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第19話 特別な力の使い方

 暖かな日が差し込んでまぶたに刺激を与える。同様に耳にも。


「駿ちゃ――起――遅刻――ゃう――。ねえ、起き――」


 と小さい頃から知っている声が聞こえてきた気がする。誰だっけ……?

 二つの刺激を受け、俺は億劫な気分になりながらもまぶたを開いた。


「……うぅ? ……あと五分……」


 しかし、湧き上がる欲求には抗えない。

 惰眠を貪りたい衝動から『あと五分だけ』というセリフが口から出て、まぶたがゆっくりと閉じた。


「だ、ダメだよ! もう朝食の時間すぎてるから起きないと!」


 だが、そんな俺の要望は却下された。

 うーん……今日の友明は中々に食い下がるなぁ。

 野々宮のときは放置するくせに……。


「もう! 起きてってば駿ちゃん!!」


 より一層大きな歌恋の声が脳へと響く。

 ――って駿ちゃん? 歌恋なのか!?


「ねえ駿ちゃん!」

「わ、わかった! わかったから耳元で怒鳴らないでくれ!」


 歌恋の訴えを聞いて俺はベッドから起き上がる。

 伸びをしながら大きくあくびをし、昨夜のことを思い出す。

 そういえば、歌恋との通話を切った記憶がない。


「ふぁああ! てか何時だ……?」

「えっと、今は七時三十八分だよ」

「……マジか。というか、友明も野々宮もいねえし」


 星燐学園の朝のHRは八時からだ。

 今の時間から逆算しても、現状では、あまり余裕があるとは言えない。


 寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、ベッド横にあるサイドテーブルに一枚のメモ用紙があることに気付く。

 俺はそれを手に取り、口に出して読み始める。


「えーと何々? ……起こしても起きなかったから先に食堂に行くね。一応、お土産として何個かパンとかを持ち帰るつもりだから、起きるのが遅かったら部屋で待ってて。……だそうだ」

「それって友明くんの書き置き?」

「だな。今頃はもう飯を食い終わったところか……ふああぁぁ……!」


 俺は再度あくびをして頭を掻く。

 顔洗って目を覚まさないとダメだなこりゃ……。


「そういえば、あいさつがまだだったな。おはよう歌恋」

「あ、うん。おはよ駿ちゃん」


 気だるげな気持ちを振り払うようにしながら、俺は歌恋とあいさつを交わす。


「というか、駿ちゃんはあたしと通話状態なのを疑問に思わないの?」

「え? あー……あのまま切り忘れてたみたいだな。すまん。迷惑だったか?」

「ううん、だいじょぶだよ。むしろ、駿ちゃんの寝息が聞けて嬉――うぅ……!」


 恥ずかしくなったようで歌恋は言葉を濁して呻く。その反応に、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。


「あ、いっけね! あんまり時間かけるとあいつらが戻ってきちまう。その前にさっさと着替えるか」

「……ふぇ?」


 俺は立ち上がり、壁にかけていた制服を手に取って着替える。

 衣服が擦れる音やベルトの金具の音が、静かな部屋の中で聞こえ始めた。


 えーと、一時間目の授業ってなんだったっけか?

 今日の予定を思い浮かべながら着替えること数分。着替え終わった俺は歌恋に話しかけた。


「着替え終わったぞ。…………歌恋?」

「もういい。切る」

「へ?」

「――ッ駿ちゃんのバカ! エッチ! エロい妄想させる変態!」

「は? エロい妄想させるっ!? お、おい歌恋! ……って、切れてるし……いや、うん……」


 理由は察した。さすがにそこまで鈍感なつもりはない。

 音しか拾えない通話状態で異性が着替える音が鳴ってたからな。そのせいで余計に意識させちまったんだろう。


 寝起きで頭が働いてないのもあり、小さかった頃のクセが出ちまったみたいだ。


「起きてる駿くん?」

「お? おう、おはようさん」


 歌恋に申し訳ないことをしたな。なんて思っていると、戻ってきた友明たちが袋を手に戻ってきた。

 さてさて、病院でどうやって顔を合わせるべきかと考えながら、俺は友明から受け取ったパンを口に詰め込むのだった。




 本日の授業も無事終了。教室の中が段々と慌ただしくなっていく。

 明日が土曜日ということもあり、いつも以上の賑わいだ。


 そんな教室をあとにして、俺は友明たちと落ち合った。集合場所は、校門から少し離れた場所にあるバス停だ。


 時刻表を確認すると、波ヶ浜病院行きのバスが来るまでまだまだ時間がある。

 仕方なしとため息を吐き、ベンチへと座ると、横に腰かけた友明が話しかけてきた。


「駿くん大丈夫? なんか、今日は調子よくなさそうだけど」

「あー……なんというか、あまり今日の記憶がないんだよなあ」

「そうなの? 無理しちゃダメだよシュンくん。ていうか、カレンちゃんと何時まで話してたのだ?」


 愛奈の問いかけに、俺は組んだ足に頬杖を突いて答える。


「確かー……二時くらいだったか」


 俺が覚えている限りでは、それくらいの時間だったはずだ。まあ、プラス三十分くらいかもしれないが。


「結構遅くまで起きていたのですわね。寝不足は美容の天敵ですわよ?」

「早寝早起き病知らず……」

「病気はともかく、美容なんて意識してないから構わねえよ」

「あはは! 確かに駿くんは気にしないか!」

「おい友明!」


 そんな高校生らしい身にもならない雑談が交わされる。

 だがここは学園島だ。話題として上がる雑談にリンクについての内容が出てくることも日常的なもの。


「ふと思った。もりずみ君のマルチリンクってどんなの……?」


 野々宮が不意に口にした話題もそれだ。


「あ! 私もそれ気になる! 結局のところ、普通のリンクと何が違うべさ?」

「確か、複数の相手と繋げれるって話だったよね? まだバスが来るまで時間があるし、ここにいるメンバーで試してみない?」


 便乗する形で愛奈と友明も続けて口を開いた。

 まあ、なんだかんだで試したことなかったからな。どんなものか俺も気になっていたところだ。


「だな。一回やってみるか」


 口を挟まなかった榊坂も気になっていたようで、反対する意見は上がってこなかった。

 で、俺が立ち上がるのを皮切りに他のやつらも立ち上がり、向き合うようにして円陣を組む。


「えーっと……歌恋意外と繋いだことがないんだが、やっぱり、バディ以外に繋ぐときは手順が違ってくるのか?」

「そうだよ。バディとして登録してない相手とリンクを繋ぐ場合、相手の体の一部に触れていないといけないんだ」

「ほー……初耳だな」


 友明から初出の情報。非バディは接触状態じゃないとダメ、と脳内にメモしておく。


「バディの登録をすると、学園所有の人工衛星にデータが送られるんだ。そのデータを登録している場合、パポスを通じ、バディ同士での非接触状態によるリンクが可能になるのさ」

「更に言いますと、例えバディ相手でも、島外でリンクを繋ぐときは接触してないといけませんのよ」


 ふむふむ。基本的にはリンク自体は接触状態じゃないと使用不可。しかしバディなら、島内限定で距離が離れていても繋げられる。

 二人の話を要約すると、こういうことだな。


「俺はお前ら四人に触れた状態じゃないと、マルチで繋がる以前にリンクすら出来ない訳か。ちょっと面倒だなぁ」


 納得する俺の声を聞いて友明が頷く。だが、実際にやってみないことにはなんとも言えない。

 試しに、俺は隣に立つ友明に手を差し出した。もちろん手を繋ぐためだ。

 友明がその手を取って握手完了。


「んじゃあ、いくぞ。リンクドライブ!」


 俺の体から緑の粒子があふれ、友明の足元から出現した魔法陣がスキャニングを開始する。

 それを見て「寝ているときはどうなるんだ?」と疑問が口から出たが「その場合は魔法陣が大きめのものに広がるので問題ありませんわ」と榊坂が答えてくれた。


『……っと、これでいけたか?』

『うん。ちゃんと成功してるよ』


 深層心理下で友明の会話が交わされる。どうにか無事に成功したようだ。


「オッケーだ! じゃあ、次は――」

「はいはいっ! 次は私がやるっ!」

「おう。いいぜ」


 俺は友明との握手を解き、今度は愛奈の手を握りしめた。




 そんなこんなで数分後――。


『なるほど! 本当に複数人でもテレパシーが使えますわね!』

『ルナちゃんの声が聞こえるー! やっほールナちゃんっ!』

『やっほーですわ!』

『あはは! 一気に騒がしくなったね』


 口を開かないまま、互いに手を振り合っている愛奈と榊坂。

 そんな二人のやり取りを見て友明が笑っていた。


『騒がしいというか、慌ただしいというか……すごくうるさい……』

『まあ、今回は俺も野々宮に賛成だな』


 脳内で複数の声が飛び交っている状態だ。

 現状、五人同時によるリンクが繋がってるから、会話が騒がしくて仕方がない。


『なんというか新鮮だよね。同時にみんなとリンクするなんて状態がさ』


 との感想は友明だ。


『だよねだよねっ! みんなと一緒にテレパシーとかワクテカが止まらないのだっ!』


 興奮した様子の愛奈は上げた手を左右に揺らしている。そのうち誰かに当たりそうだ。


『でもよ。最近というか、直下で似たような状況を体験したような気がするんだが……』

『……ねえこれ、グループ通話と何が違うの?』


 俺が抱いた疑問に続き、野々宮が糸目になってテレパシーを飛ばしてきた。


「……あー、それですわ」

「僕も感じてたけど、昨夜したルネの通話と一緒だよね、これ」


 なんとも言えない顔をする榊坂と友明が、揃って苦笑いをしている。


 複数人での脳内会話。つまり、テレパシーが行えるのは間違いなく前代未聞なんだろう。

 だが、ルネのグループ通話を行った俺たちにとっては、端末を使わない以外に大差がなかった。


 あえて違いを上げるのなら、口を開かず、声も出さずに会話が出来、互いの内心が察せられるくらいか。


「なあ、みんな……俺の持つ特別な力ってなんなんだろうな……」

「駿くん!?」


 儚い気持ちになった俺は、悟りを開き、太陽を見上げて黄昏た。

 初日に教師陣から特別云々と言われたが、そんな気がまったく起きない件。


 ボーッとする俺の心中を感じ取ったのか、みんなが慌てたように慰めの言葉をかけてきた。


「あ、ほら! シュンくんお得意のペインリンクとかあるじゃん! 複数なら負担を分担し合ったり出来るし、バトルに余裕が生まれるのだ!」


 口火を切ったのは愛奈だ。

 両手を上げ、ぴょんぴょんと小さな体で跳ねている愛奈。本人としてはすごさをアピールしているらしいが、今の俺の心には届かない。


「作戦とか考えるときも楽だよね。三人寄れば文殊の知恵って言うしさ」

「お二人の言う通りですわね。……しかし、リンクバトルは二人一組での参加。三人以上でリンクバトルを行うバディなど、聞いたことがありませんわ」


 悩ましげな表情で榊坂が告げた。


 確かに、試合中に愛奈や友明が言ったようなことが出来れば有利に働く。だが、リンクバトルはあくまで二人一組のバディ制だ。

 やっぱり、三人以上のバディチームなんてものも前代未聞なんだろうな……。


「……おれ気付いたんだけど」


 そんな中、おもむろに野々宮が口を開いた。

 気付いたということは、要するに不意な状況で頭に浮かんだということ。

 即ち、それはリンクを繋いでいた俺たちにも、意図せずに伝わってしまった訳で。


「……マルチリンクってバトルでは役立た――」

「シャーラップ拓哉!」

「え? 待っ――うぐっ!?」


 神速の如き榊坂の手刀が無防備な首元へと振り落とされた。

 鋭利な一刀をもって野々宮の意識が吹き飛ぶ。しかし、リンク下でも野々宮の奴が反応出来ない速さで打つとは……南無三。


 んで、力が抜けて倒れそうになる野々宮を当たり前のように友明が支える。これも榊坂が手刀するのを勘付いたからの芸当らしい。


『おー! タクヤくんのリンクだけが途切れちゃってるのだ』


 立ち上げているパポスの画面上から、野々宮に繋がれていたリンク係数の表示だけが消えていた。


「ふう……危ないところでしたわね」

「だね。バレなくてよかったよ」

「いやさ、お前らに伝わってるってことは俺にも伝わってるからな……!」


 結論として、マルチリンクは今のところバトルではあまり役に立たな――活用出来そうな方法がないようだ。

 俺はまた、太陽を仰いで黄昏ることにした。太陽光が目に染みるぜ……。

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