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第26話 強襲する蛇

 開戦と共に友明が駆け出す。

 こっちは直前のやり取りのせいで一歩出遅れる形になった。だが――!


『あいつの方から接近してくれるなら好都合だ! こっちの領分はカウンター。相手の動きに合わせて迎撃するぞ!』

『了解だよ駿ちゃん!』


 俺は友明に対する迎撃をすぐさま練る。

 あちらの獲物は離れた位置からの攻撃が可能だ。それを近距離での戦闘で使用してくれるのなら、むしろこっちのもんだろ。


「うおおおおおおっ!」


 気合のこもる声を上げ、友明が剣を振るう。

 振り下ろされた斬撃を歌恋は右腕のアーマーで受け止め、すぐさま攻撃に転じる。

 その手刀を友明は剣で弾き後退。だが、再び一歩踏み込むと、フェンシングのように構えて突きを見舞ってくる。


「――くっ!」

「さっすが! やるね歌恋ちゃん!」


 突きの攻撃を水夜蛟を用い、歌恋はバックステップで一気に後退。

 だが、すでに俺たちの戦いを何度も目にしている友明には、それすらお見通しだった。


「切り裂け! ファング・リッパー!」


 発せられた声に従い、友明が持つ剣が変形する。

 蛇腹剣と呼ばれるそれが、持ち手の部分にあるトリガーが引かれると同時に展開。上段から振り抜かれ、蛇の如く列を成した刃が歌恋に迫る。


『来た! 避ける? それとも防いだ方がいいっ?』

『水夜蛟――いや、あいつはそれも読んでるはず。風盾も……そうだ、歌恋! ここは雪壊掌を切っ先にぶつけろ!』

『わかった!』


 空中を滑空する刃。歌恋は指示に従って、迫るそれに向かって掌底を打つ。


「雪壊掌っ!」


 前方に打ち放った掌に空気が集まる。

 それに刃の切っ先が接触した瞬間――暴発した。歌恋の手に触れるよりも前に、気に触れた切っ先が大きく弾かれる。

 その矛先は攻撃を行った本人。つまり、友明に向かって牙をむく。


「なっ!? ぐっ!」


 咄嗟に体をずらし、自身が放った攻撃をなんとか避ける友明。

 回避でも防御でもない迎撃方法だ。予想外だったのか、驚いた友明は言葉を失って固まった。今がチャンスか。


『歌恋一回引け! どこかに身を隠すんだ!』

『りょ、了解!』


 その隙を見逃しはしない。俺は即座に歌恋へ退避を命じた。

 歌恋は指示に従って身を翻すと、ビルの陰へと駆けて視界から消える。


「逃げられたか……はあ、本当に予想を裏切ってくれるよねキミたちは」


 伸びたワイヤーが自動で巻き取られ、フェダーイン・ブレードが元の状態に戻る。

 困ったような顔する友明に対して俺は。


「生憎とそれが性分なんでな。お前らのことだから、どうせ、事前にこっちの迎撃方法とか頭に入れてたんだろ?」

「まあね。これでも僕らは歌恋ちゃんの元バディ。彼女のクセとか思考パターンは把握しているつもりだったんだけどなぁ」


 けど、俺の思考パターンまでは掌握してなかった。いくら歌恋の行動を予想出来ても、それじゃあダメだってことだ。

 友明と愛奈には大きな誤算かもしれないが、こういうところが勝負を面白くするもんだぜ。


「さてと、まずは歌恋ちゃんを探さないと……じゃあね駿くん」


 友明は愚痴るように呟くと手を振り、歌恋が消えた方向へと駆けていく。


『駿ちゃん』

『おう。友明がそっちに向かったぞ』

『うん。気配探ってるから友明くんの位置は把握してるよ。追いつかれないように距離取ってる。それよりも、問題は愛奈ちゃんの方』

『そうなんだよな。あいつ、すぐにビルの中に入っちまって動向を探れねえんだよ。気で位置は把握してるんだが、何をしてるのかまではわかんねえ』


 初撃の段階で愛奈はビルへと走り、姿を隠していた。その理由は定かではないが思惑はあるはずだ。


 昨日の段階で歌恋との記憶の共有を行っていたことで、過去の友明が行っていた試合の記憶と情報を頭に叩き込んでいる。

 だが、それでも愛奈の戦略や指揮の取り方まではわからない。

 むしろ、普段のあいつの思考さえ把握してない俺には、指示次第では、この試合が面倒なものになるだろうと思っていた。




 五階建てのビル。その二階に愛奈はいた。屋内に潜む彼女は窓から下方を伺う。

 オプションパーツなのだろうか? 装着していたゴーグル越しに、窓から見える駿の様子を友明に伝える。


『シュンくんはパポスをいじってるけど、動きはない感じ。多分、色々思案してると予想するのだ。おーばー!』

『だろうね。おそらく、僕たちの位置も掴んでいると思う。あーあ……あそこは防御か回避だと思って仕掛けたんだけどなぁ。あんな返し方をされるとは思わなかったよ。今まで戦ってきたバディと違って破天荒すぎる。こっちの思惑通りに進まないのが辛いね。オーバー』


 防御や回避された場合の対処方はあった。だがいかんせん、友明は攻撃を打ち返されるなんてことを予想していなかった。

 駿の指示なのだろうと分かっても後の祭りである。


 何故か無線機でやり取りするように『オーバー』と付けているが、特に意味はない。

 愛奈のおふざけに友明が付き合っているだけだ。ある意味、この二人らしい間柄とも言えよう。

 そんな会話をしながらも、友明のなんとも言えない声に『だよねー』と愛奈が賛同する。


『歌恋ちゃんがここまで動けるのもだけど、駿くんの判断力と処理速度がネックだね。オーバー』

『普段のシュン君が苦労人みたいな性格だからかな? 実際に対峙すると私には違和感しかないね。むしろ別人。アレはシュンくんちゃうわー。おーばー』


 本人に聞かれる心配がないとは言え、愛奈は言いたい放題である。

 しかし、その声のトーンが真面目なものに変わった。


『でも正直言って驚いた。まさか、二人のリンク係数が八十超えてたなんてさ』

『うん。おそらく鹿島さんとの試合で、かな? 駿くんが自傷して覚悟を決めたのが起因だろうね』

『アレねー。傍から見ても熱血展開だったし。私もちょっとウルっときちゃったのだ』

『駿くんらしかったからね。……っと、無駄話はここまでか』


 周囲に意識を向けていた友明が何かに気付いたようだ。


『見つけた?』

『うん。建物を挟んで、直線距離で十三メートル』


 標的の位置を掌握した友明は、自分と相手の距離をバディに告げる。

 愛奈は『ラジャー』と一言返し、自らが取得しているスキルの一つを発動させた。


「トモくんに加護を。フィール・ディレクション!」


 愛奈が使用したのは感覚を活性化させる補助スキルだった。




「ふぅ……」


 物陰に身を潜める歌恋が静かに息を吐く。

 いくつものビルが立ち並ぶ様からは、この近辺がオフィス街だろうと予想出来た。

 立ち並ぶ中にはコーヒーやファストフードのチェーン店などが軒を連ねており、実在する街と大して変わらない。

 変わらないからこそ、廃屋となっていることの違和感が拭えないとも言える。


『どうだ歌恋?』

『友明くんとはまだ距離が離れてるよ。大体、えーと……十五メートルくらい?』

『疑問形で言うなよ。けど、それくらいならまだ大丈夫そうだな』


 距離としては充分に離れている。それに加え、今いるのは飲食店の二階部分。

 歌恋の知るフェダーイン・ブレードの使用距離が二十メートルほど。そして、歌恋は建物内の物陰に潜んでいるのだ。

 例え今以上に距離が縮まろうが、建物に直接侵入して攻撃を行わなければ脅威とは呼べない。

 故に駿と歌恋が警戒するのは、侵入可能な建物の入り口と窓ガラスのみ。


 一面がコンクリートで出来た壁面に歌恋は背を預けていた。壁を背にしている限り、背後からの奇襲は念頭に置かなくてもいいだろう。


『一番近いガラスまでの距離で約八メートル。友明くんが屋外から仕掛けてきても、壁際のここなら軌道を見てから避けれる』

『ああ。だが油断はするなよ? 鞭のようにしならせることが出来るなら、無理矢理屋外から当てにくる可能性だってあるぞ』


 駿の言葉に歌恋は小さく頷く。


『けど、ここすごく埃っぽい……。こういうところ、あたし苦手』

『昔からそうだったよな。しかし、廃市街地の建物だからか? VRで五感に臨場感を植え付けただけだから、実際は綺麗なんだろうが……』

「けほっ」


 耐えきれず歌恋が小さく咳き込む。


 だが、そこで歌恋の勘が働いた。見開かれた目と急激に冷える神経が何かを感じ取る。肌に刺すような危機感が滲み、歌恋が顔を上げた。

 その瞬間、パリーンと渇いた音と共にワイヤーに繋がれた刀身が屋内へと侵入してくる。

 一直線に、迷うことなく弧を描いて歌恋に襲いかかる刃。


『――うそ!? 位置がバレてる!?』


 歌恋は咄嗟に横へ飛び、ザザッと音を立てて着地した。

 だが、空中で蛇行している刃は鎌首を傾げる様に転身し、止まることなく歌恋のあとを追ってくる。


『追尾攻撃!?』

『……まさか! 歌恋、視点を共有!』

『う、うん!』


 歌恋は自身の視覚を共有しながらもう一度回避。蛇腹剣はなおも追ってくる。

 自らの目で情景を把握した駿は。


『――っ! 回避は直前まで我慢しろ! ギリギリのところで水夜蛟を使って、その場から足を動かさずに避けろ!』

『や、やってみる!』


 指示された通りに切っ先が眼前に迫るまで耐える。

 肩目掛けて飛んできた刃をわずかに体をずらしてかわす。それは、歌恋の背後にあった壁へと突っ込んで停止した。


 僅かな静寂。首を動かして背後を確認する歌恋は刀身が引き抜かるのを確認。

 一気に巻き取られた刀身に当たらないようにして注意し、床を這う蛇のような動きで主の元に戻っていくそれを無言で見送った。


 何故位置がバレたのか分からない。冷や汗を流して困惑する歌恋には、刀身を掴んでどうこうしようなんて気すら起きなかった。

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