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第3話 特別な力

「えーと守住くん……まずはいきなりのことで申し訳ありません」

「あっ、はい――じゃなくて! ちょっと驚きましたけど大丈夫です」


 春日部先生の謝罪の言葉を聞き、俺は取りつくろうように返事をする。


「驚かすだけならともかく、ケガまで負わせてしまうなんて……」

「でもまあ、それほど酷くなくて良かったねぇ」

「よくありませんよ! PTAに言及なんてされたらどう説明すれば……」


 卜部先生の他人事じみた言葉に春日部先生が怒った。かと思いきや盛大に溜め息をつく。

 自分のことで空気が悪くなるのはなんかなぁ。と思い、ここは質問をしてみることにした。


「あの……これって、この学園特有の転校生歓迎のイベントとか、そういうものなんですか?」

「ち、違います! あなたの場合はその、特別で。学園長直々の案なんです」

「学園長直々?」

「ええ、その辺りから教えますね」


 ゆらゆらと花びらが降り注ぐ桜並木。その道すがら、春日部先生が説明を始めた。


「まず、あなたが先ほど使用したリンクは普通ではありません」

「やっぱり自分に使うのって変なんですよね?」

「当たり前だ。教師である俺たちでも見たことがない。普通はあんなこと出来んぞ」

「わたしたちが聞かされていたのは、複数の相手へ同時に接続する力だったからね。確か、学園長は『マルチリンク』と呼んでいたかなぁ」

「……マルチリンク?」


 マルチ。複数という意味の言葉。

 そういえば、さっきも寮内でそんなことを言っていた気が。


「本来、リンクというものは互いの心を繋ぐのが主な力。身体の強化は副産物とされています。そして、この力は一人につき一つまで使える。繋ぐとは――リンクというコードを、互いの体に備わったプラグに刺し合っている状態なんですよ。つまり、Aという人間がBという人間に繋げている状態では、Cという人間が新たにどちらかへ繋ぐことは不可能なんです」


 リンクの特徴を春日部先生が流調に語っていく。


「ですが、あなたにはそれすらも可能とする力。マルチリンクと定義された力が使える。あなたは同時に何人もの相手と接続出来るんです。それだけでも異質ではありますが、加えて自分自身にも繋げていた」

「マルチリンクか。そもそも、どうしてそんな力が俺に?」

「それは知らん。お前の能力だ。自分で調べてみろ」

「新土先生ー。負けたからって大人気(おとなげ)ないんじゃないかい?」


 なんて卜部先生が挑発的な発言をする。

 それを聞いた新土先生がこめかみに青筋を浮かべていた。


「まあ、わたしとしては君が使った技? も信じられないけどねぇ」

「我禅流武術ですか?」

「そうそれ!」

「……ッ」


 俺の言葉に質問した卜部先生が頷く。


 うーん、どう説明したもんか……って、なんか春日部先生が難しい顔をしている?


「で、どんな感じなんだい?」

「あ、えっと……我禅流武術は小さい頃から通っていた道場で習いました。それで、俺が使っていたのは気を用いた技なんです」

「ん? 気とは、あの気功術とか呼ばれるやつか?」

「はい。そういうものです。我禅流は、内外にある気を媒体にして技へ転用してるんです。気が含まれる言葉。電気とか空気とかに変化させられます。それを攻撃と共に放出したりするんです」

「へー……それが技のカラクリな訳か。よく分からないけど、なんかすごいんだねぇ」


 理解してない顔の卜部先生が頭を掻く。


 卜部先生の態度もそうだけど、やっぱり大抵の場合は信じてもらえないよな。

 まあ、事実は小説よりも奇なりって言うし。俺だって習っていなきゃ半信半疑だ。


「――到着しました。守住くん、ここが星燐学園の第一校舎になります」


 いつの間に着いたのか、春日部先生が立ち止まった。俺も同じように巨大な建物の前で止まる。

 ある程度は予想していたが、改めて校舎を見上げて顔をしかめてしまう。


「でかっ!?」


 うん。あまりの大きさに、驚きと共に間抜けな感想が口から出た。


「初めて校舎の前に立った生徒はみんな君みたいな反応をするね」

「まあ、端から見たらバカ丸出しだがな」


 と言われても困る。実際にでかいのだから驚くのも仕方ないじゃないか。


「リンク能力を開発するために建設された養成校。それがこの星燐学園になります」


 同じように校舎を見上げた春日部先生がそう話す。

 それに続く形で卜部先生も口を開いた。


「リンクに目覚めた多くの少年少女を受け入れる都合上、校舎が第一から第三の三つが建造されている。それは君も知ってるよね?」


 俺はその質問に頷いた。これは島に来る前から知っている情報だ。


「この島が定員としてるのは五千人ほどだ。実数値、第一校舎では千数百人ほどの学生が在籍していることになる。同年代のリンク能力者と比べ、この定員数は狭き門だと言えるな」

「そうそう。倍率が結構高いんだよねえ。むしろ、君みたいに中途で引き抜きをしたのは前代未聞なのさ。ウルトラレアケース」

「という訳だ。分かったか? お前がいかに特殊な生徒なのかが」

「え、ええ……」


 新土先生の言葉に対して少し気後れした。なんというか、俺ってものすごいイレギュラーな存在なのか?


「で、最初の話に戻るのさ。君への襲撃は、特別視されるその実力を学園長が知りたかったから。上層部からそんな指示が出るほど、プロジェクト側の君に対する関心があった。と理解して欲しいね」

「な、なるほど。合点がいきました」


 漫画やゲームとかであるトライアルテストみたいな感じか? にしても、もう少しやり方ってものがあるでしょ。


「さて、長話はここまでにしましょうか。守住くんにはこれから学園長に会う予定になっています。なので、保健室ですぐに治療しちゃいましょう」


 春日部先生を先頭に校舎へ入ると、そこは近未来的な内装になっていた。

 清掃されて塵一粒も落ちていない廊下。手垢一つすら付いてない窓が、日の光を反射し、外の景色を鮮やかに映し出している。


 しかし、ここにも他の生徒はいなかった。そんな状況に首を傾げながらも俺は三人の後ろを歩く。

 廊下を歩いて数分。スライド式のドアが自動で開くと、先生たちから招き入れられる形で、俺は保健室へと入った。


「さあ、面倒だが治療するぞ。俺の治療費は高いから覚悟しろよ!」

「え? 治療費出るんですか?」

「いやいやぁ、もちろん無料だからね守住君」


 なんて会話をしながら手首の治療が開始される。

 とはいっても、湿布を張ってテーピングを巻く程度しかないけどな。


「さっきから気になっていたんですけど、他の生徒はどこにいるんですか?」


 手首に湿布を貼られつつ、俺は手持ち無沙汰だったので質問をしてみた。


「ああ、そのことですね。実は他の生徒たちには各会場などに出向いてもらっているんです」

「会場?」

「学園の敷地外には色々な施設があります。今回の計画は戦闘を含めた内容でしたからね。寮での騒動を考え、第一校生には敷地内から退去してもらっていたんです」


 あの襲撃のために一校分の生徒を敷地外から追い出したって? 嘘だろ……。


「ち・な・み・に、寮のエントランスにカメラが設置されているんだけどね。さっき確認したら、誰かが映像をウェブにアップしてたみたいで、校外にいる子たちでも()()()を通じて視聴してたらしいよ」


 説明をしながら、悪戯する子供のような笑みを浮かべる卜部先生。

 その『パポス』ってなんだ? てか、寮での一連の出来事が生中継されていた?


「……あの、その話マジですか?」

「マジマジ!」

「うへぇ……」

「まあ、実質俺一人で相手をしたようなもんだったがな。未知のリンクを使ったとはいえ、獲物無しの格闘術だけで俺に勝ったんだ。これからが大変だぞ転校生。せいぜい頑張り給えよ、スーパールーキーの守住駿!」

「痛あっ!?」


 治療が終わった合図なのか、新土先生がテーピングを巻いた手首を叩いてきた。


 くっそ! 絶対わざと叩いた! 負けたの根に持ちすぎだろこの人!


「あーらとーせーんせー……!」


 それを見た春日部先生が、フルフルと体を震わせて怒りをあらわにする。


 寮での雰囲気的に悪魔かと思ったけど、本気で今のことを怒ってくれている。やっぱり春日部先生は天使だったんだな。

 この人が担任なことを心から喜ぼう。うんうん。


「こんなんで目くじら立てんなよ春日部。シワが増えるぞ」

「あ、ちょっ!? い、一旦落ち着こう春日部先生!!」


 当たり前だが、琴線に触れられた春日部先生が無言で飛びかかる。しかし、卜部先生が間一髪で羽交い絞めにしたことでそれは阻止された。


 なんというか、この三人がトリオ漫才をする芸人な気がしてきたなぁ。と思う俺がいる。


「あの……先生方、このあと学園長に会うって話じゃありませんでしたっけ?」

「はっ! そ、そうでした! こんな毒舌教師に構っている場合じゃありませんね!」

「はいはい。毒舌教師で悪かったな。さっさと行け行け! この生真面目説教教師!」

「あーもうっ!」

「だから、春日部先生は少し落ち着きなってば! というか、新土先生は一緒に行かないのかい?」


 再度噛みつきそうになる春日部先生を羽交い絞めにし、卜部先生が毒説教師に尋ねる。


「面倒だからそこまで付き合わねーよ。俺もケガ人だから治療しなきゃいかんだろ。てか、あのおっさん苦手だから一緒に行きたくねえんだよ……」


 そう言いながら、毒説教師はシッシッと人払いするように手を振る。

 俺たちはそんな新土先生一人残し、学園長室へと足を運んだ。

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