第4話 移り変わるもの
愛奈が公言したことで場の空気も緊張感あふれるものに変わった。
ちなみに残ったやつらの手札は――。
歌恋が四枚。友明が一枚。愛奈が三枚。カサルナが二枚。拓哉が三枚といった状況だ。
下手に長引かなければ、あと数巡で決着が着きそうだな。
「いいし! 私もシャッフルするし!」
三枚のカードを何度も並び替える愛奈。数秒経って「どうぞルナちゃん!」と差し出す。
「では引かせてもらいますわ」
迷うことなく引く榊坂。手札にカードを加えて隣り合った二枚を破棄する。
残り一枚。これで榊坂の上りが確定したか。
「うっそ!? なんのためらいもなく引かれた!? しかもそれで揃っちゃうなんて……」
「ペアが出来たのは運が良かっただけですわ。ですが愛奈。いくらシャッフルしようとも、それを見せていてはいけませんわ。目で追うことが出来れば、ババを避けて引くことなど造作もありませんもの」
「うぐぅ……! さっきの試合までそんなマジな感じじゃなかったのにぃ!」
「もりずみ君にあてられたんだと思う……」
野々宮の発言を聞き、榊坂が笑みを浮かべる。
「ええ。駿のプレイングに触発されたみたいですわ。今日はこれ以上のゲームが出来なそうなのが残念でなりません」
言いながら榊坂が視線を動かす。そこには校舎からわずかに見える太陽があった。
「では拓哉、受け取ってくださいませ」
「ありがたく頂戴致します……」
言葉とは裏腹に、野々宮は嬉しそうな顔をせずに受け取る。
「……あ、揃った」
ところが、受け取った分でペアが出来て手札が二枚に減った。運が良いな。
そのまま歌恋の方に差し出して、カードを引くように要求する。
「えーと……こっちで! ……やった!」
「歌恋がこれで残り三枚か。もう少しで終わりそうだな」
「じゃあ、僕の番だね。……揃わないかぁ」
しかし、ここで連続ペア記録が終了した。友明はテーブルの下に手札を隠してシャッフルする。
「ああっ! トモくんシャッフルしないでよっ!」
「だって、愛ちゃんさっきと同じことしそうだし」
例え彼女だろうと手は抜かない。それが勝負の世界なんだ! と友明が思っているかはともかく。ここで愛奈が揃うかが大きなターニングポイントになる。
わかりやすい反応を見せる愛奈。あいつがジョーカーを持っているかで、他の三人の難易度が変わってくる。
「私は、私のセブンセンシズを信じるのだ! 小宇宙が燃えているぅーっ! ペガサスドローッ! …………神は残酷だああぁぁあああぁああぁぁっ!!」
が……駄目っ……!
愛奈が悔しそうにテーブルに拳を振り下ろす。
「お客様。当店では台パンは禁止となっております」
「あ、すみません! じゃなくて、私の運なさすぎでしょ!?」
俺から注意を受けながらも愛奈はテーブルの下で手札を混ぜ出した。
「ちくしょー! これならどうだっ!」
今度はテーブルの上に三枚のカードを並べる。
それを見た歌恋が「あたしが使った作戦……」と文句ありげに呟くのが聞こえてきた。
しかし、なりふり構ってたら勝てないのも道理。愛奈としても苦肉の策なんだろう。
当然ながら考え込む野々宮。
裏面に傷でも付いていない限り、ここで引けるカードは完全なランダムだ。
「……正直に言う。さっき、ここねさんが台パンしたときに手札が見えた……ペアになるカードがあった……」
「えっ?」
「あらあら~? 盗み見はいけませんわよ拓哉」
「……ってことは、野々宮の引き次第ではエスカレーター式で勝負が決まるな」
「……そなの?」
俺は歌恋だけに聞こえる声量で呟く。歌恋はどういうことなのかわからないようで素で聞き返してきた。
「ああ、友明も上手く引いてくれればだが……お前が何もしなくても勝つ」
「ぅん?」
意味が理解出来ないようで、歌恋が小動物みたいに小首を傾ける。
うん。こいつは素でこういう動作するからなぁ……くそぉ、可愛いじゃねえか。
俺が軽く悶絶する最中、野々宮が動いた。三枚置かれた内の中央のカードをサッと取って確認する。
悩ましげな顔をした野々宮は「……あーあ、ゲームオーバー……」とぼやいた。
「お? ふっふっふ! ジョーカーを引いたね? 残念だったねタク――」
愛奈が言い切る前に手札が破棄される。
「ゲームオーバー……おれはゲームから抜ける」
「――ヤくんまで抜けた!? てか、そういう意味だったのね!?」
野々宮が抜けたことで、残りは歌恋たち一年からの仲良しトリオのみとなった。
「えっと、あたしが野々宮くんから引けなくなったから……」
「僕が歌恋ちゃんから引く番だね」
「……? なんか勝てそうな気がする……」
終盤に差し迫って不運が続いてる愛奈。
その状況下で歌恋の直感が働いた。リンクバトルでも働く第六感が、自身の勝利を予感させたらしい。
「さてと、これで上がれるかどうかだね……ドロー!」
引いてから訪れる長い沈黙。友明が愛奈の顔を見たあと、歌恋へと振り向き。
「おめでとう歌恋ちゃん。それに駿くんも」
「お前もな友明」
手札のクローバーのジャックとハートのジャックを友明はテーブルに置く。
「くっ……トモくんまで……! で、でもまだ勝負は終わってないのだ! カレンちゃんと私の一騎打ちが残ってる!」
愛奈が残る二枚のカードをカッコ良く伏せる。
しかし、燃えているところ申し訳ないが、愛奈を除く俺たちには思っていることがあった。
それは――。
「ええ。ですので早く引いて終わらせてくださいな。あなたの負けで」
「そう! 私の負けで! ……負け!?」
「だってそうだろ? 友明が引いたんだから、今度はお前が歌恋から引くんだぞ?」
「結果、ここねさんの手元にジョーカーが残る……デストローイ」
「あ……ですよねー……」
勝負が着いていたことに気付いたようで、愛奈が顔を赤くして涙目になっていた。
最後のカードを引き、愛奈の手元にはジョーカーが一枚だけ残る。
それを愛奈が恨めしそうに睨み付け、今回のババ抜き対決は幕を下ろされた。
「こんちきしょーめー! 次があれば、今度は私が一番最初にあがってやるー!」
「頑張ってねここねさん……」
「ですが、もう少し頭を使わなければ勝てませんわよ?」
「……よし! ならシュンくんに弟子入りしよう!」
「だが断る」
「即答されたっ!?」
トランプを片付け終えた俺たちは、中庭から寮へ向かって歩いていた。
夕方特有の風の香りが広がる中、雑談を交えて緑のアーチを潜り続ける。
「にしても、すっかり緑一色になっちまったよな」
「桜が散って葉が芽吹く。まさに日本を表す風景だよね」
「それでも、なんか物悲しいのだ」
「これが秋には綺麗な色になる……結構な絶景……」
少し前までこの桜並木では綺麗な花びらが舞っていた。
ゴールデンウィーク前に降った雨で葉桜に残っていた僅かな花も散り、五月となった今では、緑一色となって青々としたもの変わっている。
秋になれば色を変え、冬には落ち葉すらなくなって寂しい風景になるだろう。
それでも季節が巡れば桜はまた咲く。来年もまた色鮮やかな桜並木となるはずだ。
来年の今頃はどんな風に過ごしているのだろうか? と並木道を歩きながら考える。
「そういえば、明日は出かける予定でしたわね」
物思いにふける中、不意に榊坂がそんな話題を振ってきた。
「うん! 最終日はみんなで市街地で遊ぶって約束してたよねっ」
みんなで出かけるのが嬉しいのか、歌恋が笑みを浮かべて答えた。
白銀島はいくつかのエリアに別れてる。三つある星燐学園の校舎と中央の大型スタジアムを除くと、色々な施設があるんだ。
市街地も複数存在し、生徒以外の住人はそこで生活している。
「えっと、十時に校門前のバス停で集合だっけ……? 何からする……?」
「はいはーい! ショッピング! ウインドウショッピングしたいのだ!」
「えぇー……お前らが見て回るだけで何時間かかると思ってんだよ……」
女性の買い物とは長いものだ。例え買わなくても長い。むしろ、見ているだけの方が時間がかかる。
それを知ってる俺からしてみれば、女子が三人いての目的のない放浪などお断りしたい気分だった。
「では、駿はどこか行きたいところはありませんの?」
「俺か? うーん……とりあえず新しい服だな。暖かくなってきたから、良さげな春物を見て回りたい。あとは、ゲーセンに行きたいくらいか」
「駿くんはまだゲームセンター行ってなかったっけ? ここのはすごいよ! 最新型の機種に加え、VRタイプのシューティングゲームとかもあるんだ!」
「マジか!? なあ友明! 明日よりも今から行こうぜっ!」
やべえ! テンション上がってきた!
地元には存在しないVRシューティングなんてものがあると知り、俺は浮足立って仕方なかった。
「駿ちゃん。今から行っても一時間くらいで戻ることになっちゃうよ。遅くまで市街地にいると、巡回の人に補導されちゃうもん」
そんな俺を咎めるように注意する歌恋。
補導されようものなら、担任の春日部麗先生の耳に即入っちまうな……。
春日部先生は、可愛らしさを残したまま大人になったような女性だ。生徒思いなところがあって学生にも人気。女生徒からの相談も多いらしい。
その反面、少々真面目な性格に加え、静かにキレたときの威圧感が半端じゃない。その状態が俺はすごく苦手だった。
「よし友明。明日にしよう明日」
冷笑している担任の顔が浮かび、俺はすぐに発言を撤回した。あの顔を向けられるのはトラウマだ。
「あはは……そうだね。今日はおとなしくして、明日思いっきり遊ぼっか」
「うっし! んじゃ、今日は早く寝て、明日遊び尽くすぜー!」
「おー! なのだー!」
俺は腕を高く掲げた。同じく両腕を上げてはしゃぐ愛奈。
後方の四人から、苦笑する声が聞こえてくるが知らん。待ってろよVRゲームたち!




