とぼやくが、当の愛奈たちにはまったく届かない。

 昼食に向かおうという話が全員に行き渡ったのは、更に五分後のことだった。




 昼食に訪れたのはチェーン店のファミレスだ。

 学生にはリーズナブルな価格であり、長時間居座っても問題なし。と学生にはありがたいこと尽くめの場所だ。

 店内は多くの客でごった返しており、俺たちもそれにならうように通された席へと座る。


「さーて、何を食うかな。肉が食いたいところだが……」


 俺はパポスのディスプレイパネルに目を通す。

 ファミレスのメニュー表は電子化されていて、入り口でパポスなどの電子機器にデータを読ませることが出来る。そうすることで、個人でメニューの閲覧や注文が可能になる訳だ。


 他のメンバーもパネルを操作しながらメニューを見ている。


「おれはカツサンド……」


 すると、野々宮が注文を済ませて上半身をテーブルの上に投げ出した。


「タクヤくん決めるの早っ!? えっと、私はどうしよっかなー……チーズインハンバーグにしよっかなー」

「僕はリゾットとポテトに決めたよ」

「うーんと…………あたしはピザで」


 各々が自分が食べたいメニューを注文していく。

 さて俺は。うーん、そうだなぁ……今日はガッツリめでいきたいところだ。となれば、やはりグリル系のメニューが鉄板と言えよう。

 基本を抑えるならハンバーグ。と言いたいところだが、ステーキ系で攻めてみるか。

 ただ、ステーキ一つでは足りないな。それなら、こっちの合わせ物を頼むとしよう。


「んじゃ、このサイコロステーキ&唐揚げのセットだな」


 うん。焼き物と揚げ物による二種類の食感が楽しめる。ステーキの焼き具合次第だが、俺の食欲を充分に満たしてくれそうだな。……おっと、ライスは大盛りがマイジャスティスだ。


「ルナちゃんはもう何か頼んだのだ?」

「わたくしですの? いえ、今からオーダーを入力するところですわ」

「うーん、なんか意外な感じ」

「あら? 意外とは?」


 歌恋が発した言葉に榊坂が問い返す。


「だって、カサルナちゃんってお金持ちのお嬢様だから、もっと高そうなお店じゃないと入らないって思ってたから」

「それは偏見ですわね。最近のファストフードのメニューは捨てたものでないと思っていますわ。下町情緒があふれるお店にも行きますもの」

「へえ……榊坂さんもそういうところにも行くんだね。そこは意外かもしれない」

「それに高級なお店では、やれ作法だの食べ方だのと凝ってばかりで、食事をゆっくり楽しめませんもの。わたくしには、こうやってみんなで楽しく頂く食事の方が合っていますわ」


 榊坂にもこいつなりの生き方があり、そういった意味では、令嬢であろうと俺たち一般の学生と何ら変わらないのかもしれないな。


「で、個人的にすごく良い話なのは同意なんだが、それとは別に聞きたいことがある」

「駿が聞きたいこと? もちろん良いですわよ」

「さっきからすげえ気になってるんだが……まだ注文終わらないのか?」

「はい?」


 そう返事をしながらも榊坂のタップやスライドする手が止まらない。先ほどから忙しなく指が動きっぱなしだ。


「ルナちゃんって、注文するもの決まってる感じじゃなかったっけ?」

「ええ。ですから今入力している最中ではありませんの」


 何を当たり前のことを聞いているのか、と言わんばかりに答える榊坂。


「なあ歌恋。榊坂のディスプレイ確認してくれないか?」

「ん、わかった」


 榊坂の隣りに座る歌恋が覗き込んで確認すると。


「……え? カサルナちゃんこれ全部?」

「ええ」


 画面を指差しながら目を見開く歌恋。

 歌恋の視線がパネルの上から下まで動いたことで、すぐに状況が予想出来た。


「歌恋いくつあったよ?」

「ごめん駿ちゃん。数える前に段が二個くらい下にずれちゃった」

「あれ? ここのメニューの初期の段数っていくつだっけ?」

「最大で十段目まで見れる……」


 友明の疑問の声に、テーブルに伏せている野々宮が答えた。

 少なく見積もってもすでに十二個以上は頼んでいることになるのか……?


「で、ででデザートはあとで頼んでもいいのだよルナちゃんっ!」

「もちろんそのつもりなので、まだ頼んでいませんわ」


 あっけらかんと返すお嬢様はそこで手を止めた。やっと注文が終わったらしい。

 てか、まだそこからデザート頼むのかよ。


「みなさんが気になっているのなら言いましょうか? 和風ハンバーグにスパゲッティ、チキンステーキと駿も頼んだサイコロステーキと唐揚げのセット。もちろんサラダもいくつか頼みましたわ。他にもサイドメニューで――」


 告げられていくメニューたち。その数、実に十六種類。

 俺と友明は、それを聞いて急いで店員の元へ相談に行く。結果、榊坂一人だけが隣のテーブルに移ることになり、食事が運ばれると共に楽しい昼食が始まった。


 さすがにかわいそうだと思ったのか、途中から歌恋と野々宮が一緒のテーブルに着くことになる。

 何故その二人なのかというと、単品の注文だったことで手に皿を持ったまま食べれるからだ。


 ちなみに、榊坂は頼んだメニューを全て平らげ、なおかつデザートを数種類も頼んだことは予想通りだった。

 友明が「初日の駿くんの食べっぷりを思い出すね」と言ってきたが、俺でも胸焼けを起こしそうなんだが……。


 俺はこのお嬢様が末恐ろしいと思いましたまる、と小学生並みの感想が浮かんだ。

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