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第28話 鋼鉄の白馬

 リング外にいる十六夜と朱鷺子は、駿たちの攻防を観戦しながら言葉を交わす。


「いかがですかな? 基準値に達した係数。格上相手へ臆せず戦う姿。私としては、彼らの実力は充分なものだと思うのですがね」

「ええ。ワタシも異論はないわ。優勢とは言えないけど、拮抗出来るほどの実力はある。だけど、理事会はワタシ一人だけの組織ではないわ」

「……彼らか」


 十六夜の瞳に理事会の面々が映った。

 いずれも難しい顔だ。そんな表情を浮かべてはいるが、決して歌恋の実力に異論がある訳ではない。

 実際にリンクの途絶を見たからこそ、彼らは不安を拭えないのだ。


 歌恋のリンクで問題が起きれば、それの責任は残留を決めた理事会に問われる。

 厄介事など負いたくない。理事会という組織に属するからこそ、不安分子を擁護する必要性を感じられない。と彼らは思っているのだ。


「保守的な彼らを黙らせるには、このまま問題なく勝負を終わらせることよ。その上で勝利を掴み取れるのなら、なおよしね」


 口に手を当てて思案していた十六夜は、その言葉を聞いて眉を潜める。


「ならば、勝利さえすれば退学は回避出来ると?」

「さあ? そこまでの保障は出来ないわ」


 感情の起伏も見せずに朱鷺子は淡々と告げる。


「それでも、対戦相手の選抜を行わなかったのは彼らよ。面倒だからと選ぶのを放棄したにせよ、あなたに選択権を与えたのも彼ら。そんな状況で彼女が勝てれば、ワタシだったら文句は言えないわね」


 続けて呟くように「不安となる面倒事だからこそ、確実に根回しをするべきなのにね」という言葉を聞き、十六夜は「ですな」と返事をする。

 それと同時に、組織に属するが故に保身に走るような奴らは信用ならんな。と個人的な意見も十六夜の中で湧き上がった。




「ぐうっ!?」


 俺たちの目の前に再度土煙が舞う。

 それを巻き起こしたのは、ビルとビルを反復するように跳躍して降りてきた何かだった。


「こいつは……!」


 煙が晴れると、機械仕掛けの白馬が俺たちと友明との間に佇んでいる。

 そいつは「ブルルッ」と軽く首を振り、無機質な目で俺たちを見つめてきた。


 鋼鉄の白馬。本物の馬と比べると、機械の体は毛並みや筋肉質さを表現してない。

 しかし、機械だからこそのスマートなフォルムと光沢が、この白馬に本来とは違う美を与えてるように感じた。


「機械の馬……この色合いって」

「十中八九愛奈のエクステリアだろ。お前も知らないとなると、これがあいつらのガチの切り札みたいだな……!」


 予想よりも遥か斜め上。というより、予想の範疇を越えるってレベルじゃねえぞ。

 これまでも驚きの連続だったが、まさかエクステリア自体が動物に変形するとか予想するしなかった。


 まだまだ知らないギミックがありそうだ、という高揚感。どんだけの拡張性がある? という先の見えない期待感。

 その両方が俺の心を刺激する。ったく、本当にこの島は驚きの展開ばかりで飽きないぜ。


「うん、ご明察通りだよ。これが僕たちの切り札。サラブレットの獣化形態さ。初めて見たときは震えたね。どんな可能性を秘めているのか考えて胸が高鳴ったほどに」


 言いながら馬の首を優しく撫でる友明。


「正真正銘の切り札を出したんだ。これ以上の言葉は不要。互いの本気をぶつけ合うだけ。さあ二人とも。サラブレットの動きに――」


 友明はなんなく白馬へ跨ると。


「ついてこられるかいっ?」


 金属の蹄を打ちつけながら戦場を駆ける。

 一度踵を返して距離を取った友明は、蛇腹剣を展開した。鞭のようにしなる刃が、傷だらけになったアスファルトを更に削る。

 機械の白馬がその大地を揺らして走り、道路を削る刃が重力に従って空を舞う。


『くっ! 馬上の相手と戦った経験なんてねえぞ! 歌恋お前は!?』

『あ、あたしにだってないよっ!』


 中世のヨーロッパや戦国時代ならそんな経験もあるだろうよ。

 だが、今は二千年代の日本だ。馬に跨る相手に戦いを挑むなんて意味不明な人生は送ってないっての! ……いや、今がそれか?


『うーん……先に馬を潰すべきか? なあ歌恋。エクステリアを脱いだ状態の愛奈はスキルを使えるのか?』

『ご、ごめん! それもわからなくって!』

『マジか……愛奈がさっきのスキルを使えたら更に厳しくなるな……』


 俺たちが対策を考える間にも、蛇のような剣を手に人馬一体となった友明は駆け続ける。




『この感じ……やっぱり最高だ』


 機械仕掛けの白馬に乗り、友明は湧き上がる高揚感に身を震わせていた。

 乗馬で何度も体験した風を切る感覚が、友明の幼い日の記憶を呼び覚ます。


 大庭友明は、普通の一般家庭に生まれた素朴な少年だ。

 人より秀でたものは何? と聞かれても、本人すら首を捻って考えてしまうほどの素朴さ。

 そんな彼の両親は大の旅行好きである。友明自身も、よく両親と共に日本各地を巡った経験があった。


 彼が乗馬が出来るのは、旅行で頻繁に北海道を訪れていたからだ。

 牧場に行った際に馬へ乗る機会があり、初めての乗馬で係員に上手だと褒められた。

 単純に褒められたからこそ、彼は馬に乗るのが好きになり、風を全身に受けて駆ける感覚にのめり込んだのだ。


 たったそれだけで乗馬のスキルを上達させたことは、友明すら気付いていない才能なのかもしれない。

 そんな友明にとって、サラブレッドと戦場を縦横無尽に駆けるのは、一種の運命のように感じるほどだった。

 故に負けられない。歌恋の退学云々など関係なく、自分が最高のポテンシャルを発揮出来る状況で、愛する人から託された力を行使する状態で――彼は負ける訳にはいかないのだ。




 俺たちへ向かって一直線に迫る友明。フェダーイン・ブレードを持つ腕を引き。


「切り裂け! ファング・リッパーッ!!」


 展開された武器を振るう。すでに何度も行った得意技が放たれた。

 しかし何度も見たからこそ、俺たちにも返しの行動が取れるってもんだ。


『歌恋! 今度はあの攻撃を止めるぞ!』

『わかったよ駿ちゃん! 刃が付いてないワイヤー部分を掴んでみせるっ!』


 歌恋は放たれた切っ先を避け、ワイヤーへと手を伸ばし――掴んだ。

 だが、友明にはそれを想定していたようで。


「させない! 刀身に伝達……回転始動!」


 友明の言葉に従い、刃を一本で繋げるワイヤーが回転を始める。

 それに伴って接続する刃自体も回り出した。


「――っ!? うっ……あぐうぅぅ!?」


 歌恋の手から煙が上がる。摩擦で手の平が焼けてるみたいだ。

 それに加え、高速で回る刃がアーマーをもガリガリと削っていく。


『無理だ歌恋! ここは放せっ!』

「くっ!」


 俺の指示を聞き入れて歌恋がワイヤーから手を放す。

 だが、こっちもそれで終わりにはしない。歌恋の背後に移動した俺がそれを引き継ぐ。


『歌恋が掴んで少しスピードが落ちたな。これなら!』


 水夜蛟を使用。精神を研磨させ、俺はワイヤーを掴みにかかる。


「――っ駿くんはまずい! 戻れっ! フェダーイン・ブレード!」


 掴もうとした直前にコードが巻かれるようにして刀身が引っ込んだ。

 くそっ! 読まれたか……!


 視線が交錯する中、友明がニヤリと笑う。

 こんの! してやったりってか!? ……いや違う! 何か手があるって顔か?


 友明を乗せた白馬は、旋回するように俺と歌恋の周りを駆ける。

 未だ刀身は展開されたまま。俺たちを囲うように円を作る蛇腹の剣。

 何かあるのか? と警戒する俺たちは、その動きを見つめながら自然と互いの背を預けていた。

 信頼する相手だからこそ出来る背を預けるってやつだな。


 だが、その信頼を友明のやつは逆手に取りやがった。

 チラッと友明がビルの屋上へ視線を送る。


「ふっふーん! 私のことを忘れてもらっちゃ困るのだっ! その防壁は可変の壁。形を変える不思議な壁。そして! 私の視界に入っている相手をターゲットに出来るっ!」


 屋上から見下ろす愛奈が歯を出して笑う。視界内の相手を対象に――まさか!?


「歌恋散開――」

「囲んじゃえっ! バリアブル・ウォールッ!!」


 その瞬間、愛奈の完全防壁が六角形となり、俺と歌恋を取り囲んだ。

 壁の高さは五メートルほどか? 内径は約二メートルくらいはありやがる!


「そんなっ!? 囲まれちゃった!?」

『遅かった! 狙いは俺たちを範囲内に留まらせ続けることか……!』

「取り付けっ! フェダーイン・ブレード!」


 それに加え、友明は蛇腹の剣を何重にも巻き付ける。ワイヤーは軋むほどに絞られていた。

 まんまと術中にハマっちまったか……しっかし、愛奈のスキルに制限なしかよ。

 ふう……まずは考えろ俺。相手の狙いと突破の方法を。


 俺は咄嗟にパポスを操作する。繋がるまでは自分でカウントするか。


 確か、バリアブルウォールは一分間展開し続ける効果だったな。任意では消せない。

 反衝撃機構と合わせることで、無敵の絶対防御を可能にする。だが、今回は俺たちを囲うことに使用して無類の防御を失った。

 俺と歌恋の全力なら破壊することは可能か? だとしても、蛇腹剣が取り付いていることに理由がある。それは――。


『おそらく二人がやろうとしてるのは、防壁に巻いたフェダーイン・ブレード利用した降伏勧告だ。防壁の消失及び破壊した瞬間、ワイヤーを絞って俺たちを即座に拘束。捕らえられた俺たちにあいつは降参を促す。「この状態から刃を引けば、どうなるかわかるよね?」とでも言ってな』

『そんな……! ど、どうしよっ? 防壁が消えた瞬間に技を使って対抗する?』


 俺の浮かべる情景の結末が伝わって身震いする歌恋。


『それじゃ遅い。出来るかどうかの博打なんてしなくても良いんだ』

『え?』

『さっきと同じ手順で仕掛ける。んで、上から出て切り札で決める!』


 地属性の技を使い、土煙で内部の状況をわからなくさせる。続けて壁蹴りで開いている天井から飛び出す。

 エクステリアを装備してるから、四、五回ほど対面の壁を蹴って上れば出れるだろう。

 そして、最後に隠し持つ切り札を打ち込む。


『さあ、正念場だ。いくぞ歌恋!』

『うん!』


 バリアブルウォールが解けるまであと少し――。

 お前らのそれが最強の盾なら、俺たちの切り札は最強の矛だ!

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